第31話 指輪


明は仕事を毎日努力して、誰からもバカにされないくらい頑張った。

周りからも入って少ししか経ってないとは思えないくらい成長していた。

給料は新人と言ってもさすがは大手。

なかなかの手取りが貰える。

汗水流して頑張っている社員への報酬だ。

明は最近は無駄遣いをせずに貯蓄していた。

目標の物を買うために…… 。


( 中々貯まったぞ。

また仕事帰りに寄ってみようかな? )


明は仕事が終わり、何処かへ向かった。


着いた場所は高級ジュエリーショップ。

プロの職人による仕事ぶりが伺える品の数々。

高級には全くと言っても興味の無い男が、何故ここに通いつめているのか?

鞄やネックレスに指輪に財布。

目が飛び出るくらいの金額。

明は店内のショーケースを見ていた。

そこに店員さんが近寄って来た。


「 あら? 吉田様。

また来ていたんですね。 」


若い女性の店員さんとは顔見知りなっていた。

どれくらい通いつめていたのか?


「 んー…… 。 よしっ!

これにしよっと。 」


明が指指したのはサファイアの結婚指輪。


「 今日は見るだけじゃないんですか? 」


「 はい。 彼女にプロポーズしようって思って。

彼女は宝石で一番サファイアが好きって言ってたので、絶対これにしようって思って。 」


何と!? 香織さんにプロポーズを決意していた。

まだ付き合ってそんなに長くはなかった。

でも何度もデートをして、もうこの人以外は考えられない。

なら少しでも早く一緒になりたい!!

そう思った時に指輪を買う決意をした。

ずっと品定めをして、お金を貯めつつこの日を待っていた。


「 吉田様。 よくぞ決心なさいました。

おめでとうございます。 」


支配人の三田優さんだゆう

さんだゆうってフルネームで呼びたくなる名前だ。


「 さんだゆう。 本当に長かったです。

凄い貯めるの頑張ったんですから。 」


あだ名のように、さんだゆうっと呼ぶ仲に。

さんだゆうは明の一途な姿に、とても初々しくも一生懸命さが大好きだった。

だから来るのを凄い楽しみになっていた。


「 吉田様。 彼女さんの指のサイズはいくつかは分かりますか?

そのサイズの指輪を新調致しますので。 」


「 あっ…… 。 」


「 吉田様? …… まさか。 」


さんだゆうの感じた 「 まさか。 」 が当たっていた。


「 サイズってあるんですね。 」


まさかの大ミス!

抜かりなくやってきたが、彼女の指のサイズを知らなかった。

指輪とかには無縁だったので、全く知識がなかったのだった。


「 了解しました…… 。

吉田様。 彼女さんのサイズをどうにかお調べ下さい。

そうしましたら直ぐに、指輪の新調を致しますので。

頑張って下さい。 お待ちしております。 」


励まされながらも落ち込みながら帰って行った。

その悲しい後ろ姿を見続けていた。


「 支配人。 何で吉田様の事を気に入ってるんですか?

支配人ならもっとお金持ちで、上品なお客様に付けば気に入って貰えて、お得意様とかも増やせるのに。

吉田様なら私に任せてくれれば…… 。 」


そう女性店員が言うと。


「 渚君。 それは違うよ?

私達のお店は高級なジュエリーショップ。

お金持ちがお得意様になるのが当然。

だけれども人間はお金持ちだけじゃありません。

収入が少なくても高級な物が欲しい、その輝きを永遠に愛する人に無理してでも送りたい。

その一生懸命な想いこそが、彼女への本当の愛なのですよ。

私はそんな彼に惹かれたのです。 」


さすがは支配人。

何年も高級な物を扱ってきただけはある。


「 だからお客様を見た目で判断はいけません。

渚君にもそんな風に考えられるようになって貰いたいです。 」


「 間違ってました。

私も…… あんな風に一生懸命な人にプロポーズされたくなっちゃいました。 」


明は周りに本当に恵まれていた。

いつの間にか、心を閉ざして生活していた時より自分の素直な気持ちを出してからは、誰からも愛されるようになっていた。

本当に明は変わったのだった。


部屋に帰り、一人作戦を考えていた。


「 クソぉ…… 一手足りなかったか。

どうやってサイズ調べるかぁ。 」


明は一人模索していた。

あの手やこの手。

考えれば考える程に、結婚指輪買うのではないか?

と勘づかれそうなのが心配になる。


「 指輪? 結婚指輪ですか? 」


後ろからいつの間にか近付き、横に何食わぬ顔して千鶴さんが立っていた。


「 うわぁっ! いきなり入って来ないで下さいよ。

ここは俺の部屋なんだから。 」


「 ノックしましたよ。

返答がないので入って来ただけですよ。 」


なん足る言い訳。

ただし、夢中で聞こえなかったのは事実…… 。

仕方ないので指輪の話をした。


「 ほうほう。 プロポーズっ!?

