case5-1 女神・有巣香澄


ピンポ~ン♪



香澄さんとの家デートの当日。

浮かれながら準備をしていると、定番になったインターフォンの音が鳴った。



「おはようございます。」

「おはよ。」



でもそれも今日で最後だ。

これまでの感謝も込めて俺は相沢をいつもより心なしか丁寧に案内して、こないだと同じドリンクを出した。




「ありがとな、色々と。」




いつもはそのまま準備を始めたりするんだけど、やっぱり最後くらいは顔を突き合わせて話をしようと思って、相沢の前に座って言った。



「おめでとうございます。」

「ありがとう。」



貸してもらっていたスマートウォッチを手から取って、相沢の前に置いた。するとそれを見て、相沢は不思議そうな顔をした。



「まだ、使いますよ?」

「え?」



俺は相沢よりもっと不思議そうな顔をしていたと思う。すると相沢はいたって真面目な顔をして、出したドリンクに口をつけた。



「最後の一人が残ってるじゃないですか。」

「はい?」



意味が分からなくて、疑問がそのまま口にでた。すると相沢はそんな俺を見て、少し驚いた顔をした。



「もしかして、

有巣様の攻略も、

終わったと思ってます…?」

「はい、もちろん。」



だって俺の目的は、香澄さんと付き合う事だった。

凜香と最後に会う前にその目的なんてとっくに達成してしまったから、このプログラムは終了したと、そう思っている。


すると相沢は俺の返答を聞いて、深くため息をついた。



「付き合うだけでいいんですか?」

「はい?」



何が言いたいのか、全く意味が分からなかった。相沢は俺の疑問なんて無視して、いつも通り履歴書みたいなものを鞄から取り出した。



「確かに、

お二人はお付き合いされています。」

「はあ。」



付き合っていること自体勘違いだったのかと心配していた俺は、その言葉を聞いてひとまず安心した。でも相沢は淡々と、話を続けた。



「でも有巣様の気持ちは、

本当に佐々木様に向いてますでしょうか。」

「えぇ…っ?」



そんなの俺が一番聞きたい。そう思った。



「では質問を変えます。」



疑問だらけの俺の頭を読んで、相沢は言った。何を聞かれるのかと、思わず身を乗り出して身構えた。



「一度でも、

有巣様が"好き"という言葉を

口にされましたか?」



そう言われて、今までのことを思い出してみた。

付き合おうかと言ったのは、香澄さんの方だった。でも確かにあの時も、香澄さんは俺に"好きだ"とは言わなかった。そしていくら思い返してみても、"好き"という言葉を聞いた覚えがなかった。



