第17話 父の真実
明は病院に運ばれて頭を強打されたが、怪我はしてはいるがそんなに大した怪我ではなかった。
2、3日入院して安静との事。
寝ている明の側に、椅子に座る伊藤さんの姿が。
それとおっさんと千鶴さんの姿もあった。
「 九条さん。 あなたってもしかして…… 。 」
「 さっきは取り乱してしまって遂、本音が出てしまったよ。
ワシは明の父だ。 」
伊藤さんは動揺してしまう。
でも不可解な点が見つかる。
「 でも先輩は家族は誰も居ないって言ってましたよ? 」
伊藤さんはそう言う風に聞いていた。
明が嘘を言ってる様には見えなかった。
「 明には父と言う事は言っていないよ。
ワシは明を捨てたようなもんだからな…… 。 」
「 えっ…… ? 」
おっさんの口からは衝撃の真実が証された。
おっさんの表情はいつもと違って、暗く重い表情をして話してくれた。
「 ワシは若い頃、研究や仕事の為にいつも必死に勉強していた。
誰かを幸せにする物を作りたくて必死だったんだ。」
伊藤さんは真剣におっさんの話を聞いていた。
「 その時、いつも隣には彼女が居たんだ。
ワシは誰よりも愛していた。
彼女も愛してくれて、何一つ文句も言わずに付いてきてくれていた。
大学を卒業して、仕事が忙しくて時間が合わなくなっていた。
同棲していたのに、一緒に居る時間はあまりなかった。 」
おっさんは語り続けた。
過去を語らないのはこう言う理由だったのか。
「 そんなある日。
いつものように遅くに家に帰ると、そこには彼女の姿は何処にもなかった。
置き手紙を残して。
中には、仕事頑張って下さい。
寂しいのはもう疲れました。
さようなら…… 。 と書いてあった。
ワシは自業自得だと直ぐに感じた。
凄いショックだったが、仕事をして忘れようと必死に働いた。
努力は報われ、何年かすると自分の会社を立ち上げた。
スポンサーや株主に恵まれて、お金の投資をしてもらい商品開発は比べ物にならないくらい成長を遂げた。」
「 九条さん。 それじゃあ、先輩はいつ生まれたんですか? 」
その話を聞いている限りでは、全く出生の話は出てこなかった。
「 もう生まれていたんだよ。
ワシを捨てた彼女が身籠っていたんだ。 」
既に彼女が身籠っていて、おっさんの前から姿を消していた。
「 じゃあ、どうやって気付いたんですか? 」
「 ワシは仕事をしていても、彼女を忘れた事は一度もなかった。
隣に居るのが当たり前になっていたからな。
居なくなって初めて気づいた。
ワシは…… 彼女無しでは生きてはいけないくらい愛していた事に。
失くして気付くとか、本当に都合が良いもんだよ。」
おっさんの目には涙が浮かんでいた。
「 どうしても忘れられずに生活をしていて、ある日にお金を使って彼女を探したんだ。
その時、彼女には大きな子供が居たんだ。
本当に可愛い男の子だった。
幸せそうで良かったと思っていた。
だが旦那の姿はなかったのだ。」
おっさんはその時察してしまった。
その男の子の父親は自分だと。
何故いきなり自分の前から彼女が消えたのも。
全て理解してしまった。
彼女はおっさんを誰よりも愛していた。
身籠ってしまった事が分かれば、研究や勉強をしている時間は無くなってしまう。
おっさんが子供が出来たと知ったら、絶対に夢を捨ててでも直ぐに子供の為に働いてしまう。
自分が
だから彼女は嘘をついてでもいなくなった。
愛する人の子を身籠って…… 。
「 直ぐにでも話をかけたかった。
だがどの面下げて会えるんだ?
