第37話 残された者達
( 父さんが亡くなってから一週間。
沢山の人に見送られ葬式も無事に終わり、父さんの墓は母さんの墓の隣に作られた。
父さんもこれで少しは幸せになれたかな?
母さんと一緒になれて、父さんも喜んでるように感じた。 )
お墓参りに明は訪れていた。
「 父さん。 母さん。
天涯孤独になっちゃったよ…… 。
でも全然寂しくないよ。
千鶴さんも家政婦さん達もコックさんに
香織ちゃん、伊藤さんとか沢山俺には家族が居る。
もう心配しないでね。
さぁ…… これからどうしようかな。 」
明は少しの有給を取り、一人旅をしていた。
これから何をするべきか?
沢山の課題が山積みで少し一人になりたかった。
草むらで少し横になり、空を見上げながらボーっとしていた。
「 はぁー、仕事休んで何やってんだろ。
少し休んでまた考えよ。 」
横になり目を閉じて、居眠りしそうになっていると。
「 コラっ! 何してんだ? 」
上から覗き込んで来たのは千鶴さんだった。
「 うわぁっ!!
何だよ! 有給休暇でゆっくりしてるんだから、少しはほっといてよ。 」
びっくりして起き上がる。
( 千鶴さんは思いっきり本音で話した後から、タメ口になった。
正直、前よりも口が悪い…… 。
でも慣れた。 )
千鶴さんはカンカンになって怒る。
「 あんたが休んでる間に会社は大パニックよ。
九条 大門に息子が居たんだから。
社長は門脇さんじゃなくて、明にしたいって言う社員達で溢れてるって。
株主総会とか上の人達は、どう思ってるかは分からないけど。 」
その話を聞いても何とも思わなかった。
仕事は大好きでも、喪失感が残り少し無気力になっていた。
「 門脇さんが社長になっても良いの?
社長が作った会社を取られても。 」
別に良い訳ではない。
でも自信がなかった。
仕事は一通り出来ても、上に立つような仕事は何一つ分からない。
まだまだ新人で上に立つ器ではない。
分かってるからこそ、直ぐには返事は出来なかった。
「 これっ! 明が持っときな。 」
明に手渡したのは父さんにプレゼントした手帳だった。
折角プレゼントしたのに…… 。
直ぐに戻ってきてしまった。
恐る恐る中身を見る。
( 今日は明から手帳をプレゼントしてもらった。
最高の宝物だ。 大切にしよう。 )
父さんの思い出が沢山記されていた。
「 父さん…… 。 」
読み進めていくと。
( 明へ…… 。
もしお前が読んでいる頃はワシは死んでるな。
オヤジだと分かり、勘当されてるかもな。
どうしようもないオヤジですまない…… 。
お前に、もっと沢山教えたい事があった。
時間はいくらあっても足りないくらいに。
居酒屋とか遊園地。 レストランに映画。
沢山行ったな。 あのメガネをお前に渡してからは、他人になりすましていたけど、お前の近くに居られて本当に幸せだったよ。 ありがとう。 )
沢山の想いが込められていた。
明は夢中で読み続けていた。
( 明。 ワシはお前に会社を任せられるように、お前に仕事の基本を教えた。
だからお前が望めば社長になれる。
お前の好きにしろ…… 。
ただ…… お前には上に立つにはまだ心細い。
だから…… 。 )
明はその続きを読み、おっさんの想いを知った。
明はゆっくり立ち上がった。
「 千鶴さん。 株主総会って今日? 」
「 午後からだけど? 」
明は直ぐに会社に向かう事に。
一体何が書き記されていたのだろうか?
株主総会が始まった。
「 今回集まってもらったのは他でもない。
社長がお亡くなりになり、新しい社長をどうするか? と言う議題になります。 」
進行係が話始める。
直ぐに門脇が我先にと立ち上がった。
「 九条社長には大変お世話になりました。
会社設立の時からの仲なので、とても悲しく思います。
だからこそ…… 私が社長の意思を継ぎ、社長の作りたかった夢、叶えて世の中を幸せにしたいと思います。
是非、私を社長に…… 。 」
門脇は決まった…… そう思い、ガッツポーズを小さく決めていた。
一人の大株主がマイクで話し始める。
「 門脇君。 キミのキャリア取っても、申し分がない。
誰もがキミを進めるだろう。
あの事実を知るまでは…… 。 」
「 えっ…… 事実!? 」
門脇は目を大きくして動揺する。
「 九条社長は設立に当たって、一つ契約のようにずっと良い続けていた事が。
もし子供が産まれたら、その子に全ての権限を渡して社長の跡を継がせると。
私達も今まで冗談半分で聞いてきました。
だが、亡くなってからの為を思って私達に良い続けていたのだと今は思います。 」
門脇は何を言ってるのか分からない。
「 それが今の話と何が関係が?
