第27話 動き出した日下部
また数ヶ月が過ぎ、明は成長してある程度の仕事も出来るようになり、立派に少し見えるくらいになっていた。
一生懸命やっていたから、そこら辺の新人なんかには負けないくらい成長していた。
仲間とも仲良くなり、笑うのが当たり前な生活になっていた。
前までとは比べ物にならないくらいに。
時間の関係上、一人で食堂でご飯を食べようとしていると、そこに一人の男性が近寄って来た。
「 やぁ。 キミは新人君かな? 」
「 あなたはたしか…… 日下部さん? 」
門脇の側近の日下部が来たのだ。
一体なんの用なのか?
「 私はたまにこうやって新人君とご飯を食べたいと思い、ここに来るんだよ。
良かったらここの席で一緒に食べても良いかい? 」
「 ええ。 勿論。
日下部さんは何食べます? 」
二人は食堂の食券を買い料理ができるのを待つ。
「 奢って貰って申し訳ないです。 」
「 いえいえ。 私の趣味なので。 」
二人は席に着き料理を食べる。
明はかけそば。 日下部さんはうな重。
明はその時思った。
日下部さんはリッチなのだと。
食べながら他愛のない話をする。
「 ほうほう。 それでキミはお母さんが亡くなってから色々大変だったんだね。 」
「 それ程でも。
もう乗り越えたので大丈夫です。 」
日下部は明から色々過去の話を聞く。
「 キミの…… お父さんは何処に居るのか分かるのかい? 」
「 お父さん? それが全然分からないんです。
事故で亡くなったとか、母はいつもはぐらかしていたので。 」
日下部が明の父親の存在が気になっていた。
だから亡くなったかも知れない話を聞き、少し安心した様子だった。
「 でもお父さん何かどうでも良いんです。
何処に居ようと関係ありません。
俺と母を捨てた奴なんて。 」
明は全く父親の事なんか興味無かった。
昔は怒りしか無かったが、今はもう興味すら無かった。
日下部さんも少し聞いていると、一人きりの明に同情していた。
家族が居るのが当たり前に感じるが、世の中は広いものだ。
事故や病気や離婚。
色んな理由で両親や家族が亡くなる。
それでも残された者は生きなければいけない。
「 明君。 キミも色々大変だったね。
でも強く生きなければいけないよ? 」
「 ありがとうございます。
日下部さんって優しいんですね。 」
純粋な明の問いかけに、少し罪悪感を感じていた。
自分は門脇に頼まれ、明の素性を調べる為に近づいただけなのに、疑いもせずに感謝されると誰でも罪悪感を感じる。
でも罪悪感を感じるだけでも、人間らしいと感じる。
日下部さんは心底悪い奴ではないのかも。
「 そろそろ仕事に戻りますね。
今日はご馳走さまでした。 」
明は直ぐに仕事に戻る。
( 多分もう大丈夫だと思うけど、念のためにDNAは持帰らせて貰うよ。 )
日下部の目的の一つ。
明のDNAの採取。
DNAのついた箸を回収して帰る。
明は仕事をしながら、父親の事が少し気になっていた。
唯一の血の繋がった家族。
会いたい何て全く思っていなかったのに、少し父親の存在に興味が出ていた。
( 父親かぁ…… 。生きてんのかも分かんないし、全く情報も無い。
母さんの遺品で分かるもんでもあるかな? )
明はそう思い、家に帰って遺品を色々調べる。
( こうやって見ると…… 母さんの私物ってこんなにも少ないのかぁ。
俺にばっかり服とか、ゲームとか、周りの友達より貧乏って言われないように、母さんなりに気を使ってくれてたんだよなぁ…… 。
見てると悲しくなってくる。 )
お母さんの人生は明の為に生きていたと思うと、明はもっと自分の為にも生きて欲しかったと思わずにはいられなかった。
すると、一つの日記帳が出てきた。
日記帳なんてつけてるの見たことがなかった。
内容を見ると大学生の時からの日記のようだ。
楽しい事やテストの事。
事細やかに書かれていた。
ただ一つ…… 不可解な部分も。
ある日を境に、日記は明が産まれた日まで飛んでいた。
( 何でいきなり飛んで書いてるんだ?
しかも名前は書いてないけど、彼氏らしい人の事も書いてる。
このDって誰なんだ? )
日記を見て謎が増えた。
Dと言う人物。
ダイスケ? ダイキ?
名前は計り知れないくらいあるから全く分からない。
試しに母親の通った大学に行くことにした。
大学に到着して職員室に行き、担任の先生を探す。
( 堺 緑先生って居るかな? )
探してみると、何と校長先生に昇進していた。
何と言う運の良さ。
「 初めまして。 緑先生ですよね? 」
「 はい。 あなたは? 」
直ぐに明は自分の正体と来た理由を話す。
「 吉田 雪奈の息子の明って言います。
母さんの事覚えていますか? 」
少し考えると、直ぐに思い出す。
「 あなた、雪奈ちゃんの息子さん!?
覚えていますとも。
雪奈ちゃんは元気?? 」
亡くなった事を伝えると、校長の笑顔が直ぐに消えてしまう。
「 そう…… 。 それは早かったはね。
あの子は最後まであなたを産んだ事を、誇りに思っている筈よ。
本当にそっくりね。
でも、誰かに似ている気が…… 。 」
校長は少し考える。
すると、一本の電話が入る。
「 はい! もしもし。
…… 大っ。 はい、分かりました。
そう言う理由なら仕方がありませんね。
上手くやっておきますから安心しなさい。
それでは。 」
電話が終わると、明はアルバムか何かないか尋ねる。
「 …… うん。 ちょっとプライバシーもあるし、力になれないわね。
ごめんなさい。 またいつでも来て頂戴。
あなたは雪奈ちゃんの息子なんだから、他愛のない話しでも何でも良いから、いつでもね。 」
話は終わり、明は帰る事になった。
( なんだろ? あの電話一本入ったら、協力的だったおばさんが非協力おばさんに変貌しやがった。
あの電話が関係あるのか?
んな訳ないよな。 考え過ぎだな。 )
そう思いながら家に帰った。
だが考え過ぎでも無かった。
電話をした正体は…… おっさんだった。
( 明…… 。 すまない。
どうしてもこれだけはバレてはいけないんだ。
今更、何て言えば良いのか…… どう謝れば良いのかまだ見つからないのだ。
だから、分かってくれ…… すまない。 )
おっさんはメガネを通して明の行動を監視していた。
間一髪の所で止める事が出来た。
だがおっさんは胸騒ぎしていた。
明が興味を示してこなかったから今まで隠せた。
そんなに頭が悪い訳でもない。
だからいつバレるのか、それだけが心配で仕方がなかった。
校長先生はアルバムを出して、生徒が沢山載っている写真を見ていた。
「 大門君だったのね。
立派になったわね…… 。
どんな理由かは知らないけど、あの子に本当の事を話せないのかしら。 」
校長が見ていた写真は、おっさんと母さんが二人仲良く写って笑っている写真だった。
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