第25話 おっさんの最後の誕生日


その光景を見て、まだ信じられなかった。

先崎先輩は黙って見ていると、ある事に気付いた。


( ん? 彼のしているメガネは…… 。

我が社で開発してて、商品化されてないメガネに似ている。

もし同じメガネだとしたら…… 。

遠隔によって彼と誰かが意思を共有している。

何故彼がここの極秘の試作品を着けているんだ? )


考えても謎が深まるばかりだった。

その時、思い出した事があった。

社長にだけサンプル品の番号00を提供した事を。

先崎先輩は恐る恐る近付き、メガネの横にある製造番号を見る事に。


( ん…… やっぱり!

番号00だ。 社長に渡した試作品に間違いない。 )


疑惑は確信に変わる。

先崎先輩はそこから静かに立ち去って行った。

何処に向かったのかと言うと、社長室に足を動かしていた。

ノックをして中へ入る。


「 社長。 お話が。 」


社長室には秘書しか居ない。


「 社長は奥の部屋で仕事中です。

何か急ぎの用でしょうか? 」


話す事は一つだった。


「 メガネの件でお話が…… 。 」


千鶴さんは少し動揺しつつ、奥の部屋へ社長を呼びに行った。


「 先崎君。 やはりキミにはバレてしまったな。 」


おっさんは誤魔化しが効かないと判断し、全てを洗いざらい話す事に。


「 いえいえ。 全く問題はないのですが、彼にどんな理由でメガネを? 」


「 …… キミなら信じてるから話すが、あいつはワシの息子だ。 」


先崎先輩はビックリして腰を抜かしてしまう。


「 えっ!? 本当ですか?? 」


「 ああ。 だからあいつにはワシの目が届くように、メガネを通して共有生活をしている。 」


全く明らかにされていない事実に動揺する。


「 明君はその事は…… ? 」


「 知らない。 これからも知らなくていい。 」


一瞬で何か複雑な理由だと悟る。

先崎先輩は社長のお陰でここの会社で上手く働けて、ここまで成長してきた。

だから少しでも力になりたかった。


「 絶対この話は口外致しません。

ご安心を。 」


「 悪いねぇ。 流石は先崎君だ。 」


おっさんは一安心して笑った。

その後に少し話をして外へ。


( はぁ…… 。 ビックリしたなぁ。

明君が社長の息子!?

今考えても驚いちゃうよ。

社長は他の社員と対応を変えないでって言ってたけど、ヒイキしたくなっちゃうよなぁ。

困ったもんだよ。 )


先崎先輩は驚きが隠せないまま帰って行った。


午後に明は一生懸命仕事をしていると、そこへ千鶴さんがやって来た。


「 明様。 ちょっと宜しいでしょうか? 」


仕事中に来るのは珍しい。

明はこっそりと抜け出して、二人きりになれる場所へ。


「 どうしたんですか?

同僚に千鶴さん見られたら、どう説明するか難しいんですけど…… 。 」


「 すみません。 実はどうしても伝えたい事が。 」


千鶴さんが意味もなく来る訳もない。

明はその話を聞いてみる。


「 今日は社長の誕生日です。

皆でお祝いしませんか?

本人は絶対やるなと言うと思いますが…… 。 」


明はおっさんの誕生日を全く知らなかった。

最近忙しかったのもあるが、大切な行事を知らなかったら聞けて良かった。

それと同時に少しだけ明の中にある、サプライズ精神が今、よみがえる。


「 教えてありがとう。

じゃあ、おっさんを喜ばせてやりましょうよ!

俺はプレゼント買ったりして寄り道して帰ります。

だから家の料理とかの準備任せてもいいですか? 」


「 はい! こちらはお任せを。

コックとメイド達でセット致します! 」


千鶴さんは帰り、明は仕事に戻る。

仕事をしながらサプライズをどうするか考える。


( おっさん。 絶対喜ばせてやるよ!

何買って行こうかなぁ? )


仕事をしつつサプライズを考えていた。

明は凄いワクワクしながら仕事をした。

今日の誕生日が楽しみで仕方がなかった。


千鶴さんも誕生日計画を進行していた。


「 コックさん? 今日の夕方までに社長の誕生日ケーキ頼めます?

絶対に今日の夕方に最高のケーキを。

後はメイド達にテーブルや家の飾り付けを頼めますか? 」


千鶴さんはコック長に電話していた。


「 誕生日ですか??

お任せ下さい! 旦那様の為にやってみます。

メイド達にも必ず伝えます。 お任せを! 」


盛大なパーティーになりそうな予感。

おっさんは喜んでくれるのだろうか?


おっさんはそんな事も知らずに、お墓を訪れていた。


「 雪奈…… 。 今日はワシの誕生日だよ。

まだそっちに行けないけど、後少ししたら行くから待っててくれ。

明を立派にするまでは生きるから。 」


明のお母さんのお墓の前で一人話していた。

車椅子で一人で来ていた。

ここは出来るだけ一人で来たかった。


「 明は良い子だよ。

キミに似て。 ワシの悪い所ばかり似て、恥ずかしいばかり。

あの子を一人きりにはさせない。

だからもう少しだけ力を貸してくれるかい? 」


染々と想いを語りかけていた。

そのお墓を後にして、次に千鶴さんのお父さんのお墓へ。

お線香と大好きだった栗モナカを添えて。


( 千鶴君は本当に良い子だよ。

ワシが死んでも後は大丈夫。

大切な娘さんに少しでも償いをさせてくれ。 )


千鶴のお父さんへ想いを語った。

帰る前に上等な日本酒をお墓にかけて。


「 にしても…… 今年が最後の誕生日かぁ。

家に帰って、少しは美味しい物を作ってもらおうかな?

最後だもんな。 」


おっさんはゆっくり家へ帰って行く。

体はもう言うことを効かなくなってきている。

だからここへ来ておきたかった。

大切な人の為に…… 。 自分の為に。


家は盛大に飾り付けが行われていた。


「 そんなんじゃダメよ!

もっと豪勢に盛大にしなきゃ。 」


メイド達がてんやわんやに動き回る。

ここの家をパーティーセットにするのは初めてだった。


「 あなた達まだまだ甘いわよ!

もっと、もっと盛大にお祝いするんです。 」


千鶴さんが全ての指示をしていた。

流石はここの家の全てを任されているだけはある。

そしてここで働く人達は、広間におっさんを思い買ってきたプレゼントを重ねる。

まさに、プレゼントの山である。

映画のような光景だ。

みんなおっさんが大好きで必死に探し回った。


「 千鶴さん。 料理も夕方には必ず間に合わせます。

心配なさらずに。 」


料理長も夕方に間に合わせようと必死だ。


「 ありがとうございます。

さぁ! 皆さん。 最後までしっかりやりましょう!」


「 おぉーーっ!! 」


強い絆で皆は頑張ってパーティーに間に合わせる為、必死に頑張るのだった。


その頃、明は仕事終えて街へ。


( ん〜…… 。 にしてもおっさんは何が喜ぶかな?

全く分からん。 )


伊藤さんや香織さんに連絡をして、パーティーを盛り上げようとしたが、肝心なプレゼントをどうするか決まっていない。


( 何だろうなぁ…… ん? あれは?? )


明はある物を見つけ、プレゼントの用意もバッチリ。

そして家へ向かう。


( おっさん、腰を抜かすなよ? )


明はご機嫌になり、スキップしながら帰る。

今日の誕生日会の為に。

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