「いやでも、

好きって言わない人もいるだろ。」



好きだと、口に出さないタイプなだけなのかもしれない。そう言ってせめてもの反抗をしてみると、相沢はまた大きなため息をついた。



「有巣様は素直な方ですよね。」

「そう、ですね。」

「それが何よりの答えだと思いますが。」



痛いところをついて、相沢は言った。かと言って、俺だって今回は納得がいかなかった。



「いやだったらなんで

付き合おうなんて言ったんだよ。」



確かに俺は香澄さんに"好きだ"と言った。

でも付き合おうと言ってくれたのは、絶対に香澄さんの方だ。



「それを考えるのは、

私の仕事ではありません。」



相沢はそう言って、履歴書を俺の方へと近づけた。



「上辺だけでいいのであれば、

ここでプログラムを

終了していただいても結構です。

ですがもう一度、

よく考えてみてください。」



何をだよ。

そう思いつつ、相沢のいう事を断りきれないってことは、多分自分でも引っかかっていることがあるからなんだと、なんとなくわかっていた。



「っていうかさ、

俺、凜香に"キスしてほしい"って

言わせてないよ。」



そう言えばそれ以前に、もう必要ないと思っていたから、凜香の攻略をしっかりと終わらせていない。すると俺の言葉を聞いた相沢は、今日初めてにっこりと笑った。



「最初に説明した通り、

"キスしてほしい"のような言葉を

心から言わせれば成功です。

昨日白石様は"キスしてほしい"と言いかけて、

その言葉を飲み込まれました。」

「なるほど。」



途中で言いかけてやめたあれは、そうだったのか。もし言われていたらと思うとどうすればいいか迷ってたなと思うと、やめてくれてよかったと思った。



「よって、

成功とみなされたと考えられます。」

「はあ…。」



それが分かったところで、香澄さんとのことが分かるわけではなかった。

相沢はやっぱり気持ちを置き去りにしたまま、ドリンクを飲み干して立ち上がった。



「私のアシストよりも、

最近は他の方からのアシストも

上手に受けられていますね。」



そう言えば無意識だったけど、最近行き詰ったときは、相沢より潤奈や環希さんに相談をしていた。



「とてもいいことだと思います。

彼女たちは、

有巣様の気持ちも

よく理解できると思いますので。」



そこで潤奈に言われた、"香澄さんには何かある"という言葉を思い出した。

まだ何があるのか突き詰めてなさすぎて相談できる段階にもいなかったけど、なにかあったらまた頼ってみようと思った。



「それにプログラムが終われば、

私のアシストはもう受けられません。

ずっと受けられる方に相談される方が、

今後もお世話になりやすいと思いますよ。」



相沢はとても明るく言ったけど、俺はなんだか少し悲しい気持ちになった。



「あ、そうだ。

忘れてました。」



俺が相沢との別れを察して悲しんでいるなんて気づきもせず、靴を履いた後相沢は思い出したように鞄を漁り始めた。



「これ、忘れてました。」



とてもあっさりした顔をして、相沢はきっちりした皮の鞄からコンドームを取り出した。



「どうぞ、お使いください。」

「お前なあ。」

「本日、お家に行かれるんでしょう?」


呆れて見せてはいたけど、家に行くっていうのに何の用意もしようとしなかった自分を、少し恥ずかしく思った。


中学生じゃあるまいし、今日、香澄さんに、その…。

手を出してしまっても、いい、のか…。



「それでは。検討を祈ります!」



考えただけで手が震えてちゃんと出来そうにない。

俺が動揺している間に去っていった相沢の影が消えるまで、俺は渡されたゴムを眺めてその場に立ち尽くしていた。







「いらっしゃい。」




相沢に文句をいいつつ、ちゃんと鞄にはゴムを入れてきた。

なんだか後ろめたい気持ちを抱えながら立っている俺とは反対に、香澄さんは曇りのない笑顔でドアを開けてくれた。



「お邪魔、します。」

「どうぞ~。」



相変わらずいい香りが漂う聖域に、俺はそっと足を踏み入れた。



ここが、俺の、彼女の、家だ。

彼女の…、家だ。




相沢に色々と言われて複雑な気持ちはもちろんあった。

でもやっぱり嬉しいことは嬉しくて、自分に言い聞かせるみたいに何度もそう言ってみた。



「ね、何飲む?」



そんな俺の気も知らないで、彼女は、いや、香澄さんは無邪気にそう聞いた。

今日は酒でも飲んで意識を飛ばさないと、香澄さんの魅力に倒れそうだ。そう思って酒を買ってきた俺は香澄さんのビールを手渡して、「コレ、飲もう」と言った。



「よっしゃ~!

みるぞ~!」



香澄さんは謎の気合を入れて、俺が来る途中で借りてきたDVDをデッキにセットした。テレビは俺の家のものより数倍大きい画面だったし、ソファはもう一生座っていられるくらいふかふかだった。


そんな些細なことにも敗北感を抱きつつ、持ってきたビールをいい音を立てて開けた。



セットを終えた香澄さんも、俺の横に腰を下ろしてビールを勢いよく開けた。俺たちはビールの缶を軽く合わせた後、しばらく集中して映画を見ていた。



そう言えば潤奈とも、こんなことがあった。

あの時は襲われてしまわなかって心配していたけど、今度は自分が襲わないか心配になっていた。香澄さんの手は俺の手のすぐ横に置かれていて、白くてやわらかそうな手を、触ってみたくてたまらなかった。



