ワスレ草
「ワスレ草はピンクの花に鎮痛剤効果があって、背の高い他の草に隠れるように生えてるんですよね」
と降下中にリーゼが説明してくれる。
「なるほど」
ケントは《忍神》の視力を活かして背の高い草を探すと、たしかに隠れるように生えているピンクの花をつけた草が見つかった。
「あそことあそこにありますね」
彼は自分の右斜め前と、左斜め前を指さす。
「えっ? えっ? ここから見つけたんですか?」
リーゼは面食らった様子で、彼をまじまじと見つめる。
「視力の良さには多少の自信があるもので」
ケントは我ながら苦しいなと思いつつ、謙遜をまじえて答えた。
「狩りを生業にする人は遠くのものを発見する能力がすごいと聞いたことありますけど、ケントさんはそれ以上なのでは」
「どうでしょうか」
と言ったものの、おそらくリーゼがいうことは正しいと彼は思う。
ホワイトバードの扱われ方から推測するに、少なくともこの大陸ではレベル50で圧倒的な存在なのだ。
レベル200の《忍神》とは比べるのもおこがましいくらい差がある。
(えーっと、たしかレベル200と戦うためにはレベル50は何人必要なんだっけ?)
何年もプレイしていなかったので、すぐには思い出せない。
レベル5くらいの差なら、4から5人くらいいれば埋められるはずだったのだが。
そこからレベル150分を単純に加算すると600人から750人くらいだろうか。
(まあレベル差が開くと通常攻撃で即死するし、範囲攻撃も増えるから実際はもっと必要だろうな)
とケントは思う。
もちろん疲労を考慮しなければの話だ。
もっとも、相手が一撃で死ぬ広範囲攻撃をばら撒けば疲れる前に戦いが終わりそうだが。
「ケントさんずいぶんと謙虚なんですね」
リーゼは不思議そうにしている。
彼にとって己の力を必要以上に誇示しないのは自然なのだが、こちらの世界では違うのだろうか。
「珍しいでしょうか?」
と彼女に聞いてみる。
「ええ。失礼ながらあなどられたり、過小評価されたりしないのですか? ケントさんくらい圧倒的だと、勘違いされないものなのでしょうか」
リーゼは不思議がりながら返答した。
「え、ああ」
そう言われて彼はタンドンを送っていった町で絡まれたことを思い出す。
(もしかして謙遜しているとああいう手合いに絡まれやすくなるのか?)
とひらめいた。
「たしかに絡まれたことはありますね。そういうものなのか」
ケントが小さくつぶやくと、リーゼは微笑む。
「私のように戦えない女にしてみれば、あなたのように力を誇示しない人のほうが落ち着けて好ましいのですけど」
彼は納得できたので黙ってうなずく。
猛獣が牙と敵意をむき出しにしていると落ち着かないようなものだろう。
などと会話しているうちにシロが着地する。
「おっと探しに行きましょう」
「ええ」
二人は平原の上に降り立ち、ケントは自分が目標を見かけた位置へ彼女を案内した。
「たしかにワスレ草です。こんなに早く見つかるなんて」
リーゼは目を輝かせて喜びながら、手にしていた赤い革袋に摘んだワスレ草を入れる。
ケントは自分の力が役に立てたようで少しうれしい。
「いくつ必要なのですか?」
「二本ほどあればしばらくもちます」
リーゼの答えを聞いて、ケントは右側に見えた場所へと彼女を案内する。
「これでしばらくは足りるのですね」
「ええ。ありがとうございます。数日かかるのも覚悟していたのですが」
リーゼはワスレ草を摘み終えて立ち上がると、改めて彼に礼を述べた。
「いえいえ。お役に立てて何よりです」
彼は悪い気がせず、にこやかに答える。
「お疲れなら休みますが、どうしましょうか?」
とケントは反対に彼女に聞いた。
「平気です。このままザラタン捕獲に向かってください」
リーゼは少しの疲れも見せずに笑顔で言う。
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