移動手段

「ところで後ろの少女はあなたの仲間なのですか?」


 タンドンは不思議そうにシロを見て問いかける。


「ええ。ホワイトバードのシロです」


「よろしくー」


 ケントに簡単な紹介をされたシロは、聞くからに適当な声を出す。

 主人と認めた彼以外はどうでもよさそうな様子だ。


「ホワイトライダーが現れたとうわさは流れていましたが、ケントさんでしたか。納得です」


 タンドンが驚いたのは一瞬だけだった。

 ケントは装備からしてただものではないと思ったらしく、すぐに納得する。


「ホワイトライダーってマジかよ」


「そんなのただの吟遊詩人の創作なんじゃ……」


 護衛の冒険者二人のほうは驚愕から簡単には立ち直れないでいた。


 ケントは何か声をかけようかと思ったものの、今の彼らに自分が何を言ってもいやみに聞こえるのではと自重する。


「ところで出発はいつですか?」


 雇い主のタンドンに質問を振ってみると、苦笑気味に答えが返ってきた。


「三人めが合流した時点で、ですね。予定からしょうしょうズレてしまいましたが、出発しましょう」

 

「馬車の手配はおすみですか?」


 歩き出しながらケントが聞くと彼は首を横に振る。


「いえ、私は常に徒歩です」


「そうなのですか。失礼しました」

 

 何かポリシーでもあるのかもしれない。

 ケントは理由をたずねず、かわりにシロに問いかける。


「お前がこの人たちを一緒に乗せてくれたら、一気に行けるんだが」


「え、マスター以外を乗せるんですか」


 シロは露骨にいやそうに表情をゆがめた。


「ほ、ホワイトバードは認めた相手以外、決して乗せないと言われています。ご厚意だけで充分です」

 

 タンドンはあわてて言う。


「そうなのですか?」


「むー」


 ケントが今一度視線を向けると、シロはかなり渋っている。


「無理にやらせるものではないけど、時間が短縮できる上に安全も増すんですよね」


 彼の意見にタンドンはゆっくりとうなずく。


「たしかにそうなのですが……ルーゼスは徒歩で二日ほどの距離ですし、徒歩でもいいのではないかと」


「なるほど……」


 町と町の距離や所要時間はケントが知らない点だ。

 さすが旅商人だけはあってタンドンは詳しいし、彼の情報は頼りになるだろう。


「よし」

 

 ケントはストレージから人が四、五人は乗れそうな大きなかごを取り出す。

 とあるイベントで手に入れた後、処分するのを忘れていただけの品物である。


「もしかして収納系のマジックアイテムをお持ちなのですか?」


 思わずぎょっとしたタンドンが身を乗り出して聞いた。


「ええ。たぶん私にしか使えないと思いますが」


「そうですか」


 ケントの答えに旅商人はがっくりと肩を落とす。

 魅力的な商品になるかもしれないと思ったが、アテが外れたのだ。


「みなさんがこれに乗ってそれをシロが運ぶならと思うんですが。どうだ?」


 とケントはシロに聞く。


「それならいいですよ。掴むだけだから」


 彼女は先ほどと違って少しやる気を見せる。


「じゃあ決まりですね」


 ケントが言うとタンドンは苦笑した。


「意外と押しが強い方ですね」

 

 だが、商人としての好奇心が刺激されたのか、反対はしなかった。

 町の外に出たところでタンドンは荷物を乗せ、それから最初に自分が乗り込む。


 次にケントが乗り込むとタンドンが残りの護衛を誘う。


「さあ、あなたたちも」


「は、はい」


 緊張した面持ちで二人の若者もかごに乗り込んだ。


「じゃあシロ、頼むよ」


「はーい」


 ケントの呼びかけに答えて、シロはホワイトバードの姿に戻る。


「おお! 本物のホワイトバードだ」


 タンドンが感動した声をあげた。


「すげえ」

 

 冒険者たちも思わずという風に声を漏らす。

 シロにしっかりと爪で掴まれたかごがゆっくりと舞い上がる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る