いや、ダメだ。



――――いや、いいだろ。




この人は俺の彼女だ。彼女の手くらい握れずにどうするんだ。中学生か、俺は。



俺は意を決して、自分の手をゆっくりと香澄さんの手に重ねた。すると香澄さんは俺を見上げて「ふふ」と笑って、手を握ったまま、その身を俺の方にゆだねてきた。



やっっばい。

いい匂いすぎる、かわいすぎる、小さい、ふわふわだ、やばい。



映画の内容なんて、全く入ってこなかった。香澄さんは集中してみているみたいだったから邪魔は出来なかったけど、徐々に俺の下半身はコントロールを失っていた。



ダメだ、これじゃ潤奈のこと、怒れない。

紳士になるんだ、俺。



そこから1時間くらい、俺は自分を鎮めるのに必死だった。

監督並びに出演者の皆様には申し訳ないが、もう映画のことは一切覚えていない。



「はぁ~~。

めちゃくちゃ感動したね。」

「そ、そうだね。」



映画が終わって、香澄さんは大きく背伸びをしながら言った。いつも思っているが、改めて天使かと思った。



「つむくんも面白かった?」

「うん、もちろん。」

「どの辺が?」



俺のおかしな様子を察したのか、香澄さんは俺に顔を近づけながらそう聞いた。

見ていなかったから当然その質問にはっきり答えられないのと、香澄さんの天使みたいな顔が近くにあることで、俺の動揺はマックスまで高まっていた。



「やめて…っ。」



これでは心臓が破裂する。

これ以上近づいてほしくなくて、俺は自分の手で顔を覆った。すると香澄さんはその手をそっとどかした。



「なんで?」



上目づかいで首を傾げたこの人を、拒否できる人がいたら教えてほしい。

俺はその香澄さんの驚くくらい小さい顔に右手を添えて、「キスしたくなるから」と言った。



「いいよ。」



香澄さんはそう言って、俺の右手に、自分の手を添えた。もうそのまま押し倒してめちゃくちゃにしたい衝動をおさえながら、俺はゆっくりと、香澄さんに触れるだけのキスをした。



唇を離すと、香澄さんは恥ずかしそうにうつむいた。

もうその顔を見たら我慢が出来なくなって、あごをもって顔を俺の方に向けて、今度は深いキスをした。



「…んっ。」



出来るならもう、このまま飲み込んでしまいたい。全部全部俺のものにして、誰にも見せたくない。



いきなりわがままな独占欲に襲われた俺の右手は、今度は天使のふくらみに向かいそうになった。するとその瞬間に、香澄さんのお腹が「グゥ」っと音を立てた。



「もう…っ、空気読んでよ…っ。」



そう言ってハニカム香澄さんが愛おしくて、俺はそのままギュっと抱きしめた。

本当は俺の本体が元気に反応していたけど、頭でなんとかそれを制御して、「ご飯にしようか」と言った。




「今日は何作ってくれるの?」

「今日はね、ライスコロッケ。」



あの日、ライスコロッケの作り方を環希さんに習っていた。

そして香澄さんに作るために何度か家で練習していたから、俺は手際よく食材を並べて調理を始めた。



「なんか手伝うよ~。」

「いやだ、

油が飛んだら危ないじゃん。」

「もうっ。大丈夫なのに。」



香澄さんが悲しそうな顔をするから、俺はまたサラダを作るって役を香澄さんに与えた。ベビーリーフも香澄さんが洗うだけで、よりフレッシュになりそうだなと思った。



「つむくん。」

「ん?」

「あ~ん。」



真剣に調理をしていると、香澄さんは切っていたミニトマトの半分を俺の口元に持ってきた。


「ねぇ、香澄さん。」

「ん?」

「わざとなの?」

「なにが?」


あざとすぎる。

でもそのあざとさに乗せられて溺れてしまってもいい。むしろ溺れたい。


そう思いながら、香澄さんの手に握られた真っ赤なトマトを口に含んだ。



「え、あっま。」



香澄さんから「あ~ん」してもらうと、ミニトマトも甘く変わるのか。不思議だ。この人は常識みたいなものを変えるほど、女神ってことか。



「でしょ?

