第15話 伊藤さん救出計画!


家に帰り、おっさんとお茶飲みながら会話していた。


「 実は今日伊藤さんにあってな。

それで…… 。 」


今日あった出来事を教えて貰った。

休んでいたからおかしいな。 っと思っていたら、まさかそんな理由だったとは…… 。


「 だから明日、お前さんに伊藤さんを助けて貰いたいのだよ。 」


「 無理無理! 最近の若者に俺みたいな冴えないサラリーマンが何が出来るのよ?

借金を彼氏の為に払らってるんだろ?

自分の選んだ事なんだから、横からとやかく言う事じゃないんだよ。 」


彼氏の為に働いてるんだ。

俺には関係ないし、口だしたら怒られそうだし。


「 そうかもしれないけど、あの子は顔は笑ってたけど心の中で泣いてたよ。 」


おっさんは真っ直ぐ俺を見つめている。

こう言う展開に弱い…… 。


「 わぁーたよ。 明日仕事で話してみるよ。

それで良いんだろ?

相変わらずお節介なんだから。 」


「 さすが若造だ。 」


おっさんには世話になってるし、伊藤さんは俺の数少ない友達だ。

出来れば助けたい。


次の日ーー 。

リムジンに乗りいつものように駅まで行く。


「 千鶴さんや。 彼氏の為に何でもしてあげたいとか思った事ある?? 」


「 無論。 そんな事ある訳ないです。

ただ…… 。 気持ちは分かります。

女は大好きな人の為ならどんな事でもします。

例えその人の為にならないと分かっていてもね。 」


千鶴さんはそう言い、車を運転している。

んー、男だから分からないのか。

もし騙されているのなら目を覚まして欲しい。


電車に乗り会社に着く。

席に着き仕事をしていても伊藤さんは来なかった。

周りに聞いてみると、今日もお休みのようだ。


( おっさん。 そう言う事だ。

今日は諦めよう。 なっ? )


眼鏡を使い、おっさんに自分の意思を飛ばした。

納得してくれるだろう。


( 若造! 甘ったれるな!

来ないならこっちから行くまでだ。

石田裕也いしだゆうや検索。

って言ってみてくれ。 )


( 何を言ってるんだ?

まぁ、やってみるか。 )


直ぐに実践に移る。

人があまり居ないのを確認して…… 。


「 石田裕也検索。 」


そう言うと眼鏡から音声が聞こえてきた。


「 了解しました。 …… 検索完了しました。

石田裕也。 全41件該当者あり。

もっと絞りこめますが、追加ワードをお知らせ下さい。 」


眼鏡には検索機能もあったみたいだ。

とんだ凄い道具だ。


( 若造! 追加ワードは、31歳。

バー店員。 )


おっさんから聞き、直ぐに追加ワードを伝える。


「 追加ワードは、31歳。 バー店員。 」


少し読み込んでいる。

直ぐに完了して眼鏡から返答が返ってくる。


「 一件に絞りこみました。

石田裕也。 バー店員。 犯罪歴無し。

ここから近くのアパートに住んでいる模様。 」


そのアナウンスの後に、眼鏡のレンズに石田裕也の免許証の写真が見える。

かなりのイケメン。

伊藤さんが好きなのも分かる気がする。

金髪のイケメンで、美容師のように髪型も整っている。


( 住所ルート検索って言え! )


相変わらず人使いあらいなぁ。


「 住所ルート検索! 」


すると、レンズに石田裕也の家までのルートが映り込んできた。

まるでジェームスボンドような道具だ。

ビックリの連発!


( 若造。 頼むから早退して見に行こう? )


( 分かったよ、任せておけよ! )


俺もイケメンには裏があると思った。

ただのひがみだったけど。

仕事を早退し、直ぐにナビにしたがい彼氏の素性を洗いに行く事にした。


仕事からそんなに離れた場所ではないバー。

ここのオーナーとして働いている。

勝手な主観ではあるが、バーの店長はどうしても自分には合わない。

イケメンが格好つけているような気がするから。

何度も言うが主観である。


ガラガラー! ドアを開けて中へ入る。


「 いらっしゃい。

今日はまだオープンしてないんですよ。

でも今日は良いですよ。 特別に。 」


眼鏡が調べ上げた彼氏の顔と一致した。

やっぱりイケメンだ。


「 すみませんね。 ワインをグラスで。 」


軽く飲みながら色々調べよう。

もし彼氏が悪い奴なら、伊藤さんを彼氏から引き離すんだ。


「 にしても店長さんはイケメンだね。

彼女の2、3人居るんじゃないの? 」


「 いやぁ〜、全然ですよ。 」


まだまだ警戒心が高い。

そりゃあ、今日来たばかりのお客さんに自分の話をホイホイ話す筈もない。

なら、営業で培ったトーク力を使ってやる!


「 マスターさんや。 聞いて下さいよ。

最近付き合った彼女がウザイんすよ。

何でも言う事聞いてれば良いんすけど、直ぐに文句ばっか言って来て。

酒が進む。 進む。ごく! ごくっ! 」


グラス一杯でくらくらしそう。

酒には本当に弱い。 態勢が全くない。

当然今話した話は嘘。

相手に話させたいなら、まずは自分から話すのがセオリーである。

さすがにこの話には乗ってこないか?