ワシが必死に仕事してるとき、彼女は一人で子供を育てていたんだ。
どれ程辛かったか…… 。 」
それからおっさんは遠くからずっと明の成長を監視するしかなかった。
愛する子供の成長を見たかったから。
すくすくと明は育ち、成人して仕事に就いた。
そんなある日…… 。 彼女はがんと申告されていた。
おっさんは頭の中が真っ白になっていた。
苦労が
その時、隠れて見守っていたが彼女の病室に会いに行ったのだ。
「 雪奈…… 。 久しぶり。
体は大丈夫か? 」
ベッドに横たわり、顔も痩せてしまっていた。
辛いのにも関わらず、こっちを向いて微笑んでいた。
「 久しぶりですね。
私は大丈夫です。 夢が叶って良かったですね。
いつも活躍見てるんですよ。 」
おっさんは涙が止まらなかった。
ずっと彼女は遠くから見ていてくれた事を。
自分の夢の為に身を引いて、離れて行った事を悲しく思った。
「 …… 明はワシの息子なのか!? 」
「 …… はい。 私が勝手に生んで勝手に育ててるんです。
あなたには迷惑かけるつもりはありません。」
子供が自分の子だと分かり嬉しかった。
その半分、罪悪感も計りしれなかった。
「 そんな事言うなよ!
ワシ達の息子だろ?
今ならあの頃とは違う!
お金も沢山あるんだ…… 。
キミの手術費用も全部払う!
どんな医者でも見つけて来てやる。
ぐす…… 絶対キミを殺させない…… 。
明の為にも、ワシの為にも! 」
泣きながら大声で叫んだ。
おっさんの想いを全てぶつけた。
「 もう…… 手の施しようがないんですって。
具合悪い時とかに、病院行かなかったから早期発見に至らずに、進行し過ぎたみたいなんです。
だからもういいんです…… 。 」
おっさんは下を見て泣き崩れた。
お金があってもどうしようもない無力さに…… 。
「 …… ごめん。 ごめん…… 。 」
「 何泣いてるですか。
あなたは立派でしたよ。
さすが私の愛した人ですよ。
恥じる事なんか一つもないんです!
絶対責めないで下さい。 」
病弱な体で立ち上がり手を握って話し続けていた。
おっさんはどうしようもなく苦しかった。
「 大門さん。一つワガママ言っても言い? 」
ワガママ?
それは何なのか?
「 言ってみろ。 何でも!! 」
「 明を見守り続けて下さい。
絶対あの子、あなたに似てメンタル弱いから何するかわかんないから。
お願い出来ますか? 」
返事は決まっていた。
「 任せろ! 絶対にあいつは俺が見ているから。
だけど会うのは…… 無理だ…… 。
今更どの面下げて会えば良いのか分からない。 」
「 大丈夫です。 今まで通り見守って下さい。
私知ってたんですよ?
ずっと前から見ていてくれたの。
いつも隠れるの下手で分かってたんだから。
あはははっっ! 」
全てお見通しだった。
彼女には勝てなかった。
その時はまだ知らなかった。
おっさんもがんに犯されている事を。
二人は指切りして熱い約束をしたのだった。
伊藤さんはその話を聞いてもらい泣きしてしまつまていた。
「 でもどうして先輩の前に現れたんですか? 」
「 何年か経って雪奈が失くなり、明を見守っていたらあいつは自殺しようとしてな…… 。
止めるときに姿を現してしまった。 」
これまでの話を聞かせた。
そして、今は眼鏡を使って一心同体になり遺産を受け継がせる条件も全て話した。
「 そうだったんですか…… 。
何故私にこんな話を? 」
「 何故だろうな。 バレたのもあるが、君にはワシのように間違えてほしくなかったのかもしれない。
周りをもっと見ろ!
君は一人じゃない。
会社の同僚や明にワシも居る!
だから自分をもっと大切にしろ。 」
伊藤さんの胸に突き刺さる言葉だった。
伊藤さんは泣き続けていた。
「 今はゆっくり泣いていいのだよ。
君は若い。
君にはまだまだ時間があるのだから。
この事は二人だけの秘密だよ? 」
「 ヒックッ! ぐすっ! …… はい。
約束です。 」
伊藤さんは思った。
明が着けていた眼鏡は、おっさんからの息子への愛の形だったんだと。
不器用な男の息子への贈り物だった。
その二人の話を廊下で聞いていた千鶴さん。
「 社長…… 。 ぐすっ。 ひっく! 」
千鶴さんは相変わらず涙もろく泣いていた。
誰よりも沢山泣いていた。
千鶴さんらしかったのだった。
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