第29話 一人立ち
( おっさんが入院してから数週間…… 。
おっさんは口では元気だと言ってるけど、正直顔色も良くないし辛そうだ。
体の事も配慮しておっさんには眼鏡をかけさせるのを禁止した。
少しでも…… 少しでも長く生きて欲しいから。
一人で仕事に行く時とか、仕事中とかはいつもおっさんと一緒だったから、何か物足りなさを感じる。)
明は少し上の空になる事が多くなった。
だからと言って仕事は真面目に頑張っていた。
先輩の言うことを聞き、掃除や商品開発の補助や商品レビューや耐久テスト。
やることが沢山ありすぎる。
少し落ち込んでいた時、伊藤さんとお昼一緒になった。
「 先輩? 珍しく一人ですね。
どうかしたんですか? 」
明はおっさんの容態…… メガネを使わなくなったこと。
ほとんど話した。
伊藤さんは話を聞いている時にずっと思うことが。
このままおじ様が亡くなったら、親子だと分かる前に離れ離れになってしまう。
後から知ったら絶対に後悔するだろう…… 。
だけど内緒にすると約束したから言えない。
( …… 先輩。 あなたを見ていると凄い言いたくなっちゃう。
だって、こんなにも近くに居るのに親子だって分からないで居るなんて…… 。
何か…… 寂しい。 )
心が痛かった。
おっさんの気持ちを配慮すると絶対に言えない。
内緒と言うのは知れて嬉しい反面。
言えない苦しさもある。
伊藤さんは明を励ましつつ、お昼を終え仕事場に戻る明。
「 少し宜しいですか? 」
そこに現れたのは、千鶴さんだった。
「 ええ。 是非!
千鶴さん、今日はどうしたんですか? 」
「 社長がメガネ着けられない分、私に見張ってろってうるさくて。
本当に親バカですよね。 」
千鶴さんは伊藤さんがおっさんの秘密を知っているのを分かっている。
「 千鶴さん…… 。
何で話しちゃダメなんですか?
絶対後で後悔しますよ! 」
千鶴さんはカフェオレを少し飲みつつ、ゆっくり口を開く。
「 まだあなたには難しいのかも知れない。
親にならないと分からないのかもね。
もし明様に親だと話して拒絶されたら?
今まで黙ってて何て言い訳するの? 」
伊藤さんはその問いに答えられない。
「 あの方はずっと、ずーーっと、遠くから明様を見守って来たんです。
声をかけたくても黙って耐えたんです。
今はどんなに嘘をついて一緒に居るかも知れません。
でもあの方にとっては、仲良く家族のようになれただけでも凄い幸せなんですよ。
不器用で意地っ張りで。
親子揃ってそっくりね。 」
千鶴さんは笑っていた。
伊藤さんは苦笑いする事しか出来なかった。
赤の他人に何が出来るのか?
二人には色々世話になってきた。
何か出来ないか…… ずっと考えていた。
こんなにも色んな人に心配される。
二人は幸せ者だと思う。
明は仕事が終わり、病院にお見舞いに行こうと作業着からスーツ着替え帰ろうとする。
「 やぁ。 吉田君。 」
玄関から出ようとすると、門脇が待っていた。
「 門脇さん。 こんにちは。 」
「 今から病院かい?
社長も大変だね。
お大事にと伝えといてくれるかい? 」
明は門脇が嫌いだった。
上の者には仮面を被り嘘偽りにより、自分の地位を上げる為に必死。
部下には態度はでかく、
明はその目が嫌いだった。
一番嫌いな理由は…… おっさんの事を心配してはいなかったからだ。
「 ええ。 伝えときますよ。
それでは失礼します。 」
作り笑いをし、直ぐに帰ろうとする。
「 なぁ? 会社の為に貢献するのではなく、社員達の事や品質ばかり
いきなり問いかけられる。
「 私は間違ってなんかいないかと…… 。 」
「 甘いっ! 甘過ぎる!
