彼女は情報源
シロはリーゼを背中に乗せるのをいやがったので、ケントはストレージからかごを取り出して二人で乗る。
「わぁ……夢見たいです」
空を飛ぶという夢を持つ者がいるのは、こちらでも同じであるらしい。
ケントは彼女を通じて知る。
方向についてはリーゼがケントに伝え、彼がシロに指示を出すという形をとった。
「この大陸に、ホワイトバード以外の飛行生物はいないのですか?」
その後、ケントはヒマだったのでこの世界のことをたずねてみる。
「飛行種はいますけど、こうしてヒューマンが飛ぶのに協力してくれる生物はいないと思います」
リーゼの答えになるほどと思った。
「ケントさんはもしかしてこちらの大陸出身ではないのですか?」
「ええ、わかりますか?」
彼女の問いにケントはうなずいてから問いを返す。
自分がこの大陸の者ではないとわかりやすいだろうと考えている。
だが、相手がそう判断する根拠は何なのか、知っておくのは悪いことではないとも思うのだ。
「もちろんです。見たことがない装備ですし、ホワイトライダーだなんて聞いたこともなかったので。他の大陸から移住してきたと考えれば納得できます」
リーゼは力強く説明する。
(なるほど……珍しいわりに無名なのは外国人だから、みたいなノリか)
とケントは納得した。
間違っているわけではないし、排斥されるわけでもない。
「他にも装備はあるんだが」
独り言をつぶやく。
職業は完全にニンジャ一筋だったので、武器と防具はすべてニンジャが装備できるものばかりで、こちらの世界ではおそらく珍しいだろう。
目立つことがいいのか悪いのが、まだはっきりしていないのだが。
「もう手遅れだよな」
とケントは自分でも思う。
少なくともファーゼの町においてはホワイトライダーで定着しただろう。
「どうかしましたか?」
リーゼが不思議そうに彼を見る。
彼女からすれば独り言をぶつぶつ言っている奇人のたぐいだと気づく。
「いえ。銅ランクに上がるためにはどうしたらいいかなと」
とりあえずごまかしために適当なことを口にする。
「銅ランクから上になりますと、たしかモンスターの討伐数も考慮されると聞いたことがあります」
「まあ強くないと務まらないでしょうしね」
リーゼからの情報はケントにとって意外でも何でもない。
モンスターを倒す仕事をやる以上、モンスターを倒す能力を重視しなくてどうするというのか。
もっとも戦闘力があればいいというわけでもないのだろうが、今は脇に置いておく。
「あ、これ、言っていいのかわからない件でした」
リーゼはしまったという顔で自分の口を手で抑える。
「あなたから聞いたとは言いませんよ」
とケントは笑う。
(情報収集能力がプラスの評価を受けることはあっても、マイナス扱いされることはそうそうないだろう)
と彼は楽観しているので、彼女をフォローする余裕がある。
「ごめんなさい。配慮お願いします」
しゅんとしたリーゼにうなずく。
これが年下の男の子だったら肩を優しく叩いてはげますところだが、知り合ったばかりの女性となるとためらいが勝つ。
「情報源を明かさないのは基本ですよ。お気になさらず」
とケントは無難なことを言っておく。
もっとも情報源を明かさない云々は彼にとって当然のことだが。
「ありがとうございます。あ、つきましたね」
リーゼの声が華やいだのは、その瞳に目的地の平原が映ったからだ。
「ワスレ草ってここからわかりますか?」
「すみません、高すぎて……」
ケントは念のために確認したのだが、答えはやはりだった。
「シロ、高度を下げてくれ」
彼が指示を飛ばすとシロはゆっくりと降下していく。
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