大都市ペスカーラ2

「話はファーゼから聞いてますか? 金級認定と、金剛級への昇格試験があると聞いたのですが」


 ケントは友好的な態度で話しかける。


「ええ。ケントさんでしたか。ハンター組合から一応連絡は届いています。女性ヒューマンに変身できるホワイトバードと一緒ですね」


 見張り塔から降りてきた二人組の男性が、ていねいな態度で答えた。


「ハンター組合は道なりに進んでいただけば見えてくる赤い壁の建物で、看板も出ていますがけっこう距離はありますね」


「……ホワイトバードで都市内を移動するのは問題ですよね?」


 歩くのめんどうだなと思ったケントが念のため問いかける。


「パートナー登録されていて、都市内で認知されているのでしたら大丈夫なのですが、ケントさんの場合はまだ何の手続きもすんでいないので」


 遠回しにだが断られたと彼は感じたが、これはやむを得ないだろう。

 ホワイトバードは発見されたら大騒ぎになるほどのモンスターなのだ。


 そんなモンスターが突然都市内部を飛んだりしたら、パニックになることが目に見えている。


(どんな秩序の敵だ)


 とケントは思ってしまう。


「……となるとダッシュもやめておいたほうがいいのか?」


 彼は自問を口に出した。


「高ランクハンターの全力疾走は、できればひかえていただきたいですね」


 見張りの男は若干顔をこわばらせて返答する。

 それもそうかとケントは納得した。


 こちらの世界にもステータスとレベルが存在している。


 都市内部で高レベルプレイヤーが活動することを想定していない場合、惨事が起こるかもしれない。


(特に俺のステータスだといろいろとやばそうだ)


 中級スキルですら相当な破壊力になるのだから、うかつに全力疾走するのはこわい。


「承知しました」


 ケントはそう言って、見張りたちを安心させる。


「まあ私たちならそんな時間かからないんじゃないですか?」


 シロは適当な口ぶりで言った。

 たしかに彼らなら単純に早歩きするだけでも、他者とは違いを出せそうだ。


「だな」


「ええっと、あんまり他者に影響出るようなものは、たとえ早歩きでもちょっと」


 見張りの男たちは冷や汗をかきながら難色を示す。


「それはそうですね」


 影響を出してしまっては意味がないとケントはうなずく。

 これによって見張りたちは安心したようだった。


 門をくぐると大きな道が真ん中をまっすぐに走っていて、果てが《忍神》の視力でも見えない。


「建物がいっぱいですね、ご主人様」


 シロも興味持ったようだ。


「空から見るのとはまた違って感じられるだろう?」


 とケントが聞くと、


「はい。空からだとつまらない豆粒だなとしか思いませんもん」


 彼女は正直に答える。


「空からだとどうしてもな」


 建物も人も小動物か豆粒にしか見えず、感情移入は無理だろうと彼は思う。

 

(その割にはシロは人間くさいんだが)


 けっこう興味深いとケントは感じる。

 もっともホワイトバードの生態などを調べようとは思わないが。


 ファーゼとは規模も人口も違うだけあって、道を歩くだけでにぎわっている声が聞こえてくる。


 露天商の呼び込みなどもあるようだ。


「建物と路上と何が違うんですか?」


 興味を持ったらしいシロが、すこし前を歩くケントに問いかける。


「俺も詳しくはないが、路上で売る分には固定維持費がかからないんじゃないかな。その分客をつかまえるのが大変そうだが」


 彼は商売人だったわけではないので、答えには多量に憶測がまざっていた。


「そうなんですね」


 それでもシロは納得し満足したように返事する。

 もとより正確を期した答えなど期待していたわけではないようだ。


「何かほしいものでもあるのか?」


 とケントが聞いたのは、ホワイトバードに物を売るという発想があるのか疑問だったからだ。


 店に並んでいるものがほしくなったなら、まだ想像しやすい。


「いえ、食べ物が多いなーって」


 彼女はヒューマンの食べ物に興味を持っただけだったようだ。

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