第23話 明の決意


仕事をしていた明。

前までは黙々と仕事をするのが当たり前だったのに、仕事をしていると何故か虚しくなる。

仕事を淡々とこなし、給料がもらえる。

理想だった仕事に物足りなさを感じていた。


「 先輩? どうしたんですか。

浮かない顔して。 」


伊藤さんが気にして話しかけてきた。


「 いや…… 。 何か物足りないなぁって思う事が多くなってさぁ…… 。

何でだろ? 」


伊藤さんは何となくその物足りなさに気付いていた。

生きていて彼女も出来、全てが充実している。

だからこそこの変化の無い環境に、不満が貯まっていったのだ。


「 先輩は何がしたいんですか?

今の仕事しても物足りないなら。 」


そう言われると何も決まっていない。

漠然として何も分からない…… 。

ただ、時間は刻一刻と迫ってる気がして無駄に出来ないと感じていた。


( 可愛い悩める若造さん。

良ければ良い提案がありますよ? )


おっさんがメガネから話をかけてきた。


( おい。 おっさん!

今は忙しいんだ。 後でにしてくれよ。 )


悩んでいたから軽くあしらう。


( ワシの会社で働かないかい?

新人として。 )


ん? …… おっさんの会社に?

全く考えていなかった。

大手の一代で立ち上げ、若くして社長として築き上げた大企業。

就活の時も受けてみたかったが、絶対に受からないと思い楽な会社を選んだ。


「 おっさんの会社かぁ…… 。 」


一人でボヤいていた。


「 先輩? どうしました? 」


「 何でもないよ。 もう大丈夫だよ。 」


そう言うと自分の仕事に戻って行った。


( 若造ちゃんよ。 少し頭の片隅にでも入れといておくれや。

ワシはひいきせずに一新人社員として雇うぞ。

どうだ? )


悪い話ではなかった。

今の自分なら何処までやれるのか?

機械を作ったり、デザインを考えたり企画を練ったりと様々な仕事がある。

全てに興味があった。


「 明君? どうしたの? 」


香織さんとのデート中だったのに上の空だった。


「 いや…… 、 香織さんには話しとこうかな。 」


今の自分の抱えていた悩みを全て話した。

親身になり聞いてくれていた。


「 私は、明君が決めて良いと思うよ?

たった一度の人生だもん!

楽しもうよ。

私はずっと応援してるし、一緒に頑張るから。 」


ニコニコといつも笑って応援してくれる。

そんな香織さんがやっぱり好きだった。


「 うん! 分かったよ。

話して良かった。

俺…… あの会社に入るよ。 」


明にはもう迷いはなかった。

そんな新しい事に向かう明を見て香織さんは嬉しそうだった。


( やっと笑ってくれた。

頑張ってね明君! )


香織さんは応援してくれていた。

明には何よりも嬉しかった。


その日、夜に電話で伊藤さんに辞める事を伝える。

辞める事を伝えた。

明は伊藤さんた仲良くなっていたから、とても寂しくなってしまうから心苦しかった。

伊藤さんから返答が返ってきた。


「 先輩…… 。 私もおじ様に誘われてるの。 」


もやもや?

何やら可笑しな事に。


( 若造さんや…… 。

言うの忘れてた。

ウチの会社の事務に興味あったから誘ったのよ。 )


なんじゃそりゃあ!

明は相変わらずのおっさんの行動にビックリするばかり。

何の因果かまた仕事場が一緒になる事に。

これは嬉しい話だ。


そして何週間か過ぎ、二人は大企業。

おっさんの会社の社員として働く事になった。

仕事へ行く支度途中。

バッチリスーツとネクタイを新調して準備万端。


「 若造。 凄い似合ってるぞ。 」


おっさんが優しい表情をしながら後ろから眺めている。


「 おうよ。 そうだろ?

このスーツもおっさんに選んでもらった最高のスーツだよ。

有りがたく着させてもらうわ。 」


明もウキウキで舞い上がる。

会社に入れば社長と部下。

その関係はしっかりしなければいけない。

周りの目もある事だし。


会社に着き、大きな会社を眺める。


( 大きいなぁ…… 。 頑張るぞ! )


明は深呼吸をして会社の中へ。

入ると受付の人も居て社員も沢山居る。

朝はしっかり挨拶をする。

皆に初めての自己紹介も兼ねて大きな声で。


「 おはよぉーーございますっ!!

