第32話 いつまでも一緒に


明はジュエリーショップに連絡をして、指輪のサイズを伝え新調してもらう事になった。

何と相手も一生懸命なのか、二週間足らずで出来上がると言うのだ。

何とも嬉しい話だ。

そして次の日、この事をおっさんに伝えに行く事にした。


「 おっさん。 入るぞ。 」


「 おう…… 。 少し眠ってたみたいだ。

なんだ? 差し入れでも持って来てくれたのか? 」


横たわるおっさんは、前よりもやつれて初めて会った人でも分かるくらいに、弱々しくも一生懸命生きていた。

あえて触れずに接する。

それが…… お互いにとって一番良い選択だと信じたかった。


「 おっさん…… 。 俺さぁ。

…… 香織ちゃんにプロポーズしようと思う。

応援してくれるか? 」


それを聞き、おっさんは嬉しくてたまらなくなっていた。

あのヤンチャ息子で、ちょっと前までは生きる気力も失くして自殺までしようとしてたのに、誰かを愛して結婚したいと思っている。

喜ばない筈ないだろう。


「 おうっ!?

それは…… それはでかしたなぁ!

応援するに決まってるだろ?

嬉しいなぁ。 」


おっさんは満面の笑みを浮かべ喜んだ。

明もそう言って貰えて少し自信がついた。

明はこの事を誰よりも、おっさんに聞いて欲しかったのだ。

大切な…… 大切な、かけ替えのない家族なのだから。


「 ありがとう。

上手くいったら、ここに知らせに来るよ。

時間外でも忍び込んでな! 」


明も嬉しそうに笑った。

だが、時間外のお見舞いは禁止されている。

絶対にやってはいけません。

明は少し話をして帰って行った。


( あの小さかったあいつがプロポーズかぁ…… 。)


おっさんは染々と成長を噛み締めていた。

明が成長し独り立ちして満足だったが、もっと先を見たくなってしまっていた。

もしもっと生きられれば、結婚式も参加出来るし孫の顔も見られるのに…… 。

そんな願望があっても寿命を延ばす事は出来ない。

自分の体はどんどん言うことをきかなくなっていた。

今までは「 死 」があまり怖くはなかった。

でも今は違う。

家族や会社。 残していってしまうのが心残りに。

病室で一人になり、改めて死ぬ恐怖が訪れていた。

おっさんは真っ暗の中、少し頬を濡らしていた。


そこから何日か過ぎ…… ジュエリーショップから電話が入った。


「 吉田様。 先ほど例の品物が無事到着しました。

いつでも取りにいらして下さいませ。 」


さんだゆうからの電話に明は心が踊っていた。


「 よっしゃーーっ!

遂にこの時が来たか。 」


仕事中にいきなり叫んでしまう。


「 明っ。 どうしたぁ?

頭でも打ったのかよ? 」


あっはっはっはっ!

と周りの仲間から笑われてしまう。

明は恥ずかしくなったが、今は関係ない。

何故なら、遂にこの時が来たのだから。


「 皆の者。 心して聞いて下さい。

俺…… 吉田明は、結婚指輪を購入して今日に彼女にプロポーズしたいと思います! 」


そう言うと、周りからは?

うぉおおおおおーーっ!!

凄い暑苦しい男達の叫び声が上がる。

みんなも明の幸せが凄く嬉しかったからなのだ。


「 やったなぁ。 」

「 でかしたぞ! 」

「 俺より若くて結婚とかケンカ売ってんのか? 」


色んな人から祝福や妬みやひがみが送られてきました。


「 皆さん本当にありがとうです。 」


まだプロポーズ終わってもいないのに、何故か上手くいったような雰囲気に。

明はこんなにも暖かい仲間に囲まれて、今が一番幸せだった。

そして仕事の続きをして夕方へ…… 。


ジュエリーショップで指輪を受け取りに。


「 さんだゆう!

受け取りに来ましたよ。 」


奥から直ぐにさんだゆうが現れる。


「 お待ちしておりました。

これが品物で御座います。 」


実物を見ると、給料を沢山貯めただけはある高級な指輪がそこにはあった。

美しく自然が生み出した恵み。

職人の技がそこにはあった。


「 すげぇ…… 。

ありがとうございます。

じゃあ行ってきます! 」


「 ありがとうございました。

上手くいったら絶対に知らせに来て下さいよ。 」


さんだゆうと店員達が見えなくなるまで見送っていた。


「 店長。 上手くいきますかね? 」


「 はい。 絶対に…… 。

あんなに一生懸命思われてる彼女さんは幸せ者ですよ。

早く吉田様の喜ぶ顔が見たいものです。

だからこの仕事は辞められません。 」


さんだゆうはそう言い微笑んだ。

最高の知らせを楽しみにして。


明は待ち合わせ場所に着くと直ぐに香織さんも合流して目的地へ。


「 お腹減っちゃったね。

何食べようかぁ? 」


「 今日は俺に任せて!

