大都市ペスカーラ
ハンター組合の建物を出たところで、ケントはシロに話しかけた。
「ペスカーラへの行き方はわかるな?」
「はい。大した距離じゃないと思いますよ」
彼女の答えに彼はうなずく。
「それにしてもお前、ヒューマンの地図を読めるんだな」
「言われてみれば……」
どうやらシロは自覚していたわけではないらしく、目を丸くして足を止める。
「何となくわかるんですけど、どうしてでしょう?」
「お前が分からないのに俺がわかるはずないじゃないか」
彼女に聞かれてケントは苦笑した。
もっとも内心では笑いごとで片づけられないと思う。
(何らかの謎がこの世界にあるかもしれないのか……俺は謎解きって探偵の解説を楽しみにするタイプで、自分で考えるのは苦手なんだが)
とケントは自己分析をしつつそっと息をこぼす。
自分で何もかも考える必要はなく、根拠となりうるものを見つけることができれば、あとは誰かが考えてくれるかもしれない。
(そうだといいな)
後ろ向きな期待をしながら、ケントは改めてシロに指示を出す。
「ひとまず疑問は置いて、ペスカーラに行ってみよう」
「はい」
どうせここで悩んでも何も解決しないと考え、彼はシロに乗ってペスカーラを目指した。
ペスカーラは白い石造りの壁に囲まれた都市で、規模はファーゼとは比較にならない。
「こんな大きな都市があるのか……大都市とは聞いていたけど」
ケントは素直に感心する。
とりあえず彼が子どもの頃行ったことがあるドーム球場よりは広そうだった。
「壁なんて作っても飛び越えたら終わりなんですけどね」
とシロは鳥の姿のまま感想を言う。
「飛び越えられない、あるいは地面を掘れない奴らには有効だからな。侵入経路を絞れるのは大きいんだよ」
ケントは笑いながら回答する。
彼女の意見は的を射ているかもしれないが、あくまでも鳥としての立場からのものだった。
「なるほどー、ヒューマンってやっぱり頭はいいんですね。時々馬鹿なんじゃないかと思うんですけど」
シロは感心しながらも辛辣なことを言う。
「言いたいことはわかるし、否定できないな」
と今度は苦笑したケントだった。
「ホワイトバードだと!?」
「襲撃か!?」
見張り塔らしきところにいる男たちが騒ぎはじめる。
「あれ、伝わっていないのか……?」
ケントは少し不安になった。
通信アイテムらしきものがハンター組合にあったので、ケントは大丈夫だろうとタカをくくっていたのだが、雲行きがすこし怪しい。
「とりあえず壁から少し離れた位置に降りてくれ」
「わかりました」
シロは彼の言いつけを守り、城から徒歩一分くらいは離れた位置に着地する。
ケントが彼女から降りたあとに生まれる会話を《忍神》の聴覚が拾う。
「誰かが背中から降りてきたぞ」
「見たことない装備をしているぞ」
「すげえ高そうだな、あの格好」
「もしかしてアレじゃないか、ファーゼの町に現れたっていうホワイトライダー」
「ああ、そう言えばあっちのハンター組合からこっちのハンター組合に、連絡があったらしいな」
「半信半疑だってお偉いさんたち、言ってたんじゃなかったっけ?」
「でも、あれは本物だろ? どう見ても俺たちが勝てる相手とは思えないぞ」
なんてやりとりをふむふむとケントは聞いていた。
(一応話は通っていたのか……)
なら最初から説明する必要はなさそうだと思い、彼はシロに指示を出す。
「とりあえずヒューマンの姿になってくれ。そのサイズだと門はくぐれない」
「そうですね」
シロはうなずいて人の姿をとる。
「へ、変身した!?」
「さすが伝説のモンスター、変身能力もあるのか」
彼女の変化に見張りたちは大いに驚いていた。
「よし、行ってみよう」
とケントは彼女をうながして先に歩く。
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