第16話 お金よりも大切な物
席に着き、態度デカく座る。
小声で伊藤さんが話しかけてきた。
「 先輩! 何考えてるんですか?
助けてるつもりですか?
私なんとも思いませんよ? 」
「 勝手に言ってろよ。
俺は俺の好きな風にやらせてもらうよ。 」
そして指を鳴らす。
パチーーーンッ!!
「 ドンペリタワーと全ての席のお客さんに、挨拶代わりにシャンパンを振る舞ってくれ! 」
そのお店に居るギャバ嬢や店長の目の色が変わる。
「 ありがとーーーございまーーす!! 」
凄い歓声が店に広がる。
こんなおバカな客は鴨でしかないから。
「 ねぇ? 先輩哀れみですか?
こんな事しても、全然罪悪感なんてないですよ。
先輩が借金まみれになるだけだから…… 。 」
「 ならそこで黙ってお酒でも飲んでろよ。
良いお客さんだろ? 」
そう言いニッコリ微笑む。
一時間前。
おっさんと作戦を練っていた。
「 おっさん。 沢山お金を使って、お金だけじゃ買えない幸せ見せてやろう?
伊藤さんは絶対にお金を使い続けたら、心が傷んで見てられなくなって分かる筈。
良いかなぁ?? 」
おっさんの笑い声が眼鏡から伝わってくる。
( アッハッハッハ!! 本当にお前さんはあまっちょろい考えだな!
だけどワシは大好きだぞ。
よし! 金は好きなだけ使え?
店を営業停止に出来るくらい余裕過ぎる。
ワシの財産はトップクラスだからな。 )
何故か寒気がした。
意外に近くにもっと怖い奴がいたとは…… 。
おっさんの凄さを再確認した。
そして今に至る。
周りにギャバ嬢達が群がる。
No.1、2、3と豪華な面子勢揃い。
「 吉田様ぁ〜〜。 もっとお酒下さい。
ねぇ? 良いでしょう?? 」
「 良いよ。 ドンペリの追加を頼む。
高級寿司とフルーツの盛り合わせ。
全部、この女の子の売上にしてくれ。
綾ちゃんの事一番にしたいからね。 」
お店は大盛り上がり。
歓声や酒で乱れまくる。
そこに強面のスーツを着たガタイが良い男達が、現れて囲まれてしまう。
そして店長登場。
「 すみませんがお客様。
ちゃんとお支払い出来るのでしょうか?
軽く500万いきますよ?
もし払えないなら…… 。 」
当然の反応だ。
冷やかしの逆に見えるだろう。
「 悪い、悪い。 これ先に払っとくよ。
千鶴君! 持ってきてくれ! 」
すると、直ぐに千鶴さんが来てアタッシュケースに詰めまくられたお金を見せる。
「 ざっと1000万ある。
もっと追加したらまた払おう。
問題はないな? 」
「 失礼致しました…… 。
心行くまでお楽しみ下さい!! 」
直ぐに強面の人達は立ち去って行った。
周りでもその大金を見て驚愕する。
「 ちょっと綾! あいつ何者よ?
見た目は冴えない面してんのに、とんでもない金持ちじゃないの。 」
No.1のギャバ嬢が伊藤さんに追及する。
「 単なる冴えないサラリーマンですよ。 」
「 えっ!? そんな訳ないでしょ!
何処にサラリーマンにあんなに貸してくれる人居んのよ?
サラ金でもあんなに貸してくれないわよ。 」
ギャバ嬢達は気に入られようと、美貌やボディタッチをして接待していた。
それを遠くから伊藤さんは眺めていた。
「 お願い! もっともっとお金使って? 」
「 ん? 良いよ。 ドンペリダブルタワーでもまたするかい?? 」
凄い歓声が上がる。
それを見て心が痛くなっていた。
お金に群がる姿を見ていたら、何をしているか分からなくなる伊藤さん。
こんなに高いドンペリやお寿司、フルーツやデザートを沢山食べても全く美味しくなかった。
その時、ふと明と過ごしたランチでの話を思い出していた。
「 俺はどんな高級な物を食べるよりも、高級な物が手に入るよりも、近くで楽しく話ながら食べる安いご飯の方が幸せなんだ。
大切な人はお金では絶対手に入らないからね! 」
その言葉が頭から離れなかった。
伊藤さんは泣き崩れていた。
自分が頭では分かっていても、お金の為に彼氏に尽くしていた。
本当に好きだったから。
彼氏の為になんでもしてあげたかったから。
その人の為に何が出来るのか?
