千年ぶり
先ほどの受付嬢と一緒に灰色の髪とひげを持った小柄な老人が姿を現す。
「話は聞かせてもらった。私は組合長のアベルという」
「ケントです」
ケントが名乗るとアベルは小さくうなずいた。
「マザーワームとジャイアントワームの群れを一掃してくれたそうだな。まずはそのことに礼を言いたい」
「仕事なので」
と言いつつ彼は組合長からの礼を受け取る。
「それで貴殿のランクなのだが、マザーワームは大いなる災いの一つに数えられていて、これを討伐できるものは金剛級に昇格となる」
アベルの話を聞いてケントはおやっと思った。
地道にランクアップしていく予定だったが、もしかして一気にステップアップできるのだろうか。
期待を込めてアベルのしわの多い顔を見つめる。
「だが、ハンター組合にもルールがあってな。このファーゼのように小さな町では、金級までしか認定ができないのだ」
アベル老人はにがにがしく事情を話す。
「そんな制限があるんですね」
本社の許可なしに支社が独断でやれることは、意外と少なかったのと同じ理屈かとケントは解釈する。
「町の危機を救ってくれた貴殿に対して心苦しいのだが、ここで金級になったあと、大きな都市に移動してもらえないだろうか?」
「かまいませんよ」
心苦しそうなアベル老人に対して、ケントは気にしなくてもいいと微笑む。
(訳のわからんルールや制限は、だいたい中央のお偉いさんが勝手に決めるもので、末端は従うしかないもんなぁ)
彼は年老いたハンター組合長に同情すらしている。
本社の一方的な要求や都合に振り回され、苦労させられた経験は彼にもあるのだった。
(こっちにもそんなしがらみがあるんだなぁ)
と思うが、人間なんてそんなものかもしれないと考えなおす。
もっともここではヒューマンと呼ばれているようだが。
「すまない。何しろ災いクラスのモンスターをこの町が経験するのは、千年ぶりくらいなので……今回は貴殿のおかげで未遂に終わったが」
アベルは汗をぬぐいなら平身低頭のいきおいで言葉をつむぐ。
「千年ぶりか。前回はどんなモンスターだったのか、参考までに聞いてみてもいいですか?」
ケントは興味を抱いてたずねた。
(まあこの世界だからな。ホワイトバードより強いモンスターがいた可能性は低いだろうけど、念のためだ。もしかしたら単に何らかの事情で絶命しただけかもしれないんだから)
彼が思い描いたのは、恐竜も絶滅した過去の歴史だった。
どれだけ生物として強かろうとも、絶対零度の吹雪が吹きつづけたり、酸素が不足するようになったら助からない。
絶対零度を快適に感じたり、酸素がなくても問題ない生物だけが生き残ることができる。
「ああ。アーミーウルフという種でな。戦力で言えば20くらいなのだが、増殖してしまって、エネミーウルフに進化してしまったのだ」
「なるほど」
アベルの言葉にケントはうなずく。
アーミーエルフは衝撃に強い毛皮と鋭い爪と牙を持つ狼系のモンスターだ。
レベルはたしかに20台が、群れに属する数が100を超えた時、リーダーは特殊進化してエネミーエルフとなる。
エネミーエルフに進化した時点でレベル30を超えるし、最大レベル100まで成長していく。
(ゲームだと経験値とドロップがおいしいボスに成長するので、わざと放置するほうが一般的だったはずだけど、この世界で再現されたらそりゃ地獄だな)
大いなる災いと呼ばれた理由に納得できるというものだ。
「その時はどうやって倒したんですか?」
「神話の時代のアイテムを一つ使ったそうだ。だが、その時に壊れてしまって二度と使えないらしい」
アベルは彼の問いに答えてくれる。
「そうなんですね」
神話の時代のアイテムというニュアンスにケントは引っかかりを覚えた。
(エネミーウルフを倒したくらいで壊れんじゃ、大したアイテムじゃないだろうけど、興味はあるな)
昔ならいいアイテムはあったのだろうか。
どうせ目的なんてないのだし、神話の時代のアイテムを探すというのはどうだろうか。
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