第24話 経験と成長
遠くから見ていたのは社長の側近の一人、門脇実だった。
「 あいつは前に見たサラリーマンか。
日下部。 あいつの情報はもうあるか? 」
「 はい。 ございます。
調べても何も変わった所は御座いませんでした。
何処にでも居る母子家庭で、母親一人で育てられ18歳で一般企業に就職。
そしてここ最近、我が会社に就職しに来たみたいです。 」
徹底的に明の素性が調べられていた。
門脇もその話を聞き、何も気になる点は見つからなかった。
「 そうか。 少し買いかぶりすぎたか。
社長が少し親しく付き合ってるように見えたから、何かあるかと思ったんだがな。 」
門脇は少し一安心し、ホッとしていた。
「 そのようですね。
一つ良い忘れていました。
少し前に母親が他界してますね。
だからあの吉田明は今は家族一人ですね。 」
門脇は少し引っ掛かりを感じた。
家族が居なくなり一人ぼっちに…… 。
社長はいつから親しくしているのか?
親戚なのか?
それとも…… 嫌な妄想が膨らむばかり。
「 日下部。 あの吉田の素性は社長と全く関係ないのだな? 」
少し荒々しくなり問い詰める。
ビビりの日下部は少し緊張しながら答える。
「 はっ…… はい。 全く関係ありません。
安心して良いかと。 」
門脇はその答えを聞いても納得出来なかった。
( 念には念をしておくか。 )
「 日下部。 念には念を推しておく。
お前にやってもらいたい事がある。 」
耳元で何やら良からぬ事を伝えていた。
何が起こるのだろうか?
仕事も終わり、帰宅する明。
家に着くなり疲れて寝てしまう。
相当慣れない仕事に苦労したのが分かる。
おっさんはこっそり部屋を覗くと寝ているに気付き、ドアを音を立てずに閉めた。
( 明。 相当疲れてるみたいだな。
お疲れ様。 明日からまた頑張ろうな。 )
うっすら笑いながら部屋を離れた。
おっさんは我が子のように嬉しかった。
自分の会社に来てくれて本当に良かったと思っていた。
明の部屋へまた来客が。
「 明様。 失礼しますよ。
夕食が準備…… 寝ている。
疲れたようね。 おやすみなさい。 」
寝ているのに気付き、部屋の電気を消して部屋を出て行きました。
千鶴さんは本当のお姉さんの様な存在になっていた。
朝目が覚めるとベッドの上で眠ってしまっていた事に気付く。
「 ヤバっ、昨日は直ぐに爆睡しちゃったのか。
朝御飯食べて仕事に行かないと。
その前にシャワー浴びないと! 」
また忙しい1日のスタート。
直ぐにシャワーを浴びてご飯を食べに下へ降りる。
「 明様おはようございます! 」
メイド達が一斉に挨拶をする。
「 皆おはよう。 今日も1日頑張ろう! 」
そう言いながら席に着きご飯を食べる。
「 若造。 昨日はお疲れだったな。
仕事はどうだ? 楽しいか? 」
「 うん。 中々大変だね。
でもやりがいを感じるよ。
今日も先輩の手伝いだけど商品開発するよ。
凄いワクワクするんだ。 」
明の顔は以前会ったときでは想像出来ないくらいに明るく、笑顔が良く似合う男になっていた。
おっさんは嬉しくてたまらなかった。
その事だけは気付かれないように必死だった。
「 そうか、そうか。
じゃあ、ワシもメガネでずっと見てよう! 」
「 おっさんもちゃんと仕事しろよ!
全く社長は暇なのかな?
社員を働かせ過ぎなんだよ。 」
笑いが絶えない食事になった。
そうして二人は車に乗り、仕事場に向かって行った。
明は仕事場に誰よりも早く行き、掃除をしたり、朝に皆に温かいお茶を出す為にお湯を炊いたりと忙しかった。
皆が着いた時には部屋の中はピカピカに、皆に直ぐにお茶を配り大忙し。
下仕事だけど、とても楽しかった。
自分が誰かに必要とされてる喜び、生きていると言う実感。
とても強く心に感じていた。
先輩達は明の頑張る姿に、凄い期待を膨らませていた。
( 凄いな。 明は。
最初はサラリーマン辞めてこっちに来た、能力もないダメダメな後輩が入って来たかと思ってた。
でも全然違っていた…… 。
能力や経歴、資格…… そんな物で判断してたのが情けない。
この仕事はやる気と、何よりも仕事への愛。
それが必要不可欠。
あいつ見ているとそう思ってしまう。
楽しくなってきたな。 )
先崎さんの期待は膨らむばかり。
他の人達も例外ではない。
誰もが明が気になり、存在自体が注目されていた。
ある商品のバリ取りの仕事をしていた。
バリと言うのは、商品を製造していると出来てしまう切断面に出来る尖った物。
たまに商品を買った時に、少し痛いと思う場所がある時はないだろうか?