私でもまだなのに! 」


いつもの冷静さを失って語気が荒くなっていた。


「 どうやってサイズ調べたらいいかな? 」


「 堂々と真っ正面からぶち当たれ!

男なんだから。 」


そう言い直ぐに出て行ってしまいました。

少し羨ましかったのかもしれない…… 。


「 何だよあれ…… 。

仕方ないから一人で考えよう。 」


明は夜中まで考えまくるのだった。


次の日…… 。

仕事帰りにデートする事になっていて、二人は近所のオムライス屋さんに行く事に。


「 じゃあ、何頼もうかなぁ。 」


香織さんはオムライスが大好きなので、ニコニコしながらメニューを眺めている。

明はドキドキしながら作戦を実行しようとしていた。


( よし…… 。 後はタイミングだ。

頑張れ! 俺。 )


「 そう言えば…… 俺って指太いんだよね。 」


いきなり不自然な話を振る。


「 えっ? そうかなぁ?

普通だよぉ。 私も太いかな。 」


( 来た! そのセリフを待っていた。 )


「 指のサイズって…… どれくらい? 」


確信に迫る質問をした。


「 どうだろ? 最近全然してないから忘れちゃったなぁ。 」


指のサイズを覚えてない人は意外に多い。


( 何ぃー? ヤバい…… 。

良い聞き方だったのに。

どうすれば。 )


明はオムライスを黙々と食べながら、次の作戦を考えていた。


「 ここのオムライスもこもこで美味しいね! 」


「 あっ。 そうだね…… 。

本当に美味しいね! 」


香織さんはいつもと様子が違う明に違和感を感じていた。

何かソワソワしている。

香織さんは明をいつもより良く見て観察した。


「 そうだ! この後に近くに雑貨屋みたいな所があるんだけど、行ってみないかい?? 」


「 うん。 行ってみたぁい! 」


明の作戦2が実行されようとしていた。

食べ終わり、二人は雑貨屋へ行った。


「 うわぁ。 いっぱいあるね。 」


「 そうだねぇ。 沢山ある。 」


そして明は直ぐに安い指輪コーナーを見つける。


( ここだ! ここで指のサイズを測るぞ。 )


「 あっ!! コンナトコロニユビワコーナーガアルゾ。 」


少し片言になりながら勧める。


「 指輪コーナー? 」


香織さんも指輪を色々眺めている。


「 綺麗だねぇ。 これも綺麗。 」


香織さんは目をキラキラさせながら見ている。


「 これなんて良いんじゃない? 」


明は直ぐに指輪を見つけて香織さんにはめてみる。


「 本当だね。 ぴったり! 」


( 一発で当てられたぜ!

よしっ。 後はあの指輪をこっそり買って、そのサイズをさんだゆうに見せれば任務完了だ。 )


指輪を少し見た後に雑貨屋を探索する。


「 そうだ! 少しトイレに行ってくる。 」


そう言い直ぐに走って行った。


( 何か怪しいなぁ…… 。

今日はずっとソワソワしてるし。 )


香織さんは明に不信感を持っていると。


「 さっきのどんくさそうなの彼氏かい? 」


清掃のおばちゃんが話をかけてきた。


「 はいっ! 自慢の彼氏ですよ。 」


香織さんは自信持って自慢した。


「 あんた……

結構勘が鈍いって言われないかい? 」


「 少し…… 。 」


香織さんはそう言うと。


「 さっきの彼氏さん。

指輪コーナーの時見ていたけど、指輪何か見ないでずっとあんたの指ばっかり見てたわよ。

多分、あんたの指のサイズ知りたいんじゃない?

後はトイレじゃなくて、あたしの勘ではさっきのぴったりの指輪買いに行ったわよ。

本当に要領悪い彼氏ね。

でも、男って不器用ぐらいが一番可愛いのかもね。」


そう言い掃除に戻っていった。

お節介おばさんだった。


( 言われてみたら、今日は指の話が多い気が。

戻って来たら買ったか調べてやる! )


少し香織さんも探偵のような調査が始まる。


「 ごめんごめん。 トイレが混んでて。 」


「 全然大丈夫だよ。

そう言えば私のあげたお守りちゃんと持ってる? 」


明は直ぐに自慢気に財布を持ち。


「 いつも財布に入れてるよ。 」


「 ちょっと見てもいい? 」


明は財布を渡した。


香織さんはお守りを見たかった訳ではない。

明は直ぐに財布の中にレシートを溜める癖がある。

もし指輪を買ったなら、ここの名前の入ったレシートがある筈だと確信していた。


( 本当にあるのかなぁ。

…… あった! やっぱり買ってる。

もしかして…… プレゼントなのかなぁ? )


香織さんは少しずつ確信に迫っていた。

バレるのも時間の問題のようだった。

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