「 お客さん。 女なんて思いっきり惚れさせりゃ、こっちのもんですよ。

何でも言う事聞きますから。

主導権を握るんですよ。 」


グラスを拭きながらクソみたいな話をしてくれる。

思ったより乗りやすいな?


「 そうなんすか?

ここのお店とか始めるまで大変だったんじゃないですか?

普通こんな店舗持つのなんて、若いマスターには苦労とかあったでしょうに。 」


マスターは少し考えた後に、ニヤニヤと話し始めた。


「 実はね、本命とは別に彼女が居て、そいつに借金してもらってここ開いたんすよ。

だから俺は全然苦労してません。

彼女はOLしてるだけなんで、貯金切り崩したりとかギャバで働いたり頑張ってますよ。 」


やっぱりゴミ野郎だった。

信じたくはないが、これが真実だ。


「 たった一言言えば良いんすよ。

二人でいつか一緒に働こう! って。

二人の夢の為に。 ってね。 」


聞いているだけでも虫酸が走る。


「 マスターはやることが違うなぁ♪

借金払い終わらせたらどうするんですか? 」


「 後はふるだけっすよ。

やっぱり合わないとかね!

訴えようにも相手が勝手にやった事ですしね。

借用書書いてないんで、訴えても絶対に負けませんしね。 」


伊藤さんはとんでもない奴に捕まっていたようだ。

少し飲んだ後に店を出た。


( おっさん。 来て良かったよ。 )


( そうだな…… 。 んで、どう伝える? )


問題はそこだ。

多分、さっきのイケメンにドップリハマっている筈だから、真実を話しても目が覚めない。


だからと言って、俺は引き下がる訳にはいかない。

助けなかったら、後で絶対後悔するから。

伊藤さんに連絡して話す事にした。

やっぱり友達であり、先輩の話だから補正が乗って結構聞いて貰えるのではないか?

何かそんな気がする。


「 はっ? 騙されてる訳ないじゃないっすか。

頭おかしいんじゃないですか? 」


現実はそんな簡単に上手くはいかない。

本心ではないと思うが、ガラスメンタルの俺には伊藤さんの言葉が突き刺さる。


「 でも、彼氏のお店の借金を代わりに払うなんておかしいよ。

夢を叶えるなら自分の力でやらないと。 」


伊藤さんはいつもよりとても態度は悪く、目を合わせずにイライラしていた。

彼女からは落としきれていない、香水の匂いが漂っていた。


「 二人の夢なんで。 先輩には関係ないでしょ?

彼氏の為なら、体売ってでも力になるんだから。

だから、OLで働いてる時間もないんで。

ギャバとかしてた方が儲かるし。 」


おっさん…… 。 俺にでも分かった。

彼女は、心の中で泣いているのだと。

彼氏の為だからと言って、慣れない夜の仕事をして傷つかない筈ない。

彼女がお茶汲みや仕事をしている姿は、凄いイキイキとしていて笑顔に溢れていた。

今の彼女からは、その笑顔が微塵みじんも感じない。


「 じゃあ、先輩。

私を指名してお金使って下さいよ。

そうすれば仕事辞めれるんで。

3000万。 助けたいんでしょ?

だったらお金払ってよ。 」


そう言って立ち上がり、カフェから出て行こうとする。

立ち去ろうとする彼女に俺は…… 。


「 俺は…… 、夢はお金では絶対買えないと思ってるよ。

何でもお金があれば出来る訳じゃない。

お金があれば幸せなの?

俺はそう思わない! 」


珍しく強く話してしまった。

偉そうだったかな。


「 本当に何にも分かってない。

世の中お金がないと何にも出来ないんですよ。

現実を見て下さい。 」


そう言い立ち去ってしまう。

1人残され、冷たい言葉に心を痛めていた。

本心ではないことは直ぐに分かっていた。


彼女は泣いていたから。


「 おっさん…… 。 力貸してくれるか? 」


( おうよ! 二人の力見せつけてやろうぜ! )


その日の夜。

伊藤さんは髪を持ち上げ、夜の姿に変わりメイクも派手に服も大胆になっていた。


( 先輩…… 本当にお節介!

私はこれで良いの。 幸せなんだから。

今だけ頑張ればそれで良いんだから。

私が頑張れば幸せになれるんだから…… 。 )


すると、店内が大盛り上がりになる。


「 おいおい! 伊藤ちゃん。

とんでもない金持ちが来たぞ。

君をご指名だ。 」


とんでもない金持ち?

何故自分なのか?

気になりながらも入り口に出迎えに行く。


「 こんばんわ! 今日は楽しませてもらうよ。 」


高級な白いスーツを着てネックレスや指輪をはめて、とんがりの白い靴を履いて入って来た。


「 えっ!? 先輩!? 」


「 夜は長い。 沢山飲もう。 」


これが俺の出した答えだ。

その日、俺の伊藤さんとの我慢比べが始まった。

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