初めての仕事
「荷物運びなんていいかもしれないですね」
とケントは言った。
偶然手に入れただけだが、ホワイトバードのシロの力を借りれば難しくはない。
今の彼には美学にこだわる余裕なんてあるはずもなく、使えるものなら何でも使おうという心境だった。
「ホワイトライダーのケントさんならたしかにうってつけかもしれませんね!」
とジョーは笑顔で賛成する。
「かわりに読んでくれてありがとうございます」
ケントはひとまず彼に礼を言った。
「いえいえ! ケントさんはきっと将来すごい人になると思ってるので! 昔、俺が面倒を見たことあるよって自慢したいんで!」
ジョーは笑顔で計算を打ち明ける。
明るくてさっぱりした物言いにケントは思わず笑ってしまう。
ここまで朗らかに言われてしまうといやな感じもしない。
「下から四番めならすごい人なのではありませんか?」
ケントは探りも兼ねて言う。
「いやー、青磁と銀の間は壁があるってこっちじゃ言われるんですが、その壁を俺はなかなか超えられなくて」
ジョーは笑みを浮かべながら自嘲する。
どうやらハンターとして行き詰まっているようだった。
「そうなんですか」
青磁の上は銀色かと思いながらケントはうなずく。
「あのう」
受付の青年が困った声を出す。
「あ、すみません。仕事の話ですよね」
ケントが詫びて彼の話をうながす。
「え、ええ」
青年はとまどったようだったが、すぐに愛想笑いを浮かべる。
「少しお待ちくださいね」
奥の部屋に戻り、すぐに木箱を抱えて戻ってきた。
「これが依頼の品です。ウィットソンさんが隣の町のゲーゼに住む息子夫婦に渡してほしいと。報酬は銀貨二枚です」
「わかりましたと言いたいところですが、ゲーゼってどこのあたりにあるんですか?」
ケントが質問すると受付の男性は、一枚の紙に書かれた地図を荷物の上に見せる。
「ファーゼの町はここで、ゲーゼの町はこちらですね」
まずは地図の中心を指し示し、それから右側を指でとんとんと叩く。
「馬で一日くらいの距離ですよ」
とさらに受付の男性は説明をつけ加える。
「馬で一日なら私ならもっと早いですよ」
シロが背後からアピールしてきた。
「人間の時間で言うと、うーん、一時間くらい?」
「馬で十二時間はかかる距離が一時間……さすがホワイトバードだ」
彼女の言葉を聞いたジョーが感心する。
「じゃあさっそく行ってみよう」
とケントは言う。
シロがうなずいたところで彼はジョーに聞く。
「ところで銀貨二枚ってどれくらいの価値があるんですか?」
「あー……通貨の価値が違う可能性もありますね。気づきませんでした、すみません」
ジョーはうっかりしていたと彼に謝る。
「いえいえ」
ケントは気づいたと言うよりそもそも知らないからで、褒められることではない。
ただ、勘違いされたほうが都合がよさそうなので否定はしなかった。
「一か月の食費がだいたい銀貨二枚か三枚くらいになるでしょうか。自分で作るか、店で食べるかで違ってきますが」
とジョーは説明する。
(それだけ聞くと銀貨一枚で一万円くらいになるのか?)
ケントはそう推測しながら礼を言った。
「なるほど、ありがとうございます」
そしてシロをうながして組合の外に出る。
「初仕事だな」
見上げてみれば空の青さはこちらの世界でも変わらない。
太陽の色が若干違っている気がするが、後回しにしようとケントは思う。
「ここからマスターの大いなる伝説が」
「はじまらない」
何やら興奮してまくし立てたシロの発言を、ケントは途中でばっさりと切り捨てた。
「あう」
シロは残念そうに鳴く。
「さてゲーゼの町はこっちかな」
とケントが右に曲がったのをシロが呼び止める。
「マスター、そっちは私たちが来た方角です。地図から推測するにゲーゼの町は反対の方角ですよ」
「……」
ケントは黙って彼女の判断に従った。
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