良い店探して来たから。 」


そう言いレストランに向かった。

香織さんは少し怪しく思っていた。

この前の指輪の件から何か企んでいると感じていた。


( 何かある。 …… 絶対に何か。

レストラン何かいつも予約なんてしないのに。

明君。 もしかしてサプライズであの指輪プレゼントしてくれるのかな? )


そう思っていた。

あの時見た指輪は正直安物で、そんなには気に入ってはなかった。

だけど明から貰えるプレゼントならどんな物でも楽しみになっていた。

ドキドキしながらレストランへ。

明も心臓の高鳴りが止まらない。

二人はオシャレなレストランに着き、予約していた席に案内される。

明が奮発したのが直ぐに分かるお店だった。


「 今日はビーフのフルコースを頼んでるんだ。

絶対に気に入ってくれると思うよ。 」


明はニコニコと話す。

その時、椅子に座っている明のポケットが膨らんでいる事に気付いた。


( あれは? まさか…… 指輪? )


膨らみが指輪の入れ物のような形になっていた。

まるで子供がポケットに大切な物を詰め込んでいるように見えた。


「 前菜の春野菜のカルパッチョで御座います。 」


料理が運ばれて来ると、二人は目を輝かせて見ていた。


「 凄い綺麗だね。 」


「 本当に食べるの勿体ないよぉ。」


二人は慣れない高級料理に興奮しながら食べていた。

メインのリブロースステーキが運ばれて来る。


「 えぇっ!?

こんな高そうなステーキ。

お金は大丈夫!? 」


香織さんは気を遣い心配してくれる。


「 大丈夫!

全然大丈夫だから気にせず食べよう。 」


一口食べると、お肉の上質な油と旨味が口の中で広がり幸せいっぱいに。


「 美味しいぃーーっ。 」


二人は口を揃えて言ってしまう。

たまには少し無理しても、上質な物を食べるのも楽しく生きる為に必要な事だ。

二人は食べ終えると、明は少しトイレに席を離れた。

香織さんは待ってる間に、シャンパンを飲みながら雰囲気を楽しんでいた。

少し時間が経ってもまだ戻って来ない。

お腹の調子でも悪いのか気になる。

すると?


「 ごめんごめん。 少し混んでて。 」


明らかに嘘っぽかった。

でもお腹が調子悪いならそう言えば良いのに…… 。

香織さんが明のポケットを見ると、膨らみが失くなっていた。


( えっ…… ?

もしかしてあの指輪、他の人にあげちゃったのかな?

遅かったのって誰かにあげて来たの?? )


少し不安と疑いが芽生えていた。

でも根拠が無いため問いた出す事も出来ない。

そこにデザートのアイスがやって来た。


「 お待たせしました。

デザートの牧場採れたて牛乳から作ったジェラートになります。 」


店員がそう言い明にウインクをする。

明も静かにうなずく。


「 さぁ。 食べようか。 」


香織さんは少し元気がなくなり食欲が沸かなかった。


「 私…… 。 お腹いっぱい。 」


明はその返答に慌てまくる。


「 えっ!? 少しでも良いから食べようよ。

本当に美味しいんだから。 ねっ?? 」


あまり乗り気ではなかったが、仕方なくジェラートに手を伸ばす。

当然、味は美味しい。

少し不安によりあんまり美味しく感じなかった。

折角のデザートだから、二口目。

三口目と口に運ぶ。


( ん? 何か硬いのが口にあるぞ? )


そう思い口からナプキンに出してみる。


「 えっ……? これって。 」


その硬い物の正体は綺麗なサファイアの指輪だった。

何が何だか驚きが隠せないでいると。


「 それ、ちょっと貸してくれるかい? 」


明はそう言い、指輪をナプキンで綺麗に拭く。

そして香織さんの前に来て、膝をつき。


「 一緒にもっと居たくて準備したんだ。

香織ちゃんを愛してる。

俺で良ければ一生一緒に居てください…… 。 」


照れくさそうにそう言い、薬指に指輪をはめる。

サイズもぴったり。

凄い綺麗に指輪は輝いていた。


「 えっ? もしかして…… この為にこの前指輪のサイズ調べてたの? 」


「 そうだよ? 」


早とちりをしてしまい、少しでも疑ってしまった自分を恥じた。

明が自分を裏切る筈はない…… 。

嬉しくて不安も無くなり、涙がこぼれる。


「 …… うん。 ぐすんっ。

えへ。 明君が良いのっ!

こちらこそ一生一緒に居よう?? 」


返事は勿論OKだった。

それを聞き明は飛び上がり抱き締める。


「 やったぁーー!

結婚しよう。 愛してる。 」


そう言い強く抱き締める。

レストランの中でいきなり恥ずかしいと思っていると。


パコーーーンッ!!

クラッカーの音が周りから鳴り響く。

そして周りからは拍手喝采。


「 えっ? どうなってるの?? 」


店員さん達も集まり、皆に祝福して貰う。


「 ここのお店に前もって来て知らせてたんだよ?

アイスに指輪入れて貰ったりとか、今居るお客さん皆に前もって店員さんがこの事伝えてくれてたんだ。

だから皆もビックリしてないの。 」


明からのサプライズだった。


「 本当にジェラートを食べないって言った時、どうしようかと思いましたよ。 」


店員さんも一安心して喜んでいた。

周りのお客さんからも優しい言葉と拍手が止まない。


「 本当に明君は最高の旦那さんだよ!

こんなサプライズまで用意して。 」


照れくさそうにそう言い笑い合う。

明も凄い幸せだった。

その日、明にはかけ替えのない家族が増えた。

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