第30話 二人の時間


明の休み。

何をしようか悩む…… 。

デートをしようか、それとも仕事の疲れを癒そうか。

色々悩んでしまう。


( …… んー、いつも行ってるけどおっさんのとこでも行こうかな。

あいつ寂しがりやだもんな。 )


明はおっさんの事が気になり病院へ。

やっぱり心配なのだ。


( んふふっ。 差し入れはお饅頭だぞ。

結構お高いんだから。

病人に食べさせて良いのかなぁ? )


そう思いながら病室に向かっていると。


「 主任! また九条さんが居ません!! 」


「 何ぃ!? 直ぐに探しなさい。 」


おっさんは脱走していた。

たまにやるのだ。


「 あの野郎…… 。

病人のくせに子供みたいに逃げやがって。 」


直ぐに明はおっさんを探す。

おっさんはもう一人ではほとんど動けない。

元々車椅子でしか動けなかったが、誰かに押して貰わないと車椅子でも外には出れない。

だから誰かがおっさんに力を貸している筈。

屋上から周りを見渡す。


( 何処行った? あのベイビー野郎は。 )


必死に探すと、おっさんの車椅子を押している謎の男を見つける。

遠くで何とか見えたから、ほとんど誰かは分からない。


「 何だ? あれは。 」


明は誘拐か?

と思い、走って追いかけた。


おっさんは焼き鳥屋村上の店長と一緒だった。


「 大門ちゃん。

良いのかい? 勝手に出て来て。 」


「 良いんだ良いんだ。

あんな所にずっと居たら息が詰まる。 」


そう言い二人はラーメン屋に。

安いけど地味に美味しい、昔ながらのお店だ。


「 大門ちゃん。

良いのかい? このまま明君に黙ってて。 」


「 良いんだよ。 捨てたようなもんだし、何を言おうが言い訳にしかならん。

俺が死んだら明を頼みます…… 。 」


おっさんは店長に頼み込む。

店長は言いにくそうに話す。


「 明君は任せな。

大門ちゃんと雪奈ちゃんの息子は、俺の可愛い孫同然だからな。

あいつは本当に二人に似ているな。

雪奈ちゃんに似て優しく、お前さんのようにたまに下品で。 」


二人は酒を飲みながら話す。


「 ワシには…… 似てない。

あいつの血は100%雪奈のだ。 」


恥ずかしそうにそう言う。


「 あの子は親父の姿を知らない。

だから大門ちゃんを本当の親父のようにしたっていると思うよ。

俺には二人がいつも本当の親子にしか見えないし。」


ラーメンが着き、食べながら話す。


「 ズルルーーッ!!

今でも後悔してるよ…… 。

仕事を選ばずに雪奈の嘘に気付いていられていたら、雪奈は病気にならなかっただろうしワシは、今あいつの親父で居られたのかなって。

夢は叶っても、大切な人を守れなかったんだ。 」


おっさんは後悔しかなかった。


「 大門ちゃんは遠くから見守って居たんだろ?

今は嘘ついて一緒に居ても、俺には立派な親父に見えるよ。」


店長さんは優しくおっさんを励ます。


「 ありがとう。 にしても、ここのラーメン味が落ちてないかい? 」


「 言われてみると…… 。 」


その話を聞き厨房からラーメン屋の店長が出てきた。


「 お前ら! 文句ばっか言ってんな。

何にも変えてないわい。 」


80代後半の店長が激怒する。


「 冗談だよ。 元気か確かめただけだよ。 」


二人で店長さんをからかった。

店長には冗談が通じなかった。

二人はゲラゲラ笑っていた。


ガラガラーーッ!!


「 見つけたぞ!

この病人野郎は。

あれ? 焼き鳥屋の親父さん? 」


明は息を切らしながら入って来た。

親父さんは小さな声でおっさんに話しかける。


「 あんなに必死に探してくれるなんてね。

本当に可愛い息子さんだよ。 」


そう言いニッコリ笑う。


「 若造! ラーメンぐらい食わせろ。

病院食には飽きたんだよ。 」


ダダをこねまくる。

親父さんはそれを聞き笑っている。


「 子供かよ。 にしても…… 腹減ったなぁ。

俺も食べようっと!

