第14話 差し入れ


俺は仕事が終わり、帰ろうと荷物をまとめる。

最近は苦痛に感じていた仕事も1人じゃなくなり、そんなに悪くなくなっていた。


( 今日は帰り1人かぁ…… 。

ちょい寂しいな。 そうだ。 おっさんの会社に差し入れにでも行くかな?

おっさんビックリするぞ。 )


そう思い、1人にやけるてしまう。


( 何が良いだろうか?

そうだ! おっさんの好きな焼き鳥屋行って買おうかな?

喜ぶぞぉー。 )


思い立ったら直ぐに焼き鳥屋に向かった。


焼き鳥屋に着くと相変わらず汚い。

見間違えたらごみ屋敷にも見えなくもない。

…… それは良いから中へ入るか。


ガラガラーーー!!


「 すみませーーん。 やってますかぁ?? 」


「 んっ? いらっしゃい。 やってるよ。 」


この前居た若い店長とは違う、髭の汚いおっさんが出て来た。

NEW店長に変わった理由はこの不潔さがあったからなのかな?

そんな事を言ってる暇はない。

早くテイクアウトしておっさんの所へ行かなければ。


「 テイクアウト良いですか?

かしらとつみれとねぎま。 後はレバーにたん。

後はオススメ包んで下さい。 」


「 あいよ! ありがとうございます。 」


( 見た目と違い、少しは丁寧な接客態度だな。

少しはこの店が続いたのも分かる気がする。

味だけかと思ったぜ。 )


ジューーッッ!!


炭火で焼く音が聞こえてくる。

美味しそうな炭火の匂いだ。

あっという間に店内は煙に包まれる。

目の前に居た店長の姿を目視出来なくなり困惑してしまいそうだ。


「 兄ちゃん。 もしかして、この前お店に食べに来てくれたかい? 」


煙で前が見えないが声だけ聞こえてくる。


「 ゲホッ! ゲホッ! …… 来ましたよ。

ボンクラのおっさんと一緒に。 」


そう返答すると店長は少し黙っていた。


( ん? 何だこの元店長は? 話膨らませろよ。

まぁ、別に良いんだけども…… 。 )


「 そうか…… 。 そのボンクラって大門ちゃんかい? 」


( えっ? 知ってるのか? )


「 そうですよ。 変わったおっさんなんですよ。 」


「 そうかぁ。 大門ちゃん…… 。 懐かしいな。

昔は良く来てくれたんだよ。

とっても可愛い彼女と一緒に。 」


煙の中から染々と語っている。

おっさんの思いでの場所なんだなぁ。


「 そうなんですか。 アイツが彼女居るとか今では考えられないなぁ。 」


「 大門ちゃんは学生の時から一生懸命に勉強して、夢に向かって焼き鳥食べながら勉強してたよ。 彼女はいつも隣に居て見守っていたよ。 」


( そんな事が…… 。

おっさんってそう言えば昔の話あまりしないな。

だから少し斬新だなぁ。 )


「 君は大門ちゃんとどんな知り合いだい? 」


「 いやぁー。 何と言うか、俺の親友みたいな感じですよ。 大切なね。 」


「 そうかい。 ほいっ。 出来たよ。

今日はオマケしてやるよ。 500円ね。 」


( 髭オヤジ…… 。 いや、髭男爵。

ありがとう。 ハードボイルドと言わせてくれ! )


「 ありがとうございます。 悪いなぁ。

それじゃ、500円。 それじゃ、今度はおっさんと来ますね。 」


「 ありがとうね。 大門ちゃんに宜しくね。 」


そう言い俺は直ぐに店を出る。


( ん? あの鞄に付いてる御守り…… 。

雪菜ちゃんの御守り!? それじゃあの子は…… 。

雪菜ちゃんの息子!? )


俺の知らない所で髭男爵が何かに気付いていた。

呼び止めようとしていたが、俺にはその声は届いていなかった。


おっさんの会社に着いた。

早く行って、一緒に焼き鳥でも食べよう!

ビルに入り受付のお姉さんにアポ取ってもらお。

すると、前から来た男性に肩がぶつかる。


ドンッ!!