その時、簡単にたどり着いたのがお金だった。
今見た光景はお金の為に群がるハイエナ。
自分も同じ事をしていた事が分かった。
大切な人を想うなら、お金ではなくても違う選択肢があったのではないか?
と思わずにはいられなかった。
お金を稼ぐ為に愛情を費やしても、そのお金は簡単消費されてしまい、全く愛情は伝わらない。
「 もう…… 良いよ。 」
小さく伊藤さんが呟いた。
その声は笑い声や周りの声に書き消されてしまっていた。
「 もう良いって言ってるでしょ!! 」
伊藤さんは叫んだ。
心の底から店に響くくらい叫んだ。
「 もう良いのかい? 」
泣きながら静かに頷いた。
「 うん。 ひくっ! …… お金なんてもういらない。
凄い分かったから。 ぐすっ! 」
「 そうか。 じゃあ、帰ろう。 」
高級なスーツの上着を伊藤さんに羽織らせる。
そこに店長が走って来た。
「 お客さん。 困りますよ。
ウチの大事な子なんだから勝手な真似されちゃ。」
「 この子は今日でここを辞めさせて貰います。」
店長や周りのイカツイ奴らは笑っていた。
「 お客さん。 コイツはウチに借金があるんすよ。
彼氏の店を作ったりするのに、5000万。
だからそれ払うまでは、辞められちゃ困るんすよね。」
伊藤さんは大金を稼げなくて、こんなヤバい所から借りていたのか…… 。
「 良いですよ。 裏で話しましょう。 」
そして店の地下へ連れて行かれる。
内心ドキドキだった。
「 結論から言って、今日払ったお金と別に5000万払いましょう。
だから彼女を解放してもらえますか? 」
「 お客さん。 嘗めてんじゃねぇよ!
大事な商売道具取られてたまるもんですか。 」
やっぱり一筋縄にはいかない。
これが沼にハマってしまうって事なのか?
「 なら力ずくでも返して貰いましょうか? 」
説明しよう!
吉田明には隠れた才能があった。
空手を友達に誘われて入り、大会に出る程強かったのだ。
なので、少し喧嘩には自信があった。
「 どうせくだらないゴミ共なんだろうからな。
一切手加減しねぇぞ! 」
格好よく相手が何時来ても良いように構える。
ドスンッッ!!
後ろから鉄パイプで頭を殴られ気絶してしまう。
喧嘩自慢も道具を使われて不意打ちされれば、人たまりもなかった。
何とも情けない…… 。
「 先輩!! 酷い。 何するの! 」
「 うるせぇな。 ガタガタ抜かすんじゃねぇ。
お前はまだまだ金ズルにするんだ、5000万なんかよりももっと稼がせてもらうぜ! 」
とんでもないゴミ野郎だった。
「 嫌! 放して! 先輩を助けなきゃ。 」
必死にもがいても押さえつけられて動けない。
そのまま何処かに連れて行かれそうになる。
「 その子を話せ! 」
その時、そこに居る人達とは違う声が聞こえた。
「 誰だ! 何処に居る!? 」
周りを見渡しても見つからない。
「 前に居るだろ? 見てみろゴミ共! 」
店長が前を見ると、倒れている明しかいない。
「 ワシはこの若造の眼鏡からお前らゴミに話をかけている。
全てお前らの悪行は見させて貰った。 」
直ぐに眼鏡を壊そうとする。
「 ワシの息子に手を出すな!
少しでもやってみろ?
お前らをワシの全てを使ってでも地獄に突き落とす! 」
衝撃の展開!
伊藤さんも困惑する。
「 早まるな! 全てお前らの悪行はこちらで録画させて貰った。
だから壊そうとしても無駄だ。
そして相談だ。 その子達二人を解放しておくれ。
タダとは言わん。 解放したら録画データを消そう。
さらに、そこの女性の借金もちゃんと払おう。
良い条件じゃないか?
さもなけへば、この録画データを警察に着き出せばお前らは刑務所行きだ。 」
店長の選択肢は決まっていた。
「 お前ら、その二人を外まで運べ!
綾。 お前は今日から自由の身だ。 」
「 えっ? …… 本当に? 」
やっと借金から解放された。
「 交渉成立だな。 少しは頭を使ったな。 」
ずっと煽りまくるおっさん。
外まで運ばれると、外にはおっさんと千鶴さんが待っていた。
「 明様はこちらで預かります。 」
千鶴さんが明を抱えて、リムジンに運んで行く。
伊藤さんは驚いてしまう。
「 あなたは昨日会った…… 。 」
「 久しぶりだね。
九条大門だ。 改めて宜しくね。
とりあえず車に行こうか? 」
そう話して車に乗り、病院へ向かうのだった。
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