先行投資

「シロ、ゆっくり飛んでくれ。馬くらいの速さで」


「はーい」


 ケントの指示に従い速度をあげずにシロは飛行するが、それでも彼以外の者たちにとっては充分すぎるほど速い。


「ひいっ」


「すごっ」


「おお!」


 シロの速度に感動しているのはタンドンだけで、二人の護衛は恐怖心が上回っていた。


「残念ながら他のメンバーを補助するスキルなんてないんだよな」


 とケントは少し申し訳なさそうにつぶやく。


 《忍神》は一応支援系のスキルもあるのだが、彼が所持しているのはすべて自分自身にしか効果がないものだ。


 「激震撃神」というゲームには支援特化型の職業があり、それらと組むほうが効率がよかったのである。


 ケントとタンドン以外が震える空の旅は、そこまで時間はかからなかった。


 シロにとってヒューマンが徒歩二日必要となる距離は、大したことがないのである。


「おお、ルーゼスの町です」


 タンドンがうれしそうな声をあげたところで、シロが高度を下げていく。


 町の外の街道からずれた背の低い雑草が無数に生えている場所に、ゆっくりとかごが着地する。


「マスター、到着しました」


 シロは人の姿になりながら軽やかに着地し、ケントに報告した。


「ああ、ありがとう」


「まさか出発したその日のうちに着けるとは……野宿を覚悟していたのですが」


 タンドンは感慨深そうに言ってから彼に礼を言う。


「ありがとうございます! すべてケントさんのおかげです」


「シロの力が大きかっただけで、私は大したことはしてないような」


 ケントが困惑半分、謙遜半分で答えるとシロが口をはさむ。


「マスターのお願いじゃなかったらやらなかったですし、お願いでも背中に乗せるのはいやだったから、やっぱりマスターのおかげではないですか?」


「うーむ」


 何だか違う気がしてならないケントだったが、こちらの世界では彼と感覚が違っているのは当然だとは思う。


「まあいいや。とりあえず町の中まで送りますよ」


 と彼は気持ちを切り替えて、かごを収納しながらタンドンに申し出る。


「ありがとうございます」


 本来町の入り口までの護衛となるのだが、サービスのつもりだった。

 タンドンのほうもありがたく彼の厚意を受け取る。


「俺たち何もしてないよな」


「言うな……今だけは」


 残りの護衛二人の背中は物悲しい空気になって言うが、ケントは言葉を慎む。

 町に入ったところでタンドンは彼に向き直る。


「ここまででけっこうです。とても助かりました。成功報酬銀貨二枚にさらに一枚上乗せしましょう。この程度のお礼しかできないことを、どうかお許しください」


 タンドンは銀貨三枚をケントに手渡しながら、報酬の少なさをわびた。


「いえいえ、お気になさらず」


 ケントは笑って受け入れる。

 単に彼がお人よしだというだけではない。


 旅商人であるタンドンが彼のことを行く先々で話してくれれば、それだけ彼の知名度があがる。


 いろんな人に名前を知られるようになれば有利に働くことも出てくるだろう。

 そうなれば銀貨数百枚に勝る価値になって返ってくる。


(先行投資ってやつだな)


 とケントは内心自画自賛した。

 もちろん期待通りになるとはかぎらないが、やってみて損はないはずだった。


「マスター、この後どうしますか?」


「さっきの町に戻るぞ。……いや、待てよ」


 シロの問いに答えてから彼は考え込む。

 どうせならこの町に泊まってもいいのではないだろうか。


 知り合いを増やしたほうがいいし、こちらのハンター組合に顔つなぎするのも悪くない。


 今なら恩を売ったばかりのタンドンも一緒だというのは、彼にとってプラスになるのではないだろうか。


「この町のハンター組合に顔を出しておくのもありか」


 とケントが言うと、シロは反対せずこくりとうなずく。

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