小さな会社や下請けに任せてしっかりしていないと、このバリが残った状態で納品されてしまう。
明は一つ一つ、バリを削る仕事をしていた。
高校の時の授業で少ししたこともあり、とても仕事は早く、丁寧にこなしていった。
案外楽しく飽きる事なくこなす。
( 楽しいなぁ。 この商品は誰かの元へ届くんだよな。
このバリが残ってたら痛いし、何よりもあったら悲しいもんな。
頑張って取るぞ!! )
明は段々と手作業でバリを削る。
最近では機械で削る所も多い。
ここは作業も確認も全ては人による手作業。
だからコストはかかるが、それだけの安全や質は最高の物になっている。
「 あっ。 もうお昼かぁ。
食堂行って適当に済ませて続きしないと! 」
そう言い、直ぐに食堂へ向かった。
先輩達は先に食事を済ませて戻って来ていた。
「 ん? このバリ取り明がやったのか? 」
先崎は気になり周りに聞きました。
「 はい。 あいつまぁまぁ早いですよね。
高校の時の教訓なんすかね? 」
周りの部下達も誉めていた。
先崎は驚く事があった。
それは…… 。
「 質も初心者にしては申し分ない。
しかも…… 朝からやってて、俺達が戻るまで続けるくらいの集中力。
あいつ、凄いなぁ…… 。 」
皆で凄い誉めていた。
意外に真面目で、いつも一生懸命。
口ではなく、行動を見て評価されたのは初めてだった。
何も知らない明でした。
「 もぐもぐもぐもぐ…… 。
おっさん! どうだ? まぁまぁ上手くなかったか?
やれば出来るもんだろ? 」
おっさんはメガネを通して見ていた。
直ぐにおっさんの返事が返ってくる。
「 バカ言え! あんなもん。
まだまだひょっこだぞ。
早くワシを見返してみろよ! 」
おっさんは少し辛口に評価していた。
さすがは一人でここまでやってきた男。
彼を慕い、付いてくるのも納得出来る。
息子であっても容赦がない。
不器用であっても愛のある指摘。
「 おっさん。 メガネ使ってちょっとお手本見せてくれよ?
そしたらもっと早くて、上手く出来る気がする。
目で盗ませてくれよ。
おっさんの実力を。 」
「 ふん。 甘ちゃんだな。
仕方ない。 少しだけだぞ? 」
ご飯を済ませて仕事場に戻る。
直ぐにメガネを使い、体のコントロールはおっさんに移った。
「 見てろよ? こんなもん…… 。
ほい! ほい! ほいっと! 」
華麗に迅速にかつ、丁寧な作業を魅せつける。
自分の実力を最大限に使って。
( おっさん! すげぇ。 すげぇな!
尊敬しちゃうぜ。 すげぇよ! )
明はその実力を見て大興奮。
流石は社長だ。
先崎先輩が明の作業が気になり見に来た。
すると、どうだろうか?
まさか、あの新人が…… 。
少しは出来るとは思ってはいたが、凄い早い作業をしていて腰を抜かす。
( なに!? 何だあの仕事ぶりは??
さっきとは別人じゃないか?
…… 一体どうなってるんだ。 )
先崎先輩はビックリして声も出なかった。
ただ、ただ魅力されるのみ。
だが見覚えのある腕のしなやかさ。
かつ、とても繊細な作業ぶり。
( ん? まさか…… そんな訳。 )
先崎が入り立ての頃。
右も左も分からずにバリ取りをしていた。
明よりも仕事は遅く、怖い先輩に聞くのも恐れてしまい、一人でいっぱい、いっぱいになっていた。
そこへ遠くから見ていた、若かりしおっさんが現れた。
「 ほうほう。 キミが新しい新人君かな?
手が止まっているぞ。 」
いきなり現れた社長に腰を抜かす先崎。
「 しゃっ! 社長!
どうしてここに??」
「 まぁまぁ。 それはいい。
君は今上手く出来なくて苦労してるんじゃないか?
出来ないなら直ぐに先輩に聞きなさい。
恥ずかしい事はないぞ! 」
その通りだった。
先崎は怖くて聞けないのを言うことが出来なかった。
機械科の高校や専門学校からここへ就職してくるのが当たり前。
だからバリ取りも出来ないのが悔しくて恥ずかしかった。
「 すまないな。 あの先輩も悪い奴ではないんだよ。
ただ教え方と相手を思いやるのが、少し下手なだけなんだ。
すまないな。 ワシの方から遠回しに言って置くから安心しなさい。 」
社長には全てお見通しだった。
「 ありがとうございます。 」
凄い嬉しかった。
一人で抱え込み、パンク寸前だったのだから。
「 君の仕事ぶりを見れば直ぐに分かる。
遅くて、まだまだだけど一生懸命に頑張っているんだろう?
手を見れば分かる。
その手は手抜きのない、頑張り屋の手だ。
じゃあ、最後に良いもん見せてやるよ。 」
そう言い、スーツを脱ぎ腕まくりをする。
すると、社長は凄い高速に舞うが如く。
バリ取りを楽々とこなしていた。
先崎は口を開けて唖然としてしまう。
「 君なら直ぐに出来るようになる。
頑張りなさい。 」
頭を軽く撫でて、そこから去って行った。
それは先崎にとって心に残るくらいの大切な思い出になった。
それを今思い出していた。
( 何故明から社長の姿が重なるんだ? )
先崎は気になり明をこっそり見続けていた。
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