品質? 社員の為? 馬鹿らしい…… 。
もっと会社をでかくしてからで良いだろ?
偽善だよ。 私ならもっと上手くやれている。
あの人は無駄が多すぎるんだよ。 」
門脇は熱くなり話してきた。
明は黙って聞いていた。
「 お前…… 母子家庭だったんだってな?
貧乏で塾にも行ってなかったんだろ?
高校だって大したとこじゃないし、大学もろくなとこじゃないし。
貧乏はなぁ。 頭が良くなんてなれないし、上の立場になれないんだよ。
世の中は金と地位なんだよ!!
分かるか? 生まれた瞬間から決まってんだよ。
社長に気に入ってもらってラッキーだったな。
お前何かじゃ、この会社の社員何かにもなれないくらいの無能野郎なんだから。 」
ボロクソに言われてしまった。
門脇もつい、本音が沢山出てしまっていた。
( おっと…… つい本音が。
まだ社長じゃないしこの辺にしておこう。 )
「 悪いね。 悪気はないんだ。
あまりきにし過ぎないでくれたまえ。 」
門脇はそう言い帰ろうとする。
「 俺は…… 母さんの子に生まれてきて、貧乏だったけど一度も、それを恥ずかしいと思った事はないです。 」
門脇は止まり明の言葉を聞いた。
「 上に行くのは金持ちなのかも知れない。
頭が良いとかも全てはお金なのかも知れない。
…… でも、世の中はお金だけじゃないですよ。
俺は…… そうおっさんに教えて貰いました。
失礼します。 」
明はニッコリ笑い、帰って行った。
門脇は立ち止まりながらイライラしていた。
( イライラするんだよ…… 底辺の奴は!
あいつ見ていると何故か苛立ちが止まらない。
何で同じ話をしてくるんだよ…… 。 )
門脇が若い頃の事を思い出していた。
まだ会社は小さく、おっさんと他に社員が何十名かの小規模な会社の頃。
門脇はおっさんと立ち食い蕎麦を食べていた。
「 社長! 私の父さんは負け組ですよ。
倒産して家は貧乏になり、塾にも全然通わせて貰えずに周りよりも大変でした。
親さえちゃんとしてれば…… 。
もっと頭良くなれただろうし、資格だって沢山取れただろうし。
世の中不公平だと思いませんか? 」
その時門脇は、世の中の不条理に耐えられなくなっていた。
「 ズルズルーーっ! もぐもぐ…… 。
門脇。 何でも親のせいにしちゃいけないよ?
ワシもそんなに家庭は裕福ではなかった。
だからと言って、親を恥じた事はなかったよ。
門脇にはお金では買えない、かけ替えのない大切な物を見つけてもらいたいな。 」
おっさんはニッコリ笑いながら頭を撫でた。
門脇にはその意味が全く分からなかった。
ただの
ふと思い出していた。
門脇は眼鏡が少し曇っていたのを拭き、仕事場に戻っていった。
何故か明を見ると、おっさんが重なって見えていた。
その頃、日下部から預かったDNAを調べていた友達が検査結果を見ていた。
「 おいおい…… マジかよ。
あの九条大門の正真正銘の息子かよ。 」
結果をパソコンの画面で見て驚愕する。
98.88%この二人のDNAが一致。
世間で分かれば特ダネになるくらい。
今、九条グループの跡取りが居ないと思われていた。
だからこそこの事実は、世間を…… 嫌、会社を、門脇を驚愕させるだろう。
日下部は何も知らずに結果を聞きに立ち寄っていた。
驚愕するとも知らずに…… 。
明は少し気分が悪くなっていたが、気分を変えながら走っていた。
「 おっさん最近あんまり美味いの食ってないだろうからなぁ。
よっしゃ! 焼き鳥屋でお弁当でも作ってもらお!
喜ぶぞぉー! 」
明は何も知らずに呑気に焼き鳥屋へ。
明が真実を知るのも、時間の問題なのかも知れない。
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