第18話 新たな旅路
明は長い夢を見ていた。
デカいゴリラから伊藤さんを守っていた。
「 先輩。 怖い…… 。 」
「 大丈夫! 空手経験者だからね。
任せておいてくれ。 こい!
ゴリラ野郎! 」
ゴリラは容赦なく腕を振り下ろし、明はデカい手の下敷きにされてしまう。
「 うげぇーーっ! 」
「 先輩! 大丈夫ですか? 」
全く体が動かない。
地面に埋まってしまう。
( 動かない…… 。 動け! 動け!
起きて戦え。 戦えーーっ! )
むくっ!!
病室で急に起き上がり立ち上がる。
「 うぉーーっ。 」
「 嫌ぁーーっ! 」
回診に来ていたナースが急に起き上がった明を見て、凄い驚いてしまう。
「 ヤバっ! 大丈夫ですか? 」
「 大丈夫ですよ。
吉田さんもう起きて大丈夫ですか? 」
…………… 全く思い出せない。
何故こんな所に居るのか?
………… ん?
( 思い出した! 格好つけながら助ける為に、喧嘩しようとしたら不意打ち喰らって堕ちたのか。
恥ずかしいーーっ。 )
俺は思い出せないフリをすることにした。
「 ちょっと思い出せないです…… 。 」
「 そうですよね。 結構派手に殴られてたですもんね。 」
頭を怪我した為、包帯を巻かれて3日間眠り続けていた。
まだ痛みはあるが生活に支障が出る事の無い範囲。
たまにはゆっくり休もうと思い、また横になり目をつぶる。
最近は色々あったからなぁ…… 。
すると、伊藤さんがお見舞いに来た。
明の姿を見るなり声が出ず、立ち尽くして近づいては来ない。
「 伊藤さん。 おはよう。
色々心配させちゃったね。 」
「 先輩バカなんじゃないの?
全部私のせいなのに、こんな姿になって…… 。 」
自分のせいでこうなったと思い、伊藤さんは罪悪感により近づいては来ない。
( 全く…… 仕方ないないなぁ。 )
「 俺の母さんは良く言ってたんだけど、人は一人では生きてはいけない。
だから困ったときは周りの人に助けて貰えって。
その代わりに、人が困ってたらその時は自分が手を差し伸べろって。
人間は助け合う生き物なんだってさ。 」
伊藤さんは黙って聞いていた。
「 俺が今度女性軍団に絡まれたら助けてよ?
あそこの会社の女性は気が強いから! 」
泣きそうになりながら堪えて口を開く。
「 …… うん。 …… うん!
へっぽこ上司が困ってたら助ける。
見てられないからね。 」
少しトゲがあるような話だけど伊藤さんは笑った。
俺も笑いながら伊藤さんが元気になってくれて、ホッとした。
ガラガラーーッ!!
「 若造ーーっ! 目を覚ましたか? 」
おっさんがデカい声を出して入ってきた。
車椅子の病人とは思えないくらい元気。
「 おっさん。 うるさいなぁー。
もう大丈夫だよ。 」
おっさんはホッとして、伊藤さんに二人だけの秘密だよ? とアイコンタクトを取った。
伊藤さんもそれに気付き、黙って頷いた。
「 にしても、若造は弱っちぃーな。
あんなナマケモノみたいな連中にやられるとはな。
だらしない…… 。 」
一番気にしている事に触れてきた。
明も負けずに言い返す。
「 不意打ちだぞ?
勝てる訳ないだろ。 俺だから耐えられたんだぞ。」
おっさんは笑って話を聞いてくれない。
「 本当にごめんなさい…… 。 」
「 良いってばさ! かすり傷だよ。 」
強がってはいるが正直まだ痛い。
「 私…… あの…… 彼氏と別れた。
心の中では分かってたんだ。
利用されてるのかな? って。
先輩に教えて貰ったの。
お金よりも大切な物があるって。 」
明とおっさんは黙って聞いていた。
やっとの思いで決心した気持ちを聞いて、二人はとても嬉しかった。
「 そうなんだね。
伊藤さんは自分をもっと大切にしてね?
