第21話 千鶴の過去



明は恋が実り幸せいっぱい。

ウキウキとスキップしたり、跳び跳ねたりご機嫌の様子。

大きな家の中ではしゃぎまくりだった。


「 本当に明様良かったですわ。 」


「 本当にですわね。

私達の可愛い明様ですもの。 」


メイド達も明の幸せを喜んでくれていて、いつのまにかこの家で明は大切な家族の一員になっていた。

明はスキップしながらメイドに近づいて来た。


「 おはよう。 中尾さん。

長谷川さん。 いつもお疲れさま。

チョコレートをどうぞ。 美味しいよ。 」


ポケットからチョコを出して二人にくれたのだ。

相変わらず子供のような対応。


「 ありがとうございます、明様。

もう朝食が出来てますよ。 」


「 はぁーい。 今日も頑張ろう! 」


そう言い階段をかけ降りて行った。


「 本当に変わられました。

来たばかりの頃は生きる気力がなかったのに、今では誰よりもイキイキとしていらっしゃる。 」


メイド達も嬉しかった。

ここのみんなも明の事を子供のように可愛がっていた。


朝食を食べているとおっさんから話があった。


「 若造。 今日は病院に行かなきゃならないから、一緒に仕事は行けそうにない。

すまんな。 」


「 そんなに調子悪いのか? 」


おっさんの体を案じて心配になっていた。


「 なぁーに! たまに経過観察って感じだ。

ワシはまだまだ元気いっぱいだ。

心配すんじゃない。 泣き虫が! 」


おっさんを心配したら渇を入れられてしまう。


( だって心配になるじゃないか…… 。

病気に何か負けるなよ。

俺を一人にしないでくれよ? )


俺はそう心の中で呟いていた。

朝食をいつものように済ませて仕事へ。

千鶴さんはおっさんの秘書なのだが、俺の事を心配してなのか? 俺の送り迎え担当になっていた。

車の中で少し会話をしていた。


「 千鶴さん。 おっさん大丈夫なのかな? 」


「 …… はい。 問題ありません。

明様は気になさらずに。 」


やっぱり具合が悪いようだ。

千鶴さんの嘘が何となく分かってきた。


「 今日の仕事の帰りにおっさん迎えに行こうよ? 良いでしょ? 」


「 社長には専属の者が居るので安心してください。 」


それなら仕方ないと諦める。

駅に着き仕事へ向かった。


( 気になるなぁ…… 。

まぁ。 気にしすぎちゃダメだ。

仕事に集中しよう。 )


仕事場に着き、仕事に励んだ。

今日は新人指導や会議やら色々忙しかった。

そして外に営業に行ったりしていた。


仕事の帰り道。

慣れない道を歩いていると、遠くに千鶴さんの姿があった。


「 あっ。 千鶴さぁーーん。

聞こえてないのかな? 」


手を振り声をかけたが聞こえていない。

走って追いかけたが見失ってしまう。


「 あれ? 人違いだったのかな?

ここら辺に居るわけないかぁ。 」


そう思い帰ろうとすると近くに墓地があった。

もしかしたらと思い行くことに。

周りを見渡して見ると千鶴さんの姿があった。

誰かの墓に手を合わせていた。

目をつぶり集中してお祈りしている。


( 誰の墓なのかなぁ?

家族の話とかほとんど聞いた事ないからなぁ。

何か気まずいからこっそり帰ろう…… 。 )


パオーン!! パオーンっ!


スマホの通知音が鳴り千鶴さんに直ぐにバレてしまった。

このふざけた通知音にしたのはおっさんだ。


「 明様。 どうしてここに? 」


「 あっ。 ん〜、仕事帰りに偶然見つけて声かけたけど聞こえなくて今に至ります…… 。 」


千鶴さんは全く表情も変えずにそうか。

と言わんばかりの態度。


「 少しそこの椅子でお話しても宜しいですか? 」


千鶴さんから話がしたいと言ってきたのは、初めてだったから驚いてしまう。


「 良いですよ。 珍しいですね。 」


二人は椅子に腰掛けて話をする事に。


( あれ? もしかして…… 最近俺の事気にしてくれてる所からして、俺の事好きとか?

