第28話 おっさんの限界
明は父親の存在が気になりつつも仕事をせっせと頑張っていた。
父親見つけたらどうしたいか?
何も決まっていない。
でも…… もし生きているなら会ってみたい。
ただの興味本位みたいなもんなのかもしれない。
おっさんは危ない火種を一つずつ消していく。
明の為…… 嫌、自分の為にも。
こんなに明と仲良くなれたのに、父親と分かったら突き放される。
それが何よりも怖かった。
「 社長。 そろそろ明様に話してみては? 」
千鶴さんからそう提案されると。
おっさんは息を荒くしながら怒った。
「 勝手な事を言うな!
捨てた親がどの面さげて会える?
罪滅ぼしのつもりか?
何て言われるのが関の山だ。
だから後少し、ワシが死んだらお前から話せ。 」
この事だけは絶対に譲らなかった。
その場を千鶴さんが去ろうとして立ち止まり、おっさんの所に戻ってきた。
「 いつまで遠くから見てるつもりですか!?
ずっと学生の頃から社長と明様を見てきました。
真実を話し、拒絶されるのが怖いですか?
明様を信じられないんです?
自分だけ被害者ずらしないで下さい!
私だって…… 嘘をついていて、心が痛いんです。」
おっさんは黙ってその言葉を受け止めた。
「 千鶴君。 付き合わせてすまない。
ちょっとイライラしてしまっていて、つい思ってもいないことを口にしてしまった。 」
「 いえ。 ただ、私もずっとあの子を見てきました。
バレないようにずっと。
彼女が出来た時も、文化祭の時もずっと。
雪奈さんが亡くなって、少しメンタルが落ちていた時もありました。
今のあの子なら受け止めてくれるんじゃないですか?
私はそう思います。 」
おっさんはその言葉を聞き、少し救われた気持ちになっていた。
「 そうだったな…… 。
キミも私とあいつを見てきたんだもんな。
もう家族同然だもんな。 」
千鶴さんは少し笑いながら。
「 そうです。 だから勝手に父親ずらしないで下さい。
私はあの子のお姉さん同然なんですから。
だから一人で抱え込まないで下さい。
私が居るんですから。 」
そう言い二人で笑った。
千鶴さんが部屋を出ると…… 。
ドンッ!!
凄い鈍い音が鳴り響く。
直ぐに千鶴さんは部屋に入る。
「 社長ーーっ!! 」
おっさんが倒れた。
直ぐに救急車を呼び運ばれた。
明は仕事をしていた。
( ん〜っ! 今日も絶好調!
出来るようになるって気持ちいいな。
おっさん何してんだろうな。
メガネ使って見てみるか。 )
メガネの映る映像をおっさんのを共有する。
いつもはおっさんがこの機能を使っている。
そして明の見る景色は、おっさんの見る物に変わる。
( ん? …… なんだここ?
救急車の中なのか!? )
周りの声や千鶴さんが付き添いで居るのが見える。
直ぐに映像を切り、明は呆然と立っていた。
「 おっさん! 待ってろ!! 」
明は上司に早退の届けを出し、直ぐに近くの病院へ向かう。
明は汗だくになりながら、人混みをぶつかりながら走る。
明は嫌な予感しかしなかった。
( おっさん…… 。 一人にするな。
まだ教えて貰いたい事、教えたい事…… 沢山ありすぎる。
だから、まだ死なないでくれっ! )
願いながら走る。
病院に着くと、緊急手術を受けていた。
椅子に座る千鶴さんが居た。
「 明様? 何故ここに? 」
「 おっさんは!? おっさんは大丈夫なの? 」
心配でいても立ってもいられない。
「 落ち着いて下さい。
社長は大丈夫です。
あの人はそんなに弱くありません。
だから二人で待ちましょう? 」
そう言われると、少し落ち着いて椅子に座った。
手術室のランプが消え、先生が出てきた。
「 先生! おっさんは!? 」
「 落ち着いて下さい。
元々の病気のせいでもありますが、少し無理し過ぎたようですね。
もう峠は越えました。
ただ…… 今までのように外に沢山出る事や、緊張やストレスは出来るだけ避けないといけません。
入院が必要ですね。 」
命は取り留めた。
だが、最近の無理や薬やストレスにより体に負担をかけていたようだった。
でも生きててくれただけで嬉しかった。
「 社長…… すみません!! 」
千鶴さんが泣き崩れた。
「 千鶴さん!? どうしたんですか? 」
千鶴さんは今日、おっさんと言い争いをしてストレスや心拍数を上げさせたのが理由だと明に話した。
「 関係ないですよ。
おっさんが目が覚めたらそう言いますよ。
心配性なんだから千鶴さんは。 」
明はニッコリ笑った。
本当は明だって辛いのに、励まそうとする姿に心が痛かった。
( 明様…… 。 本当にあなたは社長そっくり。
いつも私の心を救ってくれる。
…… ありがとう。 )
千鶴さんは涙を拭い立ち上がる。
「 おほんっ!
