第5話 放課後の二人


              ☆☆☆その①☆☆☆


 授業が終わって、二人で帰路につく。

 美尋はクローン戦士として、いつ戦いになるか分からないし、戦闘のための訓練もあるし、基本的に部活よりも帰宅部にいたいので帰宅部だった。

 ツンとソッポを向く黒髪少女の後ろを、小柄爆乳な優が付いて歩く。

「なー美尋、美尋ってば」

「話しかけないで!」

「? なに怒ってんだよー?」

「自分の胸に聞いてみなさい!」

 体育の授業でも、優は跳び箱を飛ぶ女子を後ろから見て興奮したり、着替えの時には女子の身体を間近でジロジロ観察したり。

 教室では不自然なくらい女子に密着したり、男子の視線を完全に意識した上でミニスカートがギリギリ捲れるくらいの姿勢をとったり。

 痴女を超え露出好きを超えむしろ変態そのものな優に、美尋は頭が痛いのだ。

 それでも組織が指定したチームである以上、優と分かり合わなくてはならない。

「ついていらっしゃい」

 そう言って、二人は美尋の目的地へと向かっているのだ。

「ここよ。優も覚えておいてね」

 道すがら、女性たちの観察に余念が無かった優が連れてこられたのは、市立の体育館。

 かなり大きな体育館で、一般にも開放されていて、今日は一番広いスペースで、お年寄りの体操教室が開催されていた。

「体育館? ここで何かあんの? おばあちゃんたちのレオタードとか、俺は興味ないぜ?」

 大真面目に問う優に、美尋はまだ慣れない。

「違うわよ。ここは一般にも開放されているけど、私たちクローン戦士の特別な設備が隠されてもいるのよ」

 エレベーターで地下2階まで降りて、地下のプールの入り口を確かめてから、念のため周囲に人がいない事を確かめる美尋。

 扉を潜って、更に奥の扉の、音声入力式のカギにコネクト。

「紅美尋、白鏡優」

 少女の声と二人の名前で、電子ロックが反応をして、ガチャリと重たく鍵が開く。

「さ、早く」

 急いでドアを抜けて閉じて、更に階段を降りると、体育館の土地面積よりも広いフロアに出た。

「うお~、なんか秘密の空間っぽいな~!」

「そのとおりよ」

 素直にワクワクしている優に、美尋もちよっと楽しい様子。

 広い地下空間は天井も高く、完全に何かの訓練用と推測できた。

 部屋の隅には筋トレ用のマシンや操作機械らしい設備があり、いくつかの扉と、冷蔵庫なども設置されている。

「ここは、私たちクローン戦士専用のトレーニングルームよ。これから毎日、放課後は私と戦闘訓練してもらうから」

「戦闘訓練?」

 機械が設置されている壁際に鞄を置くと、美尋は自分のベルトを取り出してお腹に巻く。

「優はまだ、コレだって使ったこと ないでしょ?」

 美尋が、ベルトの左脇のスイッチを入れる。

「装身(そうしん)!」

 音声認識とスイッチでベルトが作動すると、美尋の制服が光の粒子となって消えて、裸身に戦闘スーツが纏われる形で再構成された。

「おおおっ!」

 驚く優に、少女はちょっと得意げだったり。

「いかが?」


              ☆☆☆その②☆☆☆


 変身した姿は、バイザーに赤いスーツにミニスカート、赤いブーツと一振りの剣を携えた、変身剣戟少女だった。

 変身という現象を目の当たりにした優は、元少年としても、興奮が高まってゆく。

「す、すげ~っ!」

「これが、クローン戦士専用の 戦闘ジャケットよ」

 驚く少年にちょっと気持ちが良いのか、モデルさんのようにクルっと一回転して見せたりする美尋だ。

 頭からつま先まで、美尋の全身をくまなく舐め回すように凝視した優は、素直な感想。

「もう一度、装身してくれっ! 途中で一瞬、たしかに裸になったよなっ!?」

「そこじゃないっ!」

 今更だけど一瞬の裸を指摘されて、恥ずかしくなった美尋だ。

 なんであれ、ベルトの使い方は解った。

 優も自分専用のベルトをお腹に巻いて、装身を試す。

「ようしっ、俺も変身しながら裸になるぞっ!」

 まさしく変身ならぬ変態だと、呆れる美尋だ。

「装身!」

 音声認識とスイッチで、優の制服が光の粒子になって散り、一瞬だけ全裸になって、戦闘ジャケットとして再構成される。

 装身完了したその姿は、バイザーと、ちょっとブカブかなジャケットと、腿が剥き出しな少し大きいショートパンツと、太めのアーマーブーツ。

 肘から先には装甲を纏ったグローブが嵌められていて、更に拳と足の裏には宝玉が輝いている。

「うおおっ、俺も裸になって変身したぁっ!」

「う…ちょっと可愛いかも…」

 小柄な優の戦闘ジャケットは、ロリ爆乳っぽいのにショタっぽいと言うか。

 美尋から見てもちょっとHっぽいけど可愛い。

 対して優は、頬を紅潮させてワクワク顔。

「もっと違うスーツとかには出来ないの? 美尋みたいにヒラヒラのHなミニスカとか、全身ピッタピタで臍まで浮き出るエロボディペみたいなのとか」

「変態かっ! って言うか私のはHなミニスカとかじゃないもん!」

 剣を携えた美尋と比べて、優は武器無し。

「香我美勇士郎くんって、格闘技やってたんでしょ? さっきの盗撮事件で私も納得したわ。もつろん、優も格闘、出来る筈よね」

 美尋の質問に、優は得意になって答える。

「まあね。さっきの盗撮騒ぎで、この身体の感覚も大体把握できたよ」

「それじゃあ、私と模擬戦闘 してみよっか?」

 言いながら、美尋は剣を抜いて、綺麗に上段へと構える。

 オリジナル体が剣道の有段者なうえ世界大会での優勝経験もある剣豪少女だったらしく、その構えは美しく、無駄も隙も無い。

 そんな美尋の構えを見ながら、優は視線だけ冷静なまま答えた。

「無理無理。美尋じゃ俺に、触る事も出来ないって」

 言われてムっとする美尋だけど、優の視線に隙が無い事は見てわかったので、単なる強がりではない事も理解する。

 美尋が聞いている勇士郎の経歴は、独学の格闘技で世界を渡り歩いて、ストリートファイトで腕を磨いた猛者。

 公式の全米格闘チャンピオンが非公式に試合をして、勇士郎が圧勝した。という報告もあった。

 だからこそ、美尋は優の腕前を確かめたくもあるのだ。

「言うわね~。私だって、怪人と二回は、戦闘の経験があるのよ!」

「な、なにぃっ!? 怪人と二回も性交の経験があるだとおおぅっ!?」

 本気でショックを受けた顔の優に、美尋は怒る。

「そんなのしてないわよっ! って言うか、あんた耳どうかしてるんじゃないのっ!?」

 そんな低レベルな言い争いをしていると、二人のスマフォにサングラス氏からの通信が届く。

『桜咲町六丁目に魔人が出現。二人とも、稼ぎのチャンスだぞ!』

「了解! すぐに向かいますっ!」

 通信を終えると、装身を解いた美尋が、優の手を取って走り出した。

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