第13話 伊藤さんとおっさん


おっさんと会ってから数ヶ月。

いつの間にか二人での生活は当たり前になっていて

俺の生きる原動力にもなっていた。


「 おっさん。 そろそろ仕事行くからメガネつけろよ。 今日は満員電車になる前に早めに起きたんだからよ。 」


「 坊主。 今日はワシはお休みだ。

仕事が忙しくてな。 」


なんだ…… 。 今日は一人かよ。

折角空いてる電車で行こうと思ったのに。


「 そうか。 それじゃ仕方ないな。

俺は一人で行くわ。 行ってきまーす。 」


「 気を付けてな。 」


デカイリムジンに乗り、千鶴さんの運転で駅まで送って貰う。


「 千鶴さん。 おっさんは忙しいのかな? 」


「 当然です。 どっかの誰かさんと違って、社長は期待されてるんですから。 」


相変わらずトゲのある話し方。

最近は少し慣れたけど。


「 明様は何故あまりお金を使わないんですか?

折角あの家に居るのですから、少しはワガママとか言っても良いのではないですか? 」


( おや?? 珍しく俺に仕事の質問以外の話をしてきたなぁ。 どうしたんだろ?? )


「 ん〜、貧乏癖が消えないだけですよ。

今日はジンジャエールでも沢山飲もうかな♪ 」


「 クスっ! 本当にお金に無頓着なんですから。 」


何故か笑われてしまった。

千鶴さんの笑う姿は珍しい。


「 そうだ! 今日は帰りにおっさんに何か買ってってやろう。 絶対腰抜かすぜ。 」


「 それは良い思いつきですね。

社長も喜びになるでしょう。 」


駅で降ろしてもらい、電車に乗り会社へ。

会社に到着していつもの様に仕事。

おっさんが居ないと少し寂しい。


「 吉田さん。 お茶どうぞ。 」


「 ありがとう。 あれ? いつもは伊藤さんがお茶汲みじゃなかったでした? 」


いつもと違うOLさんがお茶を出してくれた。


「 ああ。 伊藤さん? 今日は風邪で休みみたい。」


「 そうなんですね。 」


( 風邪かぁ。 珍しいな。

体は丈夫そうにみえたけど風邪もそりゃ引くよな。)


今日はとことん一人だと感じる日になっていた。


その頃、おっさんは会社で仕事をしていた。


( ふぅ〜。 久々の仕事は体にこたえるのぉ。 お昼でも頼もうかな? )


「 社長。 そろそろお昼ですがどうなさいますか?」


おっさんは悩んでいた。

出前にしようか外で食べようか。

車椅子だと外食はしにくい。

…… でも外食が良い!


「 千鶴君。 外食にするぞ。 」


「 かしこまりました。 準備致します。 」


車椅子を押してもらい外へ出掛けた。

外の景色はとても綺麗で気持ちが良い。

室内に居すぎると視野が狭くなる。

外出して気分良くしなくては!


「 千鶴君は何が食べたい? 」


「 私は何でも。 」


何を食べるか悩む…… 。

定食か? 高級レストランか?

ラーメン…… 中華?

悩むとキリがない。


( 何にしようかな…… 。 ん? あれは? )


おっさんの目に止まったのは伊藤さんだった。


「 おっ!! 綾ちゃ…… あっ。 」


おっさんにとっては知り合いでも、相手は全く知らない。

危なく話をかける所だった。

それにしても今日は仕事なのでは?

少し気になり後をつける事にした。

おっさんは好奇心旺盛なのだ。


( ん? キャバクラ? )


伊藤さんはキャバクラに入って行った。

どうしてキャバクラに用があったのか?

少し待つことに…… 。

30分程度で出て来た。

その表情は少し寂しそうだった。

そして近くのバーガーショップに入って行った。


「 はぁ…… 。 これからどうしよう…… 。 」


伊藤さんは悩んでいると、おっさんが駆け寄って来た。


「 お嬢さん。 お隣良いかな? 」


「 えっ!? …… どうぞ。 」


見ず知らずのおっさんが来たら誰でも嫌がるだろう。

伊藤さんは何故か相席を許可してくれた。


「 すみませんね。 ワシはこのお店初めてで、誰かとお喋りしながら食べたくてね。

このお好み焼きバーガーって凄いよね!

