最終話 幸せとは?


会社に着き、一郎君はリムジンに初めて乗って大はしゃぎ。

降りた後に明が膝を着きながら話をする。


「 一郎。 どんな事があろうとも人の財布を盗ってはいけないよ?

そのお金を稼ぐのにどれだけ大変か…… 。

相手の気持ちになって考えるんだよ。

約束だぞ? 」


「 うん。 約束する。

ありがとう。 」


笑ってお別れする。

いつでも連絡出来るように名刺を渡して置いた。

一郎のお父さんは軽く面接した後に、明日から仕事に来る事になる。

当分の資金免除は明が肩代わりする。

二人は深く何度もお辞儀をしていた。

お金の苦労も失くなり、今日は帰りは外食に行くらしい。

とても微笑ましい光景だった。


「 明。 またお節介しちゃって。

ほっとけなかったの? 」


千鶴さんも何となくの理由も分かり、明のお節介をいじってきた。


「 なんだろう…… 一郎は俺に見えたのかも。

重なって見えて助けたくなったのかもね。

見える範囲の人は助けたいな。

偽善臭いけどね。 」


人によっては偽善者と言う人も沢山居る。

明はそう言われても構わなかった。

傷ついても目の前の人が幸せになれるのなら。

千鶴さんはニコニコしながら明を見ていた。

誰かの為に動く明を誇らしく思っていたからだった。

会議室へ二人は直ぐに向かった。


会議室に急いで入る。


ガチャっ!!


「 遅くなりました。

少し野暮用が入りまして…… 。 」


全員が立ち上がる。


「 遅いですよ、若っ! 」


「 若ってあだ名ですか?

いつまで言うんですか。 」


明はその愛称に違和感があったが、満更悪い気もしなかった。

皆は全社長の息子だから可愛くて仕方がなかった。

皆その愛称を変えるつもりも無さそう…… 。

門脇が近付いて来る。


「 明君。 これからはキミがこの会社を頼むよ?

私は充分頑張ったよ。

これからはキミのバックアップに回ろうとしよう。」


手を差し出して握手を求める。

明もそっと手を差し出して握手する。


「 ありがとうございます。

この会社をありがとう。

これからは俺が頑張ります! 」


拍手が起こる。

そしてここに新社長が誕生した。

拍手が起こり、暖かい歓声が聞こえてくる。


( 父さん、母さん見てるかい?

まだまだ半人前だけどこれから頑張るよ。

だからこれからも見ていてくれよ。 )


そして新社長の御披露目を社員一同で行う。

その為の大きな部屋へ移動する。

社員が全員はさすがに入らないが、ほとんどが入れる大きな部屋で受け継が行われる。

移動する為に部屋を出ようとする。

その時…… 明の背中をそっと誰かに押される。

明は直ぐに後ろを向いたが誰も居ない…… 。


( 気のせいか…… ?

多分、二人が来てたのかな。

本当に親バカな二人だな…… 。 )


明は誰も居ないが後ろを見てニッコリして直ぐに移動する。

そこにうっすらと、大門と雪奈の姿があった。

二人は笑いながら見つめていた。

満足したようにその残像はゆっくりと消えてしまう。


社員一同が集まる中、門脇の長い……長い演説も終わり、明の話に変わる。


「 今日から新しい社長になる、吉田明です。

そして…… 九条明でもあります。

俺は九条大門の息子です。 」


全社長を知らない人はほとんど居ない。

だからこそびっくりしてしまう。


「 父さんと俺は少しの時間しか一緒に居られませんでした。

父さんと知ったのも亡くなる直前でした。

心残りは沢山あります。

だからと言って、俺は父さんの為にも前を向いて進むしかありません。

それは生きている俺の親に出来る親孝行でもあり、この会社の為でもあります。 」


社員達は黙って聞きいってしまう。


「 父さんは会社は仕事場であり、もう一つの家族だと教えてくれました。

だから俺もそんな家族にしたいと思います。

どんな些細な事でも相談して下さい。

全力で相談に乗ります。

無理な時は秘書にも頼みますが。

全力でやりますので、これからの仕事ぶりを見届けて下さい。

そして…… 皆で会社の為に、自分の成長の為に頑張りましょう!

宜しくお願い致します…… 。 」


深く頭を下げる。

すると凄い拍手が鳴り響く。

これが認めて貰えた証なのかもしれない…… 。

明は凄い喜んでいた。

伊藤さんも参加していて喜んでいる。


( あれが私の先輩だぞ!

立派になって…… ねぇ? おじ様。 )


伊藤さんも嬉しくて仕方がなかった。


「 後は今日は無礼講です。

シャンパンを準備しました。

皆さん、グラスをお持ち下さい!

乾杯ーーっ!! 」


乾ぱぁーーーいっ!

