27話 三姉妹の過去
サンタ協会内におけるサンタ工房の力は絶大だ。
画期的なプレゼントを生み出す技術力・創造性、そうしたサンタらしい健全な理由ではない。
理を歪める力を持った兵器である、配達道具を創り出す異端技術を保有し、秘匿し、独占しているからである。
無論、鍛え上げた完璧なサンタであれば配達道具などなくとも、凶悪な配達道具を手にしたサンタを下すことはありえる。だが現実問題として、あるに越したことはない。
『工房の利益になるサンタ組織には、良い配達道具を融通する』という工房のみに許された横暴とも言える特権が、サンタ協会内での強い権力を生み出し、それと同時に高性能な配達道具を独占することで高い戦闘能力を誇っている。
サンタ工房とは、政治的背景と圧倒的な暴力を有する、名実共に最強クラスのサンタ組織だ。
それと比較して、サンタ兵器開発局の立場は弱い。
どちらもサンタ評議会に六ある議席を一つずつ有しているという点で、表向きの発言力は同等であるが、実態とはあまりにかけ離れている。
ここ数年の科学技術の進歩による、自立兵器の誕生。その開発の最前線を走ったのは、兵器開発局だ。
だが兵器開発局がサンタ工房よりも優れている点は、それだけだった。
無人兵器の誕生までは、兵器開発局の技術力は常にサンタ工房の後塵を拝し続けていた。
ここ数年でようやく通常兵器の生産においては、工房を追い抜いたが、配達道具の理を歪めるという荒唐無稽な暴力を創り出す技術と比べれば、サンタ協会内で重宝される理由が一つとしてない。
それに技術さえ確立してしまえば、サンタ工房は自律兵器などいくらでも製造できた。
サンタ工房の起源が、伝説に語られる初代サンタの時代とされる中、サンタ工房から分派した兵器開発局の歴史は二百年弱とごく短く、人的資源も、サンタ工房に比べて著しく乏しい。
サンタ兵器開発局は、サンタ工房と常に比較され、蔑まれる立場でしかなかった。
そうした中で生じた、サンタ工房の技術支援を受けたバルテカ政府軍による少数民族への弾圧。
兵器開発局はその少数民族に兵器を提供し、反政府軍を組織させた。
そうして始まった、二つの巨大サンタ組織による代理戦争であるバルテカ内戦。
兵器開発局はこの戦争に勝つことにより、サンタ工房により辛酸を舐めさせられ続けた過去を払拭し、サンタ工房を超える技術を手にすることを目指している。
サンタが介入しなければ、悲惨であることに変わりはないが、自治区を追放され、それほど多くの血は流さずに終結していたであろう弾圧が、歴史に残る凄惨な内戦へと姿を変え、今なお激化の一途を辿っていた。
サンタ兵器開発局実戦試験第二部隊、通称サンタ偵察部隊は、三人の配達道具持ちのサンタで構成されていた。
リーダーであるパイン、そしてクルミとナッツのサンタ三人姉妹。三人は代々サンタ兵器開発局の支部局長を務めている家系に生まれた上級サンタだった。
上級サンタに生まれながら、彼女達の人生は恵まれた物ではなかった。
物質的には恵まれていたが、常にサンタ工房と繋がりの強い他の上級サンタに見下され、虐げられた。
サンタ工房を裏切った、無能な逆賊の子孫という罵倒と暴力が、幼い三人を襲ったのだ。
そうした境遇の中で、三人の人生を決定付けた出来事があった。
彼女たちの両親が開発した新兵器の設計図がサンタ工房に盗まれ、その時に両親が激しい拷問の末殺害されたのだ。
三人で休日に遊園地に遊びに出かけ、夜家に帰ると、家がサンタ工房により荒らされ、兵器の設計図を保管していた金庫が破られていた。
残されていた物は、身体のあらゆる器官が破壊された両親の死体。
そこから姉妹の中にある感情はただ一つ。
サンタ工房を地面に這い蹲らせること。それだけだ。
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