マスター。 一番美味しいラーメン頂戴! 」


厨房からふらふら出てきた。


「 全部うめぇんだよ。

ちょっと待ってろ。 」


文句垂れながらも料理し始める。

これが常連が辞められない理由なのかも。

三人はラーメンを食べ終えて帰る事に。


「 じゃあね。 親っさん!

また食べに行くね。 」


「 またなぁ! 親父さん。 」


親父さんを手を降って見送る。

親父さんもゆっくり帰る。


( 後何回…… 大門ちゃんに会えるのかな……。

病気で苦しいのにあんなに無理して。

俺が、絶対面倒見るから安心してくれよ。 )


親父さんは強くそう思った。


「 じゃあ、帰るか? 」


明がそう言うと、おっさんは遠くを指差す。


「 あそこの公園行こう! 」


夕方になりそうで、少し肌寒くなってきている。

なのに言うことを聞かない。

仕方なく公園へ。


「 公園で何したいんだよ。 」


「 ここにも何度も来てな。

最近は全然来てなくて。 」


そう言い、公園を見渡していた。


( 何だよ…… 染々と感じやがって。 )


明はブランコに乗り、大きく振り子のように揺らす。


「 なぁ…… 。 体は大丈夫なのか?

痛くないのか? 」


明はブランコに乗りながら尋ねた。


「 ふっ。 大した事ないわい。

そんな事より彼女と上手くやれてんのか? 」


「 普通に上手くいってるよ。

俺は…… おっさんが居なくなったら、寂しくなる。

だから…… 絶対死ぬなよ? 」


おっさんは胸が張り裂けそうになった。

愛され、届かなかった息子がこんなにも近くに居る。

なのに…… そろそろお迎えが来る。

もっと、もっと、沢山の事を教えたい…… 。

結婚式や孫の姿。

言ったらキリがないくらいやり残した事だらけだ。

死なない…… と簡単には口に出来なかった。


「 何弱気になってる。

お前にはもう仕事や彼女。

友達や同僚のみんな…… 沢山の仲間が居る。

寂しいもんか。 …… 前を向け。

お前は、もうメガネ何かに頼らなくても立派な男になってるんだ。

自信を持て。 」


明はその言葉をしっかりと聞き、理解は出来ても割りきれなかった。

それが人間と言う者だ。


「 …… 分かってるよ。

でも、辛いときは言えよ?

俺が力になるから。

もう…… 家族みたいなもんだろ? 」


おっさんは 「 家族 」と言う言葉が何より嬉しかった。

近くに居ても他人だったあの頃とは違う。

本当に嬉しくて泣きそうになる。

でも絶対に泣かない…… 。

泣いたら明も辛くなるのだから…… 。


「 …… そうだな。

そのときはお前さんに頼ろうかな。 」


そう言い二人は笑った。

明も頼ってもらえて嬉しかった。

少し肌寒くなり、夕方に。


「 そろそろ帰るか?

おっさん。 」


「 うむ。 …… また病院かぁ。 」


車椅子を押されながらしょんぼりする。


「 何ワガママ言ってんだよ。

あそこが一番安全なんだから。

そうだ! 病室のテレビ使ってゲームしようぜ。

すげぇ面白いの買ったんだ。 」


「 それを先に言いなさい!

早く病室に戻るぞ。

オールで起きて盛り上がろう。」


二人はウキウキになり病院へ。

当然、帰ったら鬼の主任看護士が待っている。

叱られてゲームが出来ないのを二人はまだ知らない。


その頃…… 。

日下部はキャバクラで豪遊していた。


「 あっはっは! もう少しで出世しそうなんだよ。

ドンドン酒持ってこーーい。 」


日下部はギャバ嬢に囲まれ楽しんでいた。


プルルルルーーッ!

スマホが鳴る。


「 もしもし。 ん? お前かぁ。

鑑定終わったのか?

…… えっ? …… えーーーーっ!?

もう一度言ってくれ! 」


「 ほとんどの確率で親子だよ。 」


鑑定が終わり事実を伝えられた。

酔いも冷め、立ち上がり呆然とする。

静かに電話を切り、ゆっくり座る。


「 …… お会計を。

まさか…… まさか。 吉田明が息子!?

…… この事は当分黙っていよう。

うん。 それが一番だ。 」


そう言い聞かせてゆっくり帰って行った。

また一人秘密を知る者が増えた。

この先どうなるのか??

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