第2話 クローンの素質


              ☆☆☆その①☆☆☆


 クローンとか言われても、ちょっともピンと来ない。

「俺だってちょっとは知ってるけど、クローンって、いわゆる生き物のコピーでしょ? この顔とか全然似てないよ。っていうか、俺いま女だし」

 と、真面目な顔で抗議しながら、胡坐で座って自分の胸を揉んでいる優だったり。

「また触ってる! この変態!」

 人生に於いて結構重大で真面目な話をしているのに、爆乳を揉み遊んでいる変態少年に、美尋も呆れて怒ってプンとソッポだ。

 そんな二人をナゼか微笑ましく感じながら、サングラス氏は話を進める。

「キミが女性になったのは、クローン生成の段階で現れる特殊な事例だ。キミの場合、香我美勇士郎君の母方の祖母の祖母の祖母の遺伝子が、強く出てしまったようだ」

 人のクローンを作っただけでなく性別まで変容させた一大事件を、スマンスマン的な笑顔の挨拶で済ませるサングラス氏。

 言われた優も、現実の現象を考察する。

「クローンでご先祖様似で性転換? そんな事…ああ、ありうるのか」

「え、納得?」

 美尋のほうが驚いた。

 嘘っぽいけど納得しかけてます。みたいな愛顔のロリ爆乳な優に、サングラス氏は室内灯をスキンヘッドで反射させつつ、真面目に話す。

「そもそも我々『世界平和維持機構 日本支部』が、香我美勇士郎君のクローン、つまりキミを誕生させた理由は…まぁザっと話すと、地獄からやってくる魔人と戦う為なんだなコレが」

「…は?」

 クローンの次は地獄とか魔人言ってる。

 いい年した大人のするような内容ではない話だけど、隣の美尋は異存なしの美顔だ。

 サングラス氏は、頭部の反射もそのままに話を続ける。

「簡単に言えば、黄泉の国が、月の魔力を利用してこの地上世界に魔人たちを送って来ていて、その魔人が色々と迷惑をかけてくる。だから俺たち地上側というか現世側の人間は対抗策として、キミたちクローン戦士を作って、戦ってもらう。という事さ」

 唐突で馬鹿々々しい話に、優は乳房を揉み遊びつつの呆れ顔しかできない。

「黄泉の国とか魔人とか…そんな、マンガじゃあるまいし…僕がそんな作り話を簡単に信じて受け入れるとでも?」

 と真面目な顔で言いつつ、遂にはシャツを捲って生爆乳を嬉しそうに揉み始める変態少年。

「むしろ嬉々として現実を受け入れているようにしか見えないけど?」

「うむ、喜んでくれてなによりだ!」

 呆れる美尋は、そんな表情も儚げで綺麗だった。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 笑っているサングラス氏は、足下に置かれているアタッシュケースをベッドに上げて開くと、中からゴツゴツとした機械のベルトを取り出して、優に勧める。

「魔人と戦うには、その肉体強化システムが必要だ。それを確実に使いこなせるのは『伊弉諾尊(いざなぎのみこと)あるいは伊弉冉尊(いざなみのみこと)の遺伝子』を強く残している者だけなのだ」

「イザナギ…イザナミ…遺伝子…?」

 渡されたベルトを眺めつつ、聴き返す優。

 疑問符しか浮かばないキョトン顔も、先祖返りした遺伝子のおかげで愛らしいと、美尋は不覚にも感じてしまった。

 サングラス氏は、説明を続ける。

「伊弉諾尊と伊弉冉尊は、古事記などてキミたち学生も知っている通り、この日本の国造りの神々だ。日本人である以上、我々には二柱の、あるいはどちらかの遺伝子が存在しているのだ。不幸にも伊弉冉尊は黄泉の国の住人となってしまわれ、伊弉諾尊は現世に於いて様々な神々を造り出された。で、日本人の肉体と魂には、伊弉諾尊が作り出した神々の遺伝子よりも以前の、伊弉冉尊の吐息からが残された遺伝子をも強く残した特殊な個体が、僅かだが存在するわけだ」

 サングラス氏は、ニっと笑う。

 そこまで聞いて、優は推論をする。

「…つまり俺、香我美勇士郎は、その伊弉冉尊とか神々の遺伝子が強く残ってる。って事ですか?」

 優の見解に、美尋も自分を指さして後押し。

「そ。そして私もね」

 自分を指す人差し指が、細くて綺麗でドえろな妄想を描きたてられると、優は真顔で思う。

「私も、二柱の遺伝子を強く残した女の子の、クローンよ」

 言われて、綺麗な笑顔で真正面から見つめられると、大きくて澄んだ黒いダイヤのような瞳が、神秘的な光を湛えているようにも感じられる。

「へぇ…」

「な、なに…?」

 童顔の美少女に間近で見つめられて、美尋は思わずドキっとする。

 そんな二人の様子を全く汲み取る風もなく、サングラス氏は話を続ける。

「で、黄泉の国から送られてくる魔人ってのは、伊弉冉尊よりも以前から黄泉の国を治めていた黄泉の統治神が、現世の人たちを攫って造り出している、一種の怪人だ。そんな存在に心を痛めた伊弉冉尊が、我ら現世の日本人に、魔人と戦うための変化の方法を伝えてくれたってわけだ」

「それがこの、メカっぽいベルトですか?」

 神話的な話から同人特撮の世界に滑り落ちたような現実。

 そもそも神話とメカベルトの間には、異様に距離を感じる優だ。

「ま、人知を超えた力を現世の我々が再現しようとすれば、現実的にはこの辺りが限界なわけだ。で、現状と変化システムについてはOK?」

「いやOKも何も、そもそもその話が嘘か本当かすら」

 そんな優の抗議も意に介さず、サングラス氏は話を進めた。

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