ダブル炭水化物何て誰も考えないよね。 」


「 そうですね。 あはっ! おじさんハズレ引かされてますよ。 こう言う期間限定はハズレしかないんだから。 」


伊藤さんが少し笑ってくれた。

おっさんは伊藤さんが友達として好きだからほっとけなかった。


「 絶対美味しいから。 むしゃむしゃっ!

ん!? 激美味じゃ!! 」


おっさんはジャンクフード大好き。

B級臭さが堪らなく良かった。


「 絶対損してるよ。 ライスバーガーが一番なんだから! 一口食べる?? 」


「 うむ。 頂こうかな? 」


伊藤さんが自分のライスバーガーを一口くれる。

もぐもぐ…… 。


「 ん!? なんじゃこりゃあ!?

お好み焼きバーガー何て買って損したわ。

ダブル炭水化物とか体に悪いだけだわ。 」


そう言うと伊藤さんが笑う。


「 あはははっ! 本当に面白い。

おじさん面白過ぎだよ。 あはは! 」


「 おっほっほっ! やっと笑ったね。

寂しそうに見えてつい、話をかけてしまったよ。 」


そう言うと少し我に帰り笑いが止む。


「 何か色々あってね…… 。 彼氏が居るんだけど、借金ばっかり作って保証人になったせいで、私が借金払わないといけなくて。

彼氏は必死に働いてるらしいけど、全然間に合わなくて借金返す為に最近キャバクラで働いてるの。 」


伊藤さんに辛い事情があった。


「 そうかぁ。 お金って人の人生を簡単に変えるからね。 本職はどうしてるんだい? 」


「 今日は疲れたからお休み。

あんまり稼ぎにならなくて…… 。

仕事終わってからキャバクラ行くの凄い辛いんだぁ…… 。 」


休んだのも仕方ない理由があったのだ。


「 あんまり仕事好きじゃないのかな? 」


「 んー …… 。成り行きで入ったからね。

だから思い入れとかあまりないかな?

お茶汲みばっかりで、男の人に上から言われるの腹立つし。 でも…… 。

最近は少し楽しいの。 人見知り激しい先輩が居るんだけど、その人と最近ご飯行くの楽しくて。

凄い優しいんだよ? 不器用だけどね。 」


明の話をしていた。

その話を聞いているおっさんはとても嬉しかった。

明をそんな風に思っていた事が分かったから。


「 そうか、そうか。 やりたい仕事を見つけるのは難しいからね。 ゆっくり見つけるといいよ。

まだまだ時間は長い。

だけど無理しちゃいけないよ?

彼氏の事ばかり優先してると、傷つく事が多くなって周りが見えなくなるからね。 」


「 ありがとう。 おじさんと話してると初めてな気がしない。 私は綾。 宜しくね! 」


少しでも落ち着いて貰えて良かった。


「 ワシは九条大門だ。 宜しく。 」


二人は笑ってご飯を食べた。


「 おじさんってお金持ち? 何か身なりが凄い良いスーツ着てるから。

職業柄、見た目結構気にしちゃうから。

こんな安いバーガーショップ入る身なりじゃないでしょ?? 」


相変わらず勘が良い。

目も良いようだ。


「 少しはね。 小さいけど社長をしている。

良かったら今度会社に遊びにおいで。 」


「 うん! 凄いんだね。 小さい会社今度見て笑ってやろう。 」


ランチを楽しんだ。

おっさんは伊藤さんが心配だった。

彼氏の為に無理して、ボロボロにならないだろうか?

彼氏は本当に借金を払う気があるのか?

どれくらい借金は膨れ上がっているのか?

色々嫌な予感がしていた。

明の友達でもあり、自分の友達だ。


おっさんは伊藤さんを助ける事にした。

静かにそう決意していた。

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