第33話 偽りの代償
全てが薔薇色に見えるくらい幸せになっていた。
式の日取りは決まってはいないが、婚約を決めて幸せを噛み締めていた。
おっさんや千鶴さん、綾さんや大切な仲間にこの事を話すと皆祝福してくれ大喜びだった。
そんなある日の事。
明の部屋で香織と二人で、明の小さい頃のアルバムを見ていた。
「 お母様。 本当に綺麗。 」
「 一生懸命俺を一人で育ててくれた。
その分、俺は母さんの分まで生きる。
それが子供として生まれた俺の意味でもあるしね。
マザコンかよ! って感じだよね。 」
照れくさそうに子供の頃のアルバムを見ながら、思い出を語っていた。
香織は愛する明の事を全て知りたかった。
悲しみや苦しみ、喜びも含め全て知れる物は全て知りたかった。
楽しそうに子供の頃の明の写真を眺めている。
すると…… 。
「 えっ…… 。 これってもしかして。 」
「 ん? どうした? 」
明も気になり写真を見る。
変哲も無い明の小学六年の運動会の写真。
明が走ってる写真。
周りの家族や先生達が一生懸命応援している。
でもそこには写っている訳がない人物が。
「 おい。 …… 千鶴さん? 」
観客の奥の方でひっそりと見つめる、若かりし千鶴さんらしき人物が写っていた。
だが偶然なのかも知れない。
基本は家族や親戚以外は運動会なんかに居る筈がない。
明にはとても偶然には見えなかった。
一つの気がかりが…… 。
明は千鶴さんに会った時、何処で会ったような気がして聞いた事があった。
本人は当然否定していた。
本当に偶然なのか?
( これは奇妙だ。 何で写ってんだよ。
良く考えてみたら、おっさんと千鶴さん。
どうして俺が自殺しようとした時、あの崖に居たんだ?
目的は? しかも俺にこんなに親切にしてくれる。
何でこんな簡単な事に気付かなかった? )
考えれば考えるほど謎だらけだ。
「 明君…… 。 大丈夫? 」
香織は動揺する明を心配して話しかける。
「 うん。 大丈夫だよ。 」
そう言いニッコリ笑うが、作り笑いなのが直ぐに分かった。
香織はその後少しして家に帰った。
明は必死に家にあるアルバムを漁って、中の写真を見まくっていた。
( 何処だ!? 絶対にまだ何処かに写ってる。
間違いない。 何処だっ? )
明は血眼になるくらいに必死に探す。
「 見つけた! やっぱり。 」
高校の文化祭。
明がわたあめ屋でわたあめを売ってる写真。
奥の方でまた、こっそり千鶴さんの姿が。
( おい。 …… こんな偶然ある訳ないだろ。
俺の思い出に千鶴さんが、少なくとも二回も写ってるなんて。 )
こうしていても拉致があかないので、千鶴さんの元へ。
家の居間で静かに紅茶を飲んでいた。
明は直ぐに問いかける。
「 千鶴さん。 ちょっと聞いてもいい? 」
「 何ですか? 急に。 」
千鶴さんは何も知らなく、訳が分からない。
「 俺の小学校って知ってる? 」
「 一応は情報程度は。 」
そう言うと明は直ぐに問いかける。
「 千鶴さんはあの田舎学校来たことある? 」
遠回しに聞いた。
そして、嘘をついた時…… 。
全てが明らかになる。
「 …… ないですけど。
それが何か? 」
間違いない。
嘘をついたのだった。
ドンッ!!
明はテーブルを強く叩いた。
「 ふざけんな!
じゃあ、これはなんだよ? 」
写真を見せて問い詰めた。
「 …… 他人のそら似でしょう。」
千鶴さんはそう言い目を反らす。
「 まだ誤魔化すつもりか!?
じゃあ、これはなんだよ? 」
高校の時の写真を見せ、千鶴さんの写ってる所を指を指した。
「 …… さぁ。 分かりません。 」
千鶴さんの声は小さく、とても弱々しかった。
「 ふん。 何か裏があるんだろ?
…… もういい。 おっさんに聞きに行く。
それで全てが分かる気がする。 」
そう言い明はドアを開けて外へ出ようとする。
千鶴さんは勢い良く立ち上がる。
「 お願い! それだけは…… 。 」
明はその言葉を聞こうとはしなかった。
直ぐにおっさんの居る病院へ。
千鶴さんはそこで膝ま付いて泣き崩れる。
「 こんな…… 。 こんな筈じゃ…… 。
この時が来て…… しまったの? 」
千鶴さんは涙が止まらなかった。
恐れていた真実に、ただ恐れるしかなかった。
明は夜遅くに病院へ着いた。
「 はぁはぁ。 着いた。
覚悟しておけよ? 」
そう言い中へ入って行った。
そして…… 病室へ着いた。
「 ん? 若造か?
どうしたこんな遅くに。 」
明は怒りが頂点に達していた。
「 おいっ!
この写真見て何か言う事はないかよ。 」
そう言い写真を見せる。
おっさんは慌て、動揺して汗が止まらない。
「 そうか…… 。
千鶴君だなこれは。 」
「 やっぱり! 」
明はその言葉が聞きたかった。
「 お前…… 。 俺の何なんだ?
あの日…… 何で崖に居た?
偶然な訳ないよな?
この写真に写ってるのも、お前の差し金じゃないのか?
なぁ? 答えろよっ!! 」
おっさんは黙って聞いていた。
そして静かに話し始める。
「 お前は…… ワシと雪奈の息子だ。
だからずっと遠くから見ていた…… 。
申し訳なかった…… 。 」
明は頭の中が真っ白になっていた。
我に返り、怒りをぶつける。
「 ふざけんなぁっ!!
お前が…… お前が俺と母さんを捨てたせいで、どれだけ母さんが苦労したか。
お前のせいで母さんが死んだんだ!
ふざけんじゃねぇーーっ! 」
明は激しく怒り、おっさんを思いっきりぶん殴った。
おっさんはベッドに倒れる。
「 ふざけんな! ふざけんな!
今更良く顔出したな?
罪滅ぼしのつもりか?
金持ちの道楽かっ?
嘗めんのもいい加減にしろよ!
誰が頼んだ? おめぇなんてオヤジじゃねぇ。
病気になって、せめての
絶対に…… 絶対に許さない。
財産なんかいるかよ。
お前とはここまでだ。
二度と会う事もない…… 。
じゃあな…… 。 」
そう言い明は病室を離れた。
おっさんは声を殺して、腕で目を隠しながら激しく泣いた。
( すまない…… すまない…… 。
許しなんかいらない!
ただ…… ただワシは…… 。 )
おっさんは泣き続けた。
声を殺して静かに…… 。
その日、おっさんは泣き止む事はなかった。
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