少しお恥ずかしい所を見せました。
病室に行きますよ。 」
何事も無かったように病室に向かう。
( 本当に恥ずかしがりやなんだから。 )
明も直ぐに後を追う。
おっさんはそこから何時間かして、静かに目が覚める。
ベッドから見えたのは、椅子で疲れて寝ている明にちゃんと起きて待っていた千鶴さんだった。
「 社長ーー! ごめんなさい。
ごめんなさい…… 。 」
千鶴さんは目が覚めたおっさんに抱きついた。
自分のせいだと思い、責任を感じいても立ってもいられなかった。
「 おいおい…… 少し倒れたくらいで大袈裟な。
キミは心配性なのがいけないなぁ。
千鶴君のせいなんかじゃないよ。
少し体が調子悪いのに無理し過ぎただけだよ。 」
おっさんはニッコリ笑った。
体は辛かったが、千鶴さんの悲しい顔は見てられなかった。
「 はい…… 。 ふふっ。
本当に親子ですね。
明様も同じ事言って励ましてくれましたよ。 」
千鶴さんは少し安心し笑った。
「 なぁーに、ワシの息子なんだから同然だ。
もっと男らしくなってもらいたいもんだ! 」
照れくさそうに語っていた。
おっさんは体が調子悪いから入院し安静にする事になった。
テレビでもニュースになっていた。
少しして明も目が覚める。
「 おっさん! 無理すんなよ。
みんなに心配かけさせんなよ! 」
「 うるさいわ! デカい声出して。
寝てた奴に言われたくないわ。 」
明は少し恥ずかしくなった。
でも仕方がない事だった。
仕事で疲れているんだから。
そして千鶴さんに任せて帰る事に。
本当は付き添いたかったが、おっさんに男の介護は気持ち悪いから帰れ! と言われた。
( にゃろぉー…… 。 折角心配してんのに。
帰ったら今日早退した分の仕事を家でやらないと。
頑張ろう!! )
明は家へ帰って行った。
その頃、門脇と日下部は社長室に居た。
「 日下部。 社長が倒れたらしいな。
そろそろ寿命か? 」
「 はい! 多分そろそろかと…… 。 」
門脇はニヤリと笑い、自分が社長になれると思いながら社長の椅子に腰掛ける。
「 長かったな…… 。
これからは生ぬるい社長と違い、この会社の経営をもっと良くするぞ。 」
日下部は少し罪悪感のような気持ちになっていた。
日下部は門脇が好きだったが、社長も大好きだった。
「 門脇さん。 社長がお嫌いですか? 」
「 ん? 別に前までは嫌いじゃなかった。
だがな…… あの人のやり方じゃ、いつか他の会社に負けてしまうんだよ。
あの人のやり方は甘いんだよ。
だから会社を思えばこそ、あの人が邪魔になるんだよ。 」
門脇も会社の方針が違く、おっさんとは考え方は平行線になっていた。
「 日下部。 明と言うあの社員はどうなった? 」
「 はい。 問題ありません。 」
日下部は念のため採取したDNAの事は黙っていた。
そして知り合いにDNAを渡し、調べてもらう事になった。
二人はまだ知らない。
このDNA結果がこの会社が大きく変わる事を……
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