皆は喜んでシャンパンを飲む。

嬉しいサプライズに皆は喜んだ。

些細な料理も持て成され、今日は珍しい会社のお休みになった。

明は少し楽しみ、社員達と話したりして時間を過ごして部屋を出ていく。


「 千鶴さん。車出して貰える? 」


「 了解です。 何処へ? 」


直ぐに車で移動する。

向かった場所は…… 。


近くに出来た子供を預かる託児所のような場所だ。

託児所と言っても、中学生くらいも居る場所だ。

親が会社で遅くなる家庭は、ここに子供を預ける。

料金はそこまで高くならないようにしてある。

食事代と少し貰うくらい。

ほとんど赤字のような場所だ。

ここの設立者は…… そう、明だった。


中は部屋ごとに年齢が別れて過ごしている。

小学生くらいからは皆一緒だ。

三歳クラスの中に小さな女の子が居る。


「 せんせぇーーいっ!

ママはまだこないのぉ? 」


その女の子は先生に尋ねる。


「 どうだろう? そろそろかな? 」


すると母親が迎えに来る。


「 遅くなってごめんなさい。

遥。 一緒に帰ろうね。 」


「 ママぁーーっ!

ぜんぜんさびしくなかったよ?

パパしゃんは? 」


抱きつきながらパパを探す。


「 どうかなぁ? 仕事終わったら来るって言ってたけどね。

来れるかな? 」


そう言いながら遊んでいると、直ぐに駆け付ける。


「 遥ぁーっ! 遅くなったね。 」


「 パパしゃあーーんっ! 」


走って来て抱きつく。

そうです。 明の娘、吉田遥よしだはるか三歳。

大門が亡くなり、その後に結婚して直ぐに子供を授かった。

香織も駆け寄って来る。


「 良かったの? 社長のパーティーは? 」


「 良いんだよ! 可愛い娘に会いたかったんだから。

なぁー 遥。 」


娘は明にベタベタくっつきまくり。

パパが大好きなのだ。

何故か何処で覚えたのか、パパではなくてパパしゃんと呼んでしまう。

可愛いから許している。


「 あーーっ! バカ社長だぁ! 」


子供達が集まって来る。


「 バカじゃない。 若社長だよ。

何度言わせんだよ。 」


子供達に笑われる。

明はたまに暇があると顔を出す。

ここの資金は明が全額支払って、経営も頑張ってしている。

子供達が寂しい思いをしない為に作ったのだ。

皆幸せそうに笑って遊んでいる。

ここの施設の名前は…… 「 おっさんの家。 」 。

変な名前だが明はお気に入りの名前だ。

皆には良く笑われてしまう。

千鶴さんも遥を抱き抱える。


「 遥ちゃーーん。 お姉さんと遊ぼう! 」


千鶴さんも遥にべったりだ。

自分の子供のように可愛がっている。

大門の大きな御屋敷に皆で住んでいる。

香織もあの家が大好きで、明の為にもあそこで暮らしたいと思い、提案したのだ。

明も大喜びだった。

香織も髪が長くなり大人な雰囲気に。


「 明君。 私幸せだよ? 」


いきなりの事に照れまくる。


「 何だよ。 急に…… 俺もだよ。

一緒に幸せに生きよう? 」


二人はそっと、手を握り合う。

それを遠くから子供達が見ている。


「 バカ社長! あの話聞かせてぇよぉ。 」


「 あの話? 不器用なおっさんとイケメンの息子の話か?

仕方ないなぁ。 」


皆を集めて話始める。


「 ある所に、それはそれは大金持ちがいました。

その大金持ちはお金を持ってるのに、全然満足出来ませんでした。

そんなある日に、自分には息子が居たのが分かりました。

それは大変!! どうにか一緒に暮らしたい。

どうしたもんか…… 。 」


自分の大門との過去を面白可笑しく話している。

娘も子供達もこの話が大好き。

皆笑って聞いている。

明も笑って話す。

人はいつ死ぬのか?

寿命? 病気? 事故? …… 嫌、違う。

誰にも覚えて貰えなくなった時、人は死ぬのだと思う…… 。

だから誰かの中に残り続けていれば、その心の中で生き続けるのではないか?

そう思いたい…… 。


テレビでは新社長のニュースが流れている。


「 あの九条グループの社長さんは、託児所を建てたりとか凄いですよね。

好感度上げなのでしょうか?

お金持ちは違いますよねぇ…… 。 」


言いたい放題言っている映像が流れている。

誰が思うかではない。

自分がどう思うかだ。

託児所の玄関には、大門と明と家族達の写真が大きく飾られている。

そしてショーケースには、二つのメガネも大切に保管されている。



メガネは…… 二人を繋いでくれた宝物になっていた。

明は大門の分まで生き続ける。

父の想いに答える為にも…… 。


これは、奇妙な自殺未遂のお話。

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俺の奇妙な自殺未遂 ミッシェル @monk3

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