子供なんて居る筈が…… 。 」
「 それが居たのだよ。
この社員が息子のようだよ。 」
そして資料を門脇に見せる。
その資料を掴み見てみると…… 。
「 吉田…… 明? そんな筈は…… 。 」
門脇は慌てて震えが止まらない。
「 まだDNA鑑定はしてないが、間違いないだろう。
社長のこの子への対応、病室での話を聞いた所だけでも確実だろう。
私達や社員でこの吉田明なる人物を支え…… 。 」
「 ふざけるなっ!! DNAが合う訳ないだろ!
しかも…… こんな無能の新人。
学歴も大したことないですし、勤まる筈がありません。
私が負けている所が分かりません。
納得出来る説明を下さい。 」
門脇は発狂し、口を荒々しくしながら反撃した。
負けているとは到底思えなかった。
「 門脇君。 キミは…… 社長の理念とは少し考え方が違うみたいだね。
我々は社長が入院してから、キミが代理を任されてからの行動を監視していたのだよ。
キミが社長に相応しいかね…… 。 」
まさかの事実。
門脇の行動は役人達に監視されていたのだ。
「 コストを下げて値段を安くする。
この会社の製品を海外の会社に作らせて、大量生産していこうと計画していたらしいね。 」
まさに門脇のやりたかった計画。
全て見られていた。
「 正直…… 無理だね。
中々良い考えで練り込まれていたよ。
さすがは門脇君。 だけどね…… 会社への愛がそこにはなかったんだよ。
社長が作り、築き上げてきた会社はこんな物ではない。
誰もが喜び、その技術の凄さに世界をも驚かせる。
値段は少し高いが、他社には絶対に負けない技術がそこにはある。
だから絶対質は下げられない。 」
門脇はある程度は予想していた答えだった。
だけど全く賛同出来ない。
負けない為にまた返答しようとする。
「 あとね…… これ見てくれるかい? 」
会社の社員からの署名活動だった。
内容を見ると吉田明の社長推薦だった。
凄い量の署名の数々…… 。
「 何だ…… これは!? 」
「 これはね。 最後の息を引き取る瞬間に立ち会った者しか、彼が息子だと言うことを知らなかったんだよ。
ここに居る社員でも沢山の者が、あの病室の近くに居て最後の話を聞いていたんだよ?
そして心を打たれた…… 私もその一人だ。
私も一人の親として…… 友として涙が止まらなかった。
何故キミは社長を尊敬しているに、居なかったんだい?
それがキミではなく、明君にしたい理由だよ。 」
門脇は歯ぎしりをして怒りが止まらない。
何も言い返せない。
こんなに恥をかいたのは久しぶりだった。
( 畜生…… 畜生…… 。
もうお仕舞いなのか…… 私はクビか?
社長になれないだけじゃなくて、クビ…… 。
私もあの醜い…… 父さんと同じになる。
やっぱり親子だな…… 。
血は抗えないな。 )
門脇は父親の倒産した事を思い出していた。
自分は負けたくない…… 負けたくない。
そう思いながら一生懸命生きてきた。
少しだけ頑張りすぎてしまっていたのかも知れない。
門脇はもうどうでも良くなっていた。
「 そうだね。 キミのこれからなんだけど…… 。」
ドーーンッ!!
大きな会議室の扉が開く音が。
そこに現れたのは、スーツをしっかり決めて立つ明の姿だった。
役人達は驚き、声が響き渡る。
後ろには千鶴さんも一緒に。
明の目には迷いはもうなかった。
( 行くぞ? 父さん…… 。 )
明はポケットに入れた手帳を握りしめ、いざ!
会議室へ…… 。
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