このフルーツトマト、

ほんとにフルーツみたいだよね。」



俺の考えを否定するみたいに、香澄さんは言った。でもフルーツトマトだとしても、このトマトは香澄さんから食べたおかげで、甘く変わっているはずだ。



終始バカなことを考えている間に、調理は無事終了した。いつもはテキトーにしか盛らないけど、今日は香澄さんの家にあるキレイなお皿にキレイに盛り付けをした。するとそれを見た香澄さんは、嬉しそうに「おいしそう」と言って笑った。かわいい。




「いただきます。」

「いただきます。」



これ以上お酒を飲みたくなかったけど、映画を見ながら飲み終わったビールの酔いはとっくにさめていた。酔っていないと今後の展開に迷ってしまいそうだと思って、香澄さんが出してくれたシャンパンを何も気にすることなく飲んだ。



「おいっし~っ!

やっぱりつむ君天才だ!」

「ほんと?嬉しい。」



まるで男女逆転したみたいなセリフを言って、俺たちは笑った。その頃にはすっかり相沢に言われたことなんて忘れていて、純粋にその甘い空気を楽しんでいた。



「ね、明日さ、

買い物行きたいんだけどいい?」

「うん、いいよ。

何買うの?」

「う~んっとね、

洗剤とか色々一気になくなりそうで。」

「なんで日用品って

一気になくなるんだろね。」

「わかる~。」



こんな会話をしていたら、なんだかカップルみたいだ。

いや、カップルなんだ。まぎれもなく、俺たちはカップルだ。


確かにまだ一度も、香澄さんは好きと言ってくれない。でもカップルならそれでいいじゃないか。


香澄さんといると、何もかもどうでもよくなる。もう香澄さんさえここで笑って生きていてくれれば、それで満足だ。だから俺は明日も、香澄さんが行きたいという場所に犬みたいについていく。



明日…。

明日?



「えっと、さ。」

「ん?」

「今日、

泊まって、いいの?」



何もかもどうでもよくなるとは言ったけど、ここまで考えなしの自分が嫌になった。昼過ぎに集まって、一緒に映画を見て、そしてご飯を食べて、帰ろうと思っていたのか。


いや、帰ろうと思ってたというか、何も考えてなかったが、正しい答えだ。



するとそんな俺の疑問を聞いた香澄さんは、尊い笑顔でニコッと笑って「もちろん」と言った。



「てか帰るつもりだったの?」

「いや…。」

「もう。」



香澄さんはなぜか膨れて俺を見た。

なぜ膨れているかはわからなかったけど、かわいかったからそのままにしておいた。



「もっと自覚持ってよね!」

「自覚?」

「そう。

付き合ってる、自覚。」



と、言われましても。

もちたいんですよ、俺だって。



美人には3日で飽きると言ったのが誰かしらないけど、俺は香澄さんに飽きる気配が全くなかった。むしろ接すれば接するほどかわいさがあふれ出してくるみたいに思えて、好きはどこまでも膨らんでいくみたいだった。



