第二部 懲罰サンタは挫けない プロローグ 12月21日 17:45
17話 クリスマスの思い出
幼いリコはサンタからのプレゼントを楽しみにしていた。中身はボロボロのぬいぐるみだったり、壊れかけのおもちゃだったりと散々だったが、サンタさんがプレゼントと一緒に、いつも一通の手紙を入れてくれていた。
それはサンタ規則で禁止されていることだったが、そのサンタたちはこんなプレゼントだけではあんまりだと、子どもたちを思って危険を冒していた。
ある年、幼いリコはプレゼントを入れてもらうために、枕元に吊るした大きな靴下の中に手紙を入れた。それは毎年こっそりと枕元にプレゼントを届けてくれる、姿を見ることの出来ないサンタさんに向けて「ありがとう」と書いた手紙だった。
その年から、サンタさんと年に一度の奇妙な文通が始まった。リコは今年あった嬉しいことを書き、その返事をサンタが書いてプレゼントと共に残していく
それは子どもとサンタの間にある細い関係だったが、確かな繋がりだった。
ある年、リコは手紙にサンタさんを一度見てみたいと書いた。
その年のクリスマス、夜中に目を覚ましたリコは、町の屋根を駆ける二人のサンタを目にした。彼女たちが、それとなく起こしてくれたのかもしれない。
幼いリコは、サンタがおとぎ話に登場する幻ではなく、実在する存在なのだと知った。
そして、子どもたちに夢と幸せを届けるサンタに憧れた。そのことを手紙に書いたことがあった。
「その気持ちは嬉しいけれど、やめておいた方がいいよ」
サンタらしからぬ返事だと、幼いリコは思ったのを今でも覚えている。
あるクリスマスの夜、幼いリコが目を覚ました時、家の中はとても静かだった。それなのに目を覚ましてしまった。
サンタさんからの手紙が楽しみで、起きてしまったのかもしれない。そんな風に考えて、もう一度瞼を閉じようとした。
その瞬間、枕元に立っている人影に気付いた。
それはサンタだった。でもいつもの優しい、手紙をくれるサンタではないのだと、すぐに気付いた。
右手に斧を携えたサンタの姿は、幼いリコに恐怖だけを与えた。殺されると感じた。なぜそうされるのかさえわからないままに、斧が振り下ろされた。
その瞬間だった。窓からいつも手紙をくれる二人のサンタが現れ、斧を止めてくれた。リコへのプレゼント配達を突然外されたことを不審に思い、助けに来てくれたのだ。
幼いリコにとって、サンタに殺されそうになる恐怖は、どれほどの物だっただろう。そしてサンタが助けに来てくれた安心は、どれほどのものだっただろう。
だがリコとその家族、そして二人のサンタが辿った現実は悲惨なものだった。
リコの先祖はサンタ協会の腐敗に嫌気が差し、脱退した下級サンタであった。脱退は一世紀前までは許されていたが、いまは許されない。その罪は訴求してでも裁く。それが、現在のサンタ協会の方針であった。
リコとその家族は、ただそれだけの理由で抹殺されることになった。
二人のサンタはそんな理不尽に立ち向かった。そして間に合っていた。だが、リコの家族を処刑しようとしたサンタは強かった。
幼いリコを殺そうとしたサンタは懲罰部隊であり、斧型の配達道具を持っていた。それに立ち向かう二人の下級サンタ。
優しい二人のサンタの実力は確かだったが、配達道具を所持した懲罰部隊はあまりに強過ぎた。
懲罰部隊のサンタを完全に止めることは難しく、家を破壊し尽くし、戦闘の合間にリコの家族を手にかけようとした。
それを防ごうと二人のサンタはリコとその家族を庇い続け、そして重傷を負わされる。そして怯んだ隙に、リコのお母さんは首を刎ねられた。
幼いリコはただ物陰で、二人のサンタが懸命に自分の家族を守ろうとして傷を負い、力及ばず家族が処刑されて行く光景を眺めていた。
リコはどうやってその地獄を生き延びたのか、はっきりとは覚えていない。
覚えているのは彼女が目を覚ました後のことだけ。
ガレキの山と化した自分の家。原型を留めていない家族の死体。懲罰部隊のサンタの死体。
そして四肢を失い、死を待つだけとなった、幼いリコと家族を守ろうとしてくれた優しい二人のサンタと交わした短い言葉……
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