第2話 プレゼント配達の準備
下級サンタ達がクリスマスのプレゼント配達に向けて準備をする、プレゼント倉庫の環境は劣悪だった。
暖房でぬくぬくとした上級サンタのプレゼント倉庫とは比較にならない。
氷点下にまで室温が落ち込み、直撃すれば命に関わる氷柱まで生えている。
そんなプレゼント倉庫の隅で私は辛うじて値がつきそうなガラクタを探していた。
半ば物置と化した倉庫の中でも、中央付近には去年の配り残しが山と積まれ、二つの大きな下級サンタの派閥のサンタたちが、死力を尽くしてプレゼントを奪い合っている。
そんな光景を冷めた気持ちで横目で見ながら、ガラクタの山を掘り返す。
私の周りにいる派閥からあぶれ、プレゼントの配り残しを漁るしかない底辺サンタの瞳に光はない。
生まれながらにどん底でありながら、協力し合うことで上を目指すのではなく、ごくわずかに残された低品質なプレゼントを奪い合い、搾取しようと目論むサンタ精神のかけらもないサンタたちの方が、ここでは生き生きとしている。
そんな風に思う私の心は室温以下にまで冷え込んでいるから、代々負けに負け続けてゴミを配ることしか許されていない悔しさに、怒りすら湧いて来なかった。
そうして二時間近くゴミ山を掘り返して見つけたのは、元は可愛かったのだろうけど綿が溢れてグロテスクな姿となったクマのぬいぐるみ。ネジの外れたロボット人形。音階のズレた楽器類。
これらは去年の私が配ることをためらいつつも、ゴミ山に何も追加がなければ来年は仕方ないけど配ろうと目星を付けていたプレゼントたち。
いよいよこれを配るハメになったかと、ため息を吐く。
しかし手に入る範囲ではこれらが一番マシなのも事実だっだ。腐敗臭がしているような物と比べたら、まだ渡せる……そう思いたい。
このプレゼントと呼ぶのもおこがましいガラクタ達を、補修の跡が生々しい白の配達袋に放り込みながら、ボロボロのソリの荷台に乗せる。
この惨状に文句を言い合えていた、去年までの私は幸せ者だと思う。
配達に出かけるまでの間は、安全なプレゼント配達方法を教え、それ以来、私に懐いてくれた後輩サンタのカナンがいたから。
このプレゼント漁りの時間も、文句を言い合ったり、見つけたプレゼントを譲り合ったり、それなりに楽しかった。
そんな彼女も下級サンタの過酷な配達任務中に行方不明になった。私は必死になって探したけど、結局見つからなかった。
去年の配達先を聞いても、誰も教えてくれない。大切な後輩を失ったことで、私の気持ちは暗く淀んだまま。
「そろそろ出発したいんですけど、配達先のリストを貰えますか」
ソリの滑走路でサンタ達の勤務を管理している監督サンタに、直前になっても貰えていない配達リストの提出を求める。
そんな私の姿を見て、高品質プレゼントを占拠しているグループが笑っているのが聞こえる。それはサンタ聴覚でギリギリ聞き取れるほどの小さな声量。
こんなこと毎年恒例なのもあるが、子どもみたいと言うと子どもに失礼なくらい、馬鹿げた嫌がらせ呆れてしまう。
「ちゃんと期日までに取りに来てくださいと、毎年言っていますよね?」
「期日までに私の分を作っといててって、毎年言ってるんだけど」
監督サンタの手に握られた配達表を奪い取り、自分のソリへ向かう。
配達実績のいい私は二大派閥に疎まれている。配達リストがギリギリまで届かないのはイジメや嫌がらせの一環。
監督サンタまで買収されているのだから、私には手の施し用がない。
でもそれはこれ以下の扱いがないのと同義。それにこうして言い返せるのだから、悪いことばかりでもない……そう思いたい。
「配達行ってきます」
形式的に監督サンタへ、出発報告しながら、自分の身一つだけで極寒の聖夜へ走り出す。
配達先を確認して、ルートをどうするか考える。
その中でこれ見よがしに印で囲まれた配達先を見つけた。印の横には『ここでカナンは行方不明になった場所みたいだよ!』という文章が添えられている。
「ここが……カナンが行方不明になった場所……」
最初の配達先が決まった。
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