「 あっ。 すみません。 」


直ぐに謝り顔を見ると、そいつは門脇実だった。

おっさんの側近。

次期社長を狙う裏切りもんだ。


「 チッ! 気を付けなさい。 」


( すげぇ悪い態度。 初対面でこの態度かよ。 )


エリートも態度が悪いだけで人として最悪だ。

直ぐに門脇は部下を連れてビルを出て行った。


( 気にしない。 気にしない。 早く行こう! )


門脇は車に乗り、窓からこちらを覗いていた。


「 おい。 今の誰だ? 見慣れない冴えない貧乏くさいサラリーマンは。 」


「 門脇様。 私も存じ上げません。

調べておきますか? 」


「 まぁ、一応な。

何故か何処かで見たことが …… 。」


門脇は何故か俺に興味を示している。

門脇は全て知って置かないと落ち着かない。

部下に調べるよう手配した。


「 おい。 社長の血縁関係は調べたのか? 」


「 はい。 今の所、兄弟や彼女。

結婚とかもしてませんね。

もう少し調べてみます。 」


裏ではいつも大変そうだ。


( よし…… このまま行けば、私が次期社長だ。

その為に最後まで油断はしない。 )


門脇は静かに野望の為に燃えていた。


「 あのぉ。 お姉さん。 おっさ。

違う違う! 大門社長居ますか? 」


「 失礼ですがアポはなさってますか? 」


「 アポ?? 吉田明が来たって言って貰えれば多分大丈夫なので、少し話してみてもらえますか? 」


直ぐに受付のお姉さんが社長室に電話を入れる。


「 確認取れました。 社長室へどうぞ! 」


「 ありがとうです。 それでは。

あっ! お疲れさまです。

これつまらない物ですがどうぞ。」


受付のお姉さんの手にある物を渡し社長室に上がった。


「 なんだろう? これチョコ?

可愛い。 優しい人だなぁ。 安いスーツ着てるけど満更悪くないわね。 」


受付のお姉さんはチョコをこっそり食べ微笑む。


社長室に着いてノックする。


トントンッ! トントン! トン!


リズミカルにノックする。

これが明式ドラミングノックだ!!!


どーーーーんっっ!!


凄い勢いでドアを開けられ思いっきりぶつかる。


「 どぅおおおぁっ!! 」


頭をぶつけて倒れる。


「 うるさいですね。 貧乏サラリーマンはこれだから困ります。 」


千鶴さんは相変わらずアメリカンジョークも通じない。


「 痛てててっ。 ちょっとふざけただけなのに。 」


中に入り奥の社長の椅子に座っているおっさん。


「 おおっ! 坊主。 良く来たな。

帰りに何か食いにでも行くか? 」


「 それには及ばないぜ。 ほいっ! 」


持ってきた焼き鳥を出す。


「 おおうっ! これは焼き鳥屋村上の匂い。

たまらん!! 買ってきてくれたのか? 」


凄い喜びようだ。

ヨダレが垂れてれるような…… 。


「 一緒に食おうぜ。 千鶴さんも一緒に。 」


「 お前も少しは目上を労る事を覚えたか。

千鶴君も食べるぞ。 今日は仕事終わり! 」


呆れてため息をつく千鶴さん。


「 はぁー。 仕方ないですね。

私はたん下さい。 」


意外にちゃっかりしている。

皆で焼き鳥を食べる。


「 うっ…… 美味いぞぉぉぉおーっ!! 」


デカい声で叫ぶおっさん。

本当に焼き鳥が好きなんだなぁ。


「 本当に美味いよな。

髭おやじがまけてくれたよ。

優しい元店長だよな。 」


「 髭おやじ…… 。 働いてたのか?

あの店長。 」


「 今度おっさんと食べに行くって言ったら喜んでたぞ。」


そう言うと、おっさんは静かに何か考えていた。


「 今度食べに行くぞっ! 出来立てが一番だ。 」


「 そうだな。 」


二人で笑いながら食べていると、口を膨らませて沢山食べている千鶴さん。


「 千鶴君! 誰がそんなに食べて良いと言った?

キミと言う奴はぁ…… 。 」


「 もぐもぐ…… もうしわけありましぇん。

ごっくん! ここの本当に美味しくてつい…… 。」


顔を真っ赤にして恥ずかしそうな千鶴さん。


「 あっはっはっは! 何だよその言い訳は!

あはははっは! 」


俺は涙が出る程笑った。

おっさんも怒りながらも笑っていた。

最高な時間だ。


( 神様。 どうかもう少しおっさんの寿命を長くして下さい…… 。 )


そう願わずにはいられなかった。


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