今日からお世話になります。

どうぞ! 宜しくお願いしますっ! 」


周りに居る人達も当然ビックリする。

受付の女性はクスクスと笑っている。


( 構うもんか。 俺がしたいと思ったんだ。

誰の目も関係ない…… 。

行くぞ。 おっさん。 )


周りから目立ちながらも自分の配属先へ向かう。

それを遠くの二階から見ていたおっさん。


( いいぞ。 明。 一緒に頑張ろう。 )


おっさんは嬉しかった。

正体を明かしてはいなかったが、どんな形であろうと一緒の会社で働ける。

こんなに幸せな事はない。


「 社長。 今日からですね。

あのへっぽこ社員の出勤は。 」


辛口な千鶴さん。

おっさんは直ぐに振り返り。


「 千鶴はバカにしてるように見えるが、何だか嬉しそうじゃないか?

ワシの気のせいか? 」


図星で慌てる千鶴さん。


「 全く気にしてません。

あんなへっぽこサラリーマン風情じゃ一週間も持ちませんよ。 」


相変わらず正直にはなれない。

おっさんにはどんなに嘘をついても分かっていた。


( 頑張れ! 明様。 )


心の中で何度も呟いた。

千鶴さんも明が大好きになっていた。

可愛い弟のように。

ちなみに伊藤さんは事務で働き始める。


明が最初に担当する事になった場所は技術者。

明みたいなサラリーマンに出来るのか?

明は地味に少しは資格があり、新人としては働ける程度の技術を持ち合わせている。


「 来たね。 宜しくね。 」


上司の先崎大樹せんざきだいき

40歳でここのチーフマネージャー。

しっかり者の優しい人だ。


「 宜しくお願いします。 」


皆に自己紹介して今日からここの仲間入り。

凄い緊張していた。

サラリーマンになったときはそんなに緊張はなかつた。

仕事へのやる気があるからこそ緊張するのだ。

明は今、仕事に熱中していた。


商品のコストパフォーマンスの資料を読んだり、ここ独自の売り方、部品開発など沢山覚える事がある。

頭はフリーズしそうになりながらも頑張っている。

新人は何処でもこんなもんだろう。


「 はぁ。 お昼かぁ。 どうしようかなぁ? 」


食堂に行こうか外で済ませるか悩んでいると。


「 新人! 一緒に食いに行くぞ。

今日は新人歓迎会だ。 」


渋柿優しぶがきまさる

38歳のベテランエンジニア。

ここの兄貴的な存在。


「 はい。 是非宜しくお願いします! 」


仲間たちと明は食堂に向かった。

明は内心嬉しい気持ちでいっぱいだった。

皆優しい先輩で厳しい時もあるけど、全て明を思っての事なのが良く分かった。

その気持ちが何より心地良かった。

皆で食堂に着くと大企業の食堂はレストランのように大きかった。


( でけぇ…… 。 さすがだわ。 )


ビックリしていると。


「 明。 凄いデカいだろ?

でも値段見てみろよ? 」


そう言われ値段を見ると全て安い。

ほとんどが千円以内で食べられる。


「 安いですね。 どうしてこんなに美味しそうで、値段がリーズナブルなんですか? 」


渋柿が自慢気に答える。


「 社長が社員割引で安く提供してるんだよ。

美味しい物を食べて頑張って仕事してくれって、社員を思っての事だろうよ。

最高の社長だよな。 」


ここの会社を見ていると、おっさんの想いが詰まっているように感じる。

社員の皆も高いお金を払わずに美味しい物を沢山食べられる。

トイレにしても休憩スペースも。

本当におっさんは凄かった。

そこへ車椅子のおじさんが近づいてきた。


「 ちょっと失礼。

ワシも一緒に食事混ざっても良いかな? 」


おっさんだった。

みんなは慌てて社員達は立ち上がり挨拶をする。


「 社長! こんにちは。

ここで良ければ是非。 」


「 うん。 ワシはうどんにでもしようかな。 」


みんな慌ててそわそわしている。

社長が来たら当然の反応。


「 開発担当の諸君。 いつもお仕事ご苦労様。

この会社の製品の質は君達のお陰でいつもトップ。

感謝しきれないよ。

今日はワシの奢りだ。 沢山食べておくれ。 」


「 ありがとうございます。 」


そう言われ社員達は大喜び。

仕事の悩みを話したり、失敗の話で盛り上がったり凄い楽しい時間だ。

明も凄い楽しかった。

この会社に来て1日。

大変だけど頑張ろうと思った。

おっさんが来たのは混ざりたかったのもあるだろう。

だけど一番の理由は明と食べたかったのだろう。

明は何となくそれが分かった。


「 ん? あの男は…… 。 」


明を遠くから見つめる陰が!

まだまだ仕事やプライベートも大変そうだ。

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