キミは一人じゃないから!
俺達が側に居るよ。
役に立たないけどいつでも力になるよ。 」
「 そうだ! このボンクラと違って、ワシは凄い力があるから豪華客船に乗ったつもりでいなさい。 」
伊藤さんは泣きそうになりながら喜んでいた。
凄い笑っていた。
( 俺が見たかったのはこの笑顔だったんだな。
頑張って良かったぁ。
本当に生きてて良かった…… 。 )
明は改めて感じていた。
良いこともあれば悪いこともある。
つまずいても良いんだよ?
また立ち上がって歩き出せば。
ゆっくりだっていい…… 。
ゆっくり前へ一歩、一歩と歩きだそう。
たった一度の人生。
この物語の主人公はキミなのだから。
どんなに間違えても、最高な終わりにすればそれで良いじゃないか。
これはキミが主人公の物語なのだから…… 。
俺はそう思う。
ちなみにおっさんが立て替えている伊藤さんの借金は返さなくて良いそうだ。
新しい人生への投資だ!
と、おっさんは言っていた。
伊藤さんは感謝しかなかった。
俺はまだ入院しないといけないけど、早く治してまた仕事にいかなければ!
「 ありがとう。 二人共ありがとう。
私頑張る。 絶対に負けないよ。 」
伊藤さんも新しい一歩を踏み出した。
入院していると暇だ。
おっさんがお見舞いにたまに来るが、いたずらしかしないから追い出した。
一人だとやることもない…… 。
どうしようかなぁ??
ガラガラーーッ!!
またデカい音を立ててドアを開ける音が鳴った。
( またおっさんだなぁ?
さすがに叱りつけてやるっ! )
「 おいっ! ここは病室だぞ?
デカい音たてるんじゃ…… ん? 」
来客は石崎香織さんだった。
息を切らしながら立っていた。
「 あれ? どうしたの??
そんなに息切らして。 」
走って来ていきなり香織さんは抱きついてきた。
俺はびっくりしていた。
「 心配したんだよ!
メールとか電話しても出ないし。
さっき電話したら、変なおじさんが出て全部教えてくれたの。
こんなにケガして…… 。 」
おっさんが勝手に電話で教えていたみたい。
香織さんは心配で必死に走ってきてくれたのだ。
抱きつかれながら、香織さんの心臓の高鳴りを感じていた。
「 ごめんね。 ずっと寝てたみたい。
もう本当に大丈夫だから。 」
そう言うと香織さんは安心して離れる。
香織さんはその時思った。
( あれ? …… 何どさくさに紛れて抱きついてるんだ、私。
ヤバい! …… 慌ててたからってこれは…… 。 )
急に我にかえり恥ずかしくなりながら弁解する。
「 あっ…… あの、これは…… そう!
心配だったから遂やってしまいました。
ごめんなさい。 」
慌てて意味不明な弁解になってしまう。
それを見て初々しい気持ちになっていた。
「 嫌。 嬉しかったよ。
俺にも心配してくれる人が居てくれて嬉しかった。
本当にありがとう。 」
それを聞き、香織さんも一安心していた。
「 そうだ! 退院したら何処かに出掛けない?
二人でデートに!! 」
俺は頭を打ったから可笑しくなっていたのか、デートに誘ってしまっていた。
心配してくれて嬉しくて舞い上がり、何とも大それた事をしてしまう。
もう…… 後には引けない。
「 うん! 治ったら行こう! 行こう。
私はねぇ…… 水族館行きたいなぁ。 」
何とも奇跡なのか?
明のデートのお誘いが上手くいったのだ。
明はとても喜んだ。
( よっしゃー! 奇跡でも何でも良い。
神様ありがとうぉーーっ。 )
心の中ではウキウキのスキップしまくり。
顔には全く出してはいないけど…… 。
「 行きましょう。 水族館でも動物園でも!
香織さんとなら何処でも楽しいので。 」
二人は見つめ合いながら笑って話した。
俺の久しぶりのデートが出来るのは、治ってからのお楽しみ。
その日、香織さんと夜までお話ししたのでした。
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