第38話 導き出した答え
そして…… 三年の月日が流れていた。
伊藤さんはすっかり大人の雰囲気になり、仕事場へ向かっていた。
「 おはようございます。 」
伊藤さんは受付係で後輩に教えたりするくらいの成長を遂げていた。
「 伊藤先輩。 おはようございます。
この仕事って色々大変で、私続けられるか心配になって来ちゃって…… 。」
伊藤さんは直ぐに返答する。
「 何弱音吐いてるのよ。
まだ始めたばかりでしょ?
私がみっちり教えてあげるんだから、覚悟しなさいよ!
絶対に覚えられるんだから。 」
強気でしっかりとした物言い。
正しく仕事が上手くいっている証拠だ。
「 …… はい。 頑張ります。 」
弱々しくも仕事へのやる気をみせるのだった。
「 そう言えば先輩。
門脇社長は今日で辞めちゃうって聞いたんですけど、本当なんですかね?
あんなに会社を想っているのに! 」
九条コーポレーションは門脇が社長になっていた。
一体どうなってしまったのだろうか?
「 この会社辞める訳じゃないわよ。
ただ…… 新しい人に譲るだけよ。
全然心配なんてないわよ。 」
社長を退任?
新しい社長とは…… 。
会議室では門脇社長や日下部。
上の階級の社員と、株主達が集まっていた。
「 門脇社長。 良くここまで頑張ったね。
見直しましたよ。 」
大株主達がそう伝える。
「 はい! 私の出来る限りを尽くしました。
全てはあの日…… 。 」
さかのぼる事、三年前…… 。
明が会議室に入って来た。
「 あなたは…… 吉田 明様ですか?
私達は九条社長には大変お世話になっていた仲間達でして、お父様の件は色々大変でしたね。 」
株主達が全員立ち上がり、明に一礼をする。
まるでもう社長になったようだった。
「 いやいやいや…… あんまり私を敬わなくていいですよ。
大して偉くもないし、何にもしてないので。 」
明は変わる事のない態度で接する。
それを離れて見ている門脇。
( クソ…… 。 もう私にはあとがない。
恥をかく前に撤退するか…… 。 )
門脇は静かにその場から退室しようとする。
明は直ぐに気付き呼び止める。
「 門脇さん! ちょっと何処へ? 」
すると、大株主達が凄い剣幕で話し始める。
「 若!! 門脇はもう辞めるつもりです。
呼び止める必要など御座いません。
あいつがこの会社をどうしようとしていたか…… 。
全社長の意思をないがしろにしたのです。
絶対に許される筈はありません!
若。 分かりましたね? 」
明はみんなの話しを聞き、門脇に近寄る。
「 何だよクソガキ…… 。
ずっと私を笑っていたんだろ?
社長の息子だったんだもんな。
とんだピエロだったって事だよな…… 。 」
門脇は絶望しながら話していた。
「 俺も亡くなる直前に聞いたのでそんな事考えてませんでしたよ。
あなたは父さんの会社を悪い方に変えようとした。
父さんへの敬意も全く感じられなくて嫌いです。
でも…… これ! 読んでもらえますか? 」
明が手渡したのは大門の手帳だった。
内容を見ていると1日の出来事や、会社のこれからの事が書いてある。
明へ向けたメッセージも沢山…… 。
ヨレヨレな文字で書かれた最後の文章を見る。
「 こ…… これは…… 。 」
( 明…… 。 お前は血縁の関係もあり、確実に社長へと声が掛かる。
正直ワシはお前に継いで欲しい。
でも自由にしてくれ。 お前のしたい事を。
それと、どうしてもやりきれなかった事が。
門脇の事だ。
門脇は昔の父の経営の失敗で、絶対に失敗してはいけない。
経営を支える為には?
