レント王国

「貴殿に紹介したいのは、ここから北北西に位置している大都市ペスカーラだ。ここに行って金級に昇格し、その後は金剛級の認定試験を受けてもらいたい」


 話が脱線しかけたところでアベル老人が戻す。


「ペスカーラですか。地図は見せてもらえますか?」


 とケントはたずねる。


 彼が見ても有効活用できるかは怪しいが、シロは地図を読める上に方向感覚もばっちりだ。


 彼が視線を送ると彼女は心得ているとばかりにうなずく。


(ホワイトバードってこんなに知能が高かったのか……それともシロが特別なのか?)


 ケントは首をかしげたくなるが、今のところ判断材料が少なすぎる。


 この世界で過ごしていくなら少しずつ集まってくるだろうから、あわてる必要はないのだが。


 アベルがちらりと視線を横にずらすと、受付男性が古びた地図を差し出す。

 カウンターの上に広げられると、近隣の都市の大ざっぱな位置が記載されている。


「都市によって丸の大きさが違いますね」


 とケントは見て感じたことをそのまま口にした。


「ああ。一番大きな丸が人口の多い大都市、それから都市、町、村と規模が小さくなっていく。ファーゼは下から二番目の規模に分類できるな」


 アベルが回答する。


「ふむ」


 地図を信じるなら、ファーゼから一番近い大都市はたしかにペスカーラだ。

 というよりも他には町か村が多く、東に一つ都市アオスタがあるくらいか。


「来たばかりなら知らないだろうが、ここはレント王国南東の辺境と言える」


 とアベルは話す。

 それでも町は存在しているので、未開の地とは言えないが。


「ふむ?」

 

 ケントは少し考える。


(もしかしてここが辺境だから……というのもあるのか?)


 ハンターもモンスターも弱い理由だ。


 大都市のほうがモンスターが強いとは考えづらいが、強いハンターがいても不思議ではない。


 大都市でないと金剛級という一流認定されないのも、実はそういう理由があるのではないか。


(中央のほうが待遇がいいから人材が集まる。集まった人材は、必要に応じて地方に派遣する。そんな仕組みができあがっているかもしれない)


 それがケントの推測だった。


 経済力が違えば用意できる報酬が違うのは当たり前だし、富裕層が発展した都会に住みたがるのはおかしくない。


「まずはペスカーラに行ってみよう」


 とケントが言うとシロがこくりと言う。


「そうするといい。残念だがこんな田舎だと、貴殿ほどの逸材は持てあます可能性が高いからな」


 アベルは仕方ないという顔でため息をついた。


「ところで大都市にホワイトバードを連れて行っても大丈夫ですか?」


 ケントはそう確認する。


 ホワイトライダーだと英雄視されるのは、地方にかぎったことではないかと懸念したのだ。


「ああ。ホワイトライダーなら、どこに行っても歓迎されるだろう。……もっともレント王国を出たらどうなるか、保証はしかねる。私も行ったことないのでな」


 アベルの答えは誠実だと彼は思う。

 行ったことがない国の人々がどう反応するか、予想しきれるはずがないからだ。


「まあホワイトライダーが歓迎されない国に、現状行く必要はないが」


 とケントは独り言を言う。

 シロは雑魚モンスターを捕食して、それを彼の貢献に計上できる。


 おまけに地図が読めて方向に強く、空を飛べるという彼の弱点を補ってくれるとても優秀なパートナーだ。

 

 いきなり出会えたのは幸運だったと言うほかない。


「シロはわからないよな、その辺」


 念のため彼女自身にも聞いてみる。


「うーん、ヒューマンの反応なんて、みんな同じだったと思いますね」


 シロは自信なさそうに答えた。

 あまり真面目に接してこなかったからだろう。


 彼女を責めることはできないとケントはうなずく。


「まあ大都市なら、その辺の情報も入手できるだろう。行ってから考えればいい」


「了解ですー」


 楽観的な彼の言葉に対して、シロは緊張感のない返事をする。

 アベルは似た者同士だなと思ったが、声には出さなかった。

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