第3話:空の旅

 信じられない話ですが、私は空を翔けています。

 レオル皇太子殿下は、私のために国宝の天馬を二頭も動員してくださったのです。

 従わせるのが非常に困難で突出した戦士だけが従魔にできる天馬をです。

 

「一番大人しい天馬を連れてきたとはいえ、私が手綱を持たずに空を翔けられるとは全く想像もしていませんでした」


 殿下は私が天馬を自由に操るのに驚かれました。

 それには私も驚いているのです。

 多分天馬は私の魔力量に勝てないと思ったのでしょう。

 それとも聖女ならば天馬は従ってくれるのでしょうか。

 まあ、そんな事はどうでもいいですね。

 今空を翔けているという事実が全てで、それを十分楽しみましょう。

 それに殿下に何を話していいか分からない私にはいい話題です。


「私もこんなことができるとは思っていませんでした。

 レオル皇太子殿下は何故できると思われますか」


「そうですね、聖女という存在は、魔獣であろうと従わせることができるのか、天馬が魔獣ではなく聖獣なのか、どちらかかもしれません。

 後は、真聖女アイリス様がお強くて、その強さに天馬が屈服したかです」


 レオル皇太子殿下は本当に賢い方ですね。

 私が考えた事など全てお見通しなのですね。

 

「そろそろ休息いたしましょう、真聖女アイリス様」


 レオル皇太子殿下は本当に紳士で、私が花を摘みたいと自分から言わないで済むように、度々休息してくれます。


「ありがとうございます、天馬も疲れていると思います」


 少しでも早く安全なオリオン皇国に入れるように、天馬は全力で翔けてくれていますからきっと疲れています、適度に休息が必要です。

 本当は不眠不休で翔ける方が早いのかもしれませんが、国宝の天馬にそんな無理はさせられません。


「そうですね、あの草原ならば、周囲の危険を逸早く察知できますし、天馬も食事ができますから、あそこにしましょう」


 天馬が私を怖がらせないように、ゆっくりと降下してくれます。

 空に昇る時よりも降りる時の方が怖いですからね。

 レオル皇太子殿下が先に降下されて、安全を確認してくださります。


「危険はないようです、降りて来てください」


「はい、ありがとうございます」


「さあ、好きに食べておいで」


「あなたも行ってきていいのよ」


「「ヒィヒイヒヒヒィィィィィン」」


 天馬が嬉しそうに草原を駆け回ります。

 空も翔けてくれますが、本質的には草原を駆ける方が好きなようです。

 主食も草のようですから、本来は地上の生き物かもしれませんね。

 それを無理に空を翔けさせるのは負担が大きいのかもしれません。


「私はお茶とおやつの準備をしております」


 レオル皇太子殿下が、やんわりと花を摘んできていいよと言ってくれます。

 本当に紳士な方です。

 本来ならお茶の用意は女の私がすべきなのですが、ここは殿下の騎士道を尊重する方がいいですね。


「はい、行かせていただきますね」

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