まさか…… 。 モテる男は辛いなぁ。

言葉にトゲがあるけど、美人で本当は優しいんだよなぁ。

彼女が居るから断らなければ! )


最近のモテた事により酔っていた。


「 あそこの墓は父の墓なんです。 」


明は全くの検討ハズレにより恥ずかしくなっていた。


「 九条グループで働くエンジニアでした。 」


「 へぇ。 そうだったんですね。

お父さんは何故失くなってしまったんですか? 」


千鶴さんは少し深呼吸し、話を続けてくれる。


「 …… 九条大門に殺されたんです。 」


「 えっ? …… そんな訳…… 。 」


冗談なのかと思う話だった。

千鶴さんの性格上冗談ではないのが分かる。


「 私の父は九条グループで一生懸命、毎日頑張って頑張って働いていました。

私は子供の時からそんな父が大好きでした。

尊敬していて父のようになりたいと思っていました。

そんなある日…… 。

私が高校生の時に父は九条大門にクビを通告されてしまったのです。 」


重い話が続き、明は黙って話を聞き続けていた。


「 父は全てを会社に尽くしていてショックが大きかったのでしょう。

社長の事も尊敬していて、いつも自分の事のように誇っていたくらいに。

だからこそクビを通告され絶望したのでしょう。

いつも笑っていた父に笑顔が消えました。 」


クビにされたらショックは計り知れない。

尊敬していた会社に切り捨てられたら尚更だ。


「 社長から他の会社を紹介してくれて、仕事先が決まってなく路頭に迷わずにはいたのですが、あの会社が好きだった父には全く興味なかったのです。

生きる気力も失くなり、自殺をしてしまいました。」


明は何も言葉が出なかった。

とても悲しい話で簡単には話せなかった。


「 父は自殺なのかもしれません。

でも殺したのは九条大門です。

そう思いませんか? 」


明は分からなくなっていた。


「 お父さんの話はお気の毒にとしか言い様がありません。

俺には…… 分からないです。 すみません。 」


バカな俺の頭では処理が追いつかなかった。


「 いえいえ。 お気になさらずに。 」


千鶴さんはもう吹っ切れているようにも感じた。


「 でも何でおっさんの下で働いてるんですか?

それだとつじつまが合わないと言うか…… 。 」


「 私が九条大門を殺そうとしたんです。 」


衝撃の告白に動揺が隠せない。

千鶴さんがそんな事をしたのだと…… 。


「 私の大切な父を奪ったアイツを許せなかったんです。

だから葬式にのうのうと現れたアイツに雨の中、包丁を手にして殺そうとしたんです。 」


「 それでどうなったんですか? 」


「 付き人に押さえ込まれてしまいました。

後少しの所だったんですが。 」


その時おっさんは直ぐに駆け寄って来た。


「 お前達直ぐに放しなさい! 」


「 ですが、社長へ危害を及ぼす恐れが…… 。

早く警察に叩き出しましょう! 」


「 良いから放せっ! 」


そう言い部下達は拘束を解いた。


「 九条大門! 良い御身分だな?

助けたつもりか!? 私は絶対に許さない!

父さんを奪ったお前なんか…… 殺してやる。 」


「 絶対に殺されてたまるかっ!

殺されたらお前さんを犯罪者にしてしまう。

そしたらワシはキミの父を二回も裏切る事になる。

だから絶対に殺させない。 」


千鶴さんは言葉を失った。

そんな風に考えているおっさんを知ったから。

そしておっさんは雨で濡れた地面に頭をつけて土下座をした。


「 本当に申し訳なかった……。

会社の利益を考えたりして、クビを宣告をせざるを得なかった。

他の会社へ紹介をしたのだが、彼は誇りがあったから満足はしなかった。

仕方ないと言う言葉に甘えるつもりはない!

本当に申し訳なかった…… 。 」


「 社長!! そこまでするなんて…… 。 」


周りの付き人が焦りまくり、葬式に来た人達に目立ちまくっていた。


「 ワシは千鶴君をの代わりにも面倒をみる。

これはワシのせめてもの償いだ。

どんな事でもする。 」


おっさんは千鶴さんの名前もお父さんの名前もちゃんと知っていた。

それだけでも少しだけど嬉しかった。

千鶴さんは立ち尽くしてしまう。

少し考えて答えを出した。


「 なら私をあんたの下で働かせて?

父さんの好きだった仕事を…… 会社を見てみたいの!

もっと知りたいの。 父の好きだった仕事を! 」


「 お前! 何て図々しい。

言葉を弁えろよ! 」


部下達が社長を代弁して怒っていた。


「 黙れお前達! 千鶴君。 明日から学校終わってから私の所へ来なさい。

秘書として働かせる。

学校を卒業するまではバイトとして。

卒業したら正式に採用する。

大変な仕事だけど出来るかい? 」


まさかの返答だった。

千鶴さんは迷わず答えが出ていた。


「 はい! 働かせて下さい! 」


その雨の日の葬式。

その日から秘書になった。

千鶴さんの覚悟は本物だった。

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