最終話(16話) 幸せなクリスマスを……
ハイサムを退けたあと、マナちゃんの傷口を急いで塞ぎ、休める場所を必死に探した。
足がつくのを恐れてどこも予約をしていなかったが、幸運なことに一件目のホテルに飛び入りで宿泊できた。
ベッドの上にマナちゃんを寝かせて、もう一度入念に傷の手当てをする。それから追加でもう一本秘薬を飲ませる。
あの状況ではどうしようもなく、それが一番安全だったとはいえ、重体のマナちゃんを背負ったまま戦闘を行ったのは悪手だった。
袋の中はマナちゃんの血で真っ赤になっていた。体にもいくつか打ち傷があった。
守ると誓った子を傷だらけにしてしまったことが悔しい。余裕がなかった、なんて言い訳にならない。
でも、二人とも生き残れたのは幸運だった。相手が私を苦しめて殺すことを優先してくれたおかげで、マナちゃんが人質になる前に勝てた。
あそこまで万全の状況を整えていて、もし最初から全力だったら……二人とも五体満足ではいられなかったかもしれない。
軽い火傷で済んだ私はともかく、マナちゃんはリコの薬がなければ、胸の傷で死んでいた。
状況的に恵まれていた。今日はクリスマスイブだから、きっと初代サンタの加護に護られた。
「うっ……」
「マナちゃん!」
苦しそうな呻き声を発しながら、マナちゃんが目を覚ました。
このまま目覚めなかったら……そんな心配があったから、すごく嬉しい。
「大丈夫? どこも痛くない?」
「ルシアお姉ちゃん……? うん、私は大丈夫だよ。それより、ルシアお姉ちゃんこそ、怪我してるよ」
「ありがとう。私も大丈夫だよ。サンタだから鍛えてるの」
あんな大怪我をしていたのに、私のことを心配してくれる。
嬉しい気持ちもあるけど、ここまで健気で良い子だと心配になる。
まだまだ甘えたい盛りだったはずなのに、両親が死んで、あんな環境に置かれていたせいで、良い子にならざるを得なかったんだろう。
「ごめんね。もう苦しい思いはさせないって約束したのに、こんなことになっちゃって」
「ルシアお姉ちゃんが、頑張ってたの知ってるから、そんな顔しないで。助けてくれてありがとう」
マナちゃんが優しく微笑みかけてくれる。いけないことだと思いながら、それに救われてしまう。
マナちゃんを救いたいなんて言いながら、本当はこうして、自分が救われるために頑張っていた気がしてくる。
「マナちゃんは本当に良い子だね。もっとわがまま言う悪い子になってもいいんだよ」
だから、今度こそマナちゃんを救おう。年相応に遊んで、わがままを言って、勉強して……こんな風に、切ないほどに儚い良い子であろうとしなくても、いいんだと思ってくれるくらい、頼れるサンタのお姉ちゃんになろう。
「ペンダント取り返したよ」
一年前に奪われたままだった、マナちゃんの大切な思い出を、小さな手のひらに乗せる。
「……!? ルシアお姉ちゃん……大好き!」
「私もマナちゃんのこと、大好きだよ!」
腕の中にある確かな温もりに、心まで暖かくなる。
「今日は疲れたでしょ。続きは明日話そう」
でもそれに浸ってるだけではダメだ。懲罰部隊に追われていたとしても、そのことでマナちゃんに苦労させないと、誓ったのだから。
リコにマナちゃん。それに何より私自身に。
明日からのことをちゃんと考えないと。この先ずっと続けていく明るい未来を守るために。
「寂しいから、ルシアお姉ちゃんと一緒に寝たいな」
「私もそうしたいんだけど……」
「わがまま言っていいんでしょ?」
「わかった。サンタさんは、寂しがってる子どもを放っておかないもんね」
「やった!」
二人で同じ布団に潜り込んで。クリスマスの夜を一緒に過ごす。
年の離れた仲良しの妹ができたみたいで嬉しい。
こうしてお落ち着いた状態で、人の温もりに触れたのは何年振りだろう。
外の寒さが嘘のような暖かさに、次第に目蓋が重くなる。
年に一度のクリスマスの夜だから、甘えちゃってもいいかな……なんて思う私は、きっとダメなサンタだ。
「おやすみなさい」
「おやすみ、マナちゃん」
でも抵抗むなしく、マナちゃんの優しい魔法のせいで、数秒後にはまどろみに落ちていた。
朝目覚めた時、マナちゃんが、先におはようと声をかけてくれたのが、少し恥ずかしくて……頼りになるサンタのお姉ちゃんになるのは、まだまだ先のことになりそうだった。
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