「わかった?」

「はい。」



素直に返事をした俺を見て、香澄さんは「ふふふ」と笑った。やっぱり好きはどこまでも止まりそうになかった。



「お皿洗ってるから、

先お風呂いいよ。」

「いや、でも。」

「ううん、

作ってくれたからやりたいの。」




香澄さんはそう言って、半ば強引に俺を風呂場に詰めた。

そこまでされては仕方がないと、俺は自分の家の倍以上ある大きな脱衣所で服を脱いで、いつもはしないけど、それを丁寧にたたんだ。



「はあ…。」



浴室に入ると、やっと一人になった開放感があった。

香澄さんといると、ドキドキが止まらなくて気持ちが休まらない。


かと言って帰れと言われても帰らないんだけど。



体を流して浴槽に入ると、足が伸ばせるくらいひろかった。

それに浴室にはなんとテレビがついていて、追い炊き機能とかそういうものも全て備わっていた。




「なんで、俺なんか…。」



美しい顔やスタイルはもちろん、仕事とか住んでいる家とか諸々。

全部考慮して考えても、香澄さんがどうして俺の彼女になってくれたのか分からなかった。考え出すと相沢に言われたことが頭にひっかかっていたことも思い出して、さっきまでの幸せマックスな気持ちが、どんどん曇りだした。



「好き、じゃないのか。」



例えば香澄さんが、別に好きじゃないのに俺と付き合ったとする。



そこには何のメリットがある?

俺はイケメンでもなければ、金持ちでもない。実家は田舎の農家だし、給料だって中の中だ。



「謎、だ…。」



謎すぎる、ミステリーだ。

体は子供、頭脳は大人な彼を呼んでも、この謎は解けそうにない。

だとしたら俺にも解けるはずがないから、俺はこれからでも香澄さんに自分のことを好きになってもらうしかない。


そこで開き直って前向きなことを考え始めた俺は、勢いよく浴槽をでて、隅々までキレイに体を洗った。




「あ…。」



そこで、気が付いた。

着替えが、ない。


夜どうするか全く考えてなかった俺は、パジャマもパンツも持ってきていないことに、風呂に入ってから気が付いた。



クソ、香澄さんに見られるのに、汚いパンツなんか履いてられるか…っ!



風呂を出てすぐに買いに走ろうと思って脱衣所に出ると、俺がたたんだ服の上には、袋に入っているパンツとふかふかのパジャマらしきものが、バスタオルと一緒に置かれていた。




「え…。」



神様、これって誰のですか?



一旦神様に問いかけてみたけど、もしこれが俺以外のものであるとしたら、香澄さんは相当やりてだと思う。それでもなんだか袖を通しづらいなと思ってはいたけど、いきなり風呂から裸で出るわけにもいかない。


小さく「すみません」と誰かに謝って、俺はパンツもパジャマもしっかりと着た。めちゃくちゃピッタリだった。




「お先、です。」

「サイズどうだった?」



ソファでテレビを見ていた香澄さんは、振り返ってそう言った。

やっぱり俺のだよなと少し安心しながら、「これ…って」と遠慮がちに聞いてみた。



「パジャマはつむ君用にと思って

買ってきてたんだけど、

さすがにパンツ買いに走るとは

思ってなかったよ。」



香澄さんはそう言ってクスクス笑った。

考えなしだった自分がさらに恥ずかしくなって、「いくらでしたか」と焦って答えた。



「いいのいいの。

食材買ってきてくれたし。」



あまりにも情けなくて、穴があったら入りたかった。男としてこんなに情けないことはなかった。


すると香澄さんはそんな俺の心情を察したのか、「つむ君」と優しく俺を呼んで、近づいてきた。



「じゃ、私のパジャマも、

買ってくれる?」

「え?」

「つむ君の家に、

私のパジャマ、置いといて。」



多分俺に魔法が使える特殊能力が備わっていたら、こんなマンションはとっくの昔につぶしている。そんなレベルでかわいくて、かわいすぎて我慢が出来なくなって、そのまま香澄さんをギュっと抱きしめた。



「ねぇ、痛いよ。」

「ごめん、

でもダメだ。」

「なにが?」

「このまま離したら

すぐに襲いそうだ。」



自分を止めるためにも、そのまま静止していたかった。それを聞いた香澄さんはしばらく黙ったまま、俺の腕の中に納まっていてくれた。



「香澄さん。」

「ん?」

「パンツも、

買っといたほうがいい?」

「つむ君が出来るなら。」



しばらくして気持ちを落ち着けて、俺はやっと冗談が言えるまでに回復した。

体を離すと香澄さんは少し顔を赤らめてニコッと笑って、「お風呂行ってきます」と言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る