と利益を最優先にしまいがちになっている。
ワシはあいつとずっと仕事してきて、どうにかあいつに利益だけではなく、買った人の笑顔の為を思える人になってもらいたかった。
あいつの傷は思っていたより深かった。
明。 あいつがもし責められていたとしたら、お前はあいつを許してやって欲しい…… 。
会社が好きじゃなかったら、こんなに一生懸命働ける奴なんていない。
ワシはあいつが大好きなんだ。
門脇を宜しく頼む…… 。 )
長々と門脇への気持ちがそこに記されていた。
門脇は膝をつきながら黙って読んでいた。
「 社長…… 。 何で…… 何で私なんかに。 」
門脇は涙を流した。
門脇は社長を嫌いになんてなれなかった。
本当は…… 会社も社長も大好きだった。
思い出すのは大門との楽しい思い出ばかり。
「 門脇! 一緒にこの会社大きくしような。 」
「 はいっ。 社長! 」
若かりし頃のラーメンを食べながら、夢を追いかけたあの頃を。
大門は門脇の髪をぐしゃぐしゃにして笑う。
門脇も嫌がりながらも笑う。
人は何か出来るようになると、少し傲慢になるのかもしれない。
門脇は最初の純粋な気持ちを少し忘れていただけなのかも知れなかった。
「 社長ーっ。 社長ーーっ! 」
門脇は泣き崩れる。
「 門脇さん。 俺はこれを見て、あなたを嫌うのをやめました。
父さんを信じてるし、門脇さんも信じたくなったんです。
一緒に会社の為に頑張りませんか? 」
そっと明は手を伸ばす。
門脇は明を見ると笑顔で手をさしのべていた。
その笑顔は大門と瓜二つだった。
( 分かったぞ。 吉田 明を初めて見た時からの違和感…… 。
こいつを見ていると社長にしか見えなかったんだ。
私がイライラしていたのはこいつにではなかった。
間違った道を進んでいる自分にだったのか。
明が社長に見えたから、間違った道を進む度に自分への罪悪感に陥っていたのか…… 。
ずっと社長は私を見ていてくれたんですね。 )
門脇はその手を握りしめて立ち上がり感謝し続けた。
「 若っ! 九条社長の意思をちゃんと継いでいて安心しました。
さすがは大門さんの息子だ。
これで社長を任せられる。 」
周りからは拍手が起こる。
門脇も拍手しようとすると。
「 皆さん。 俺は…… 社長やらないよ? 」
「 えーーーっ!? 」
周りからざわつきが感じられる。
社長と認められたのに何故意思を継がないのか?
「 だって俺はまだまだ半人前ですよ?
絶対会社を悪い方向に進ませちゃいます。
ここで誰が適任か、もう分かりますよね?
会社への愛…… 父さんへの敬意。
仕事へのやりすぎなくらいの熱意…… 。
門脇さん。 やってもらえますか? 」
まさかの展開に皆が仰天する。
特に門脇が。
「 そんな…… 私には無理です。
あなたがやらないと…… 。 」
必死に明を社長にしようとする。
明は首を縦にはふらなかった。
「 父さんの意思を継ぎたいけど、実力が伴ってないんですよ。
だからお願いします。
父さんが信じたあなたなら絶対に出来ます! 」
明はもう決心していた。
その思いは大門の気持ちでもある。
周りから拍手が起こる。
皆も門脇を認めてくれたのだ。
「 ありがとう…… ありがとうございます。
絶対に会社を悪い方向なんかにはしません!
むしろもっと良くします。
約束します!! 」
拍手が起こり、ここに新たな社長が誕生した。
明も拍手をして喜ぶ。
それを離れた場所から千鶴さんが見守っていた。
( 社長…… ここに立派なあなたの息子が立ってますよ。
誰からも慕われて、人を思いやる心…… あなたの息子は本当に優しい人間です。
私の自慢の弟です…… 。 )
千鶴さんは泣きながら拍手していた。
明は退室しようとしていると。
「 明君。 一つ約束してくれ!
キミが実力をもっと身につけたら、社長になる事を…… 。
私がそれまで社長代理としてなる。
明君が社長になった時、私は全力でサポートする。
大門さんにしていたように。 」
まさかの提案!
周りの人達からも納得して拍手が起こる。
「 そんな…… 俺がですか!? 」
「 絶対に逃げないで下さい。
三年待ちます。 それまでに実力を身につけて下さい。
分かりましたね? 」
門脇は珍しく笑い明と約束を交わす。
明も嫌々ではあるが、意思を継ぎたい気持ちもあるから約束をする。
そして今に戻る…… 。
「 あっという間でしたね…… 。
今日から私から明君へ世代交代です。
三年で立派に成長なされた。
周りからは若いから色々言われるかもしれませんが、絶対に私がバックアップします。
安心して下さい!! 」
大株主達と重役達は納得していた。
それにしても…… 明が現れない。
明は何処へ??
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