第12話 家とのさよなら


楽しい通勤が終わり、今日も嫌な仕事をしなければいけない。

生活をする為には仕方のない事だ。

いつものデスクに着き仕事を始める。

無心になり企画書やデータ整理をする。


( 若造! 香織ちゃん可愛いかったな。

今度ご飯にでも誘おわないか? )


このメガネをかけてれば、相手の意思を飛ばして話さずにも互いに会話出来る。


( 仕事中だぞ。 静かに時代劇でも見てろ! )


おっさんは仕事にたまに行くが、基本は病気だから家でゆっくりしてるらしい。

少しでも長生きして欲しいから、無理はしないでもらいたいもんだ。


「 明ちゃん。 おはよう! 」


力丸だ。 面倒だから無視しよう。


「 えっ? 無視かよ! 何だよ。 この前の事気にしてんのかよ! 」


香織さんと仲直りしたから良いが、コイツは許した訳じゃない。

楽しい時間を台無しにしてくれた。


「 本当に悪かったって。 マッチングアプリで知り合ったのかと思ってたけど違かったみたいだな。

お前が帰った後は大変だったんだぞ? 」


「 ん? 何かあったのか? 」


少し気になり返答してしまう。


「 おっ! やっと返答してくれたね。

一歩前進だ。 実は…… 。 」


時はさかのぼり香織さんとの食事の日に。

俺が帰り、二人は話ながらご飯を食べていた。


「 あのぉ…… 。 明さん全然帰って来ませんね。

少し見てこようかな? 」


「 あぁ。 アイツなら心配ないですよ。

そんな事よりあんな奴ほっといて二人で盛り上がりましょうよ。 」


力丸の積極的なアプローチが続いていた。


「 私は明さんと話したくて来たの。

だから( あんな奴 )なんて言い方やめてください!」


温厚な香織さんはいきなり声をあらげる。

力丸もびっくりする。


「 何かごめんなさい。 マッチングアプリで知り合ったんですよね?? 」


「 全然違います! 私が興味あって今日誘ったんです。 少し様子見てきます。 」


そう言い席を外した。

取り残された力丸は唖然としてしまう。

香織さんは店員に聞くと、お会計を済ませて先に帰った事を知らされる。


「 帰っちゃったのかぁ…… 。 何か傷つく事しちゃったのかな? 」


ここはチャンス! 力丸のアプローチ再開。


「 香織ちゃん。 明君は女の子を置いて帰る奴なんですよ。 だから良かったら俺と…… 。 」


「 失礼します! 」


そう言ってスタスタと帰って行きました。


( 何だよ…… 。 アイツの何が良いんだよ。 )


しょんぼりしながら力丸も帰ったのだった。


「 明君。 分かったかな?

これがこの前の地獄のお話だよ。」


自業自得。 身から出た錆。

ちょっと可哀想にも感じた。


「 そうだったのか。 大変だったな。 」


「 他人事みたいに言うな! 次会うとき誘ってくれよ。 」


そう言い残し仕事に戻って行った。

当然誘う訳もない。


最近はおっさんのお屋敷住んでから家に帰って居なかった。

あの家に帰ると思い出してしまうから嫌だった。

家賃やその他諸々無駄になっていた。


( よしっ! 今日は後片付けするか。 )


そう思い仕事の帰りに寄る事にした。


( 若造…… 。 家に寄るのか? )


( ああ。 そろそろ心の整理をしないとな。 )


おっさんにそう言い、仕事を片付けてあの愛するボロボロのアパートに向かった。


久しぶりの我が家に着く。


( どうだおっさん。 ボロボロだろ?

今見ると良くこんな所に住んでたよな。 )


そう言いながら家に入る。

少しホコリが積もった我が家。

母さんが居なくなってからは、無気力になり何にもしなかったから当然だ。


( 狭いだろ? ここに二人暮らしって凄いよな。

まぁ、楽しかったし良い思い出だよ。 )


そう言いながら部屋を見渡す。

二人で住んでるときは狭くて狭くて苦しかったが、少し部屋が広く感じた。


ガチャッ! 部屋の空く音が聞こえた。

誰か入って来た。


「 よっ! 若造。 実際に来たくて来ちゃった。 」


おっさんだった。


「 こんな部屋にか? 全然楽しくないのに。 」


「 少し興味あってな。 」


そう言い部屋に上がって来た。

車椅子から降りて、よろよろな足で立って周りを見渡していた。


( 本当に金持ちは何考えてるか分かんないな。)


おっさんは色々探索して、アルバムを見つけて見ていた。


「 本当面白くないだろ? 親戚も全然居なくて、ほとんど俺と母さんしか写ってないんだよな。

母さんは一人で俺を産むときに勘当かんどうされて以来、親とも親戚とも距離置いてたんだってさ。 何か寂しいよな。 」


「 そうか。 色々大変だったな。 」


いつもおちゃらけているおっさんも少し真面目モードになっていた。

気にする事ないのに。


「 母さん綺麗だろ? モデルとか芸能人に比べればただのおばさんにしか見えないだろうけど、少しは友達とかに人気あったんだぜ。

おっさんの周りには綺麗な人もっと居ただろうけどな。 」


笑いながらおっさんを見ると、おっさんの目には少し涙が見えた。

ゴミでも入ったのか?


「 おっさん? どうした? 」


「 最近は涙もろくて敵わんわ。

…… お前の母さんは幸せだったと思うか? 」


少し悩む質問だった。

ただ、一つ分かっていたのは…… 。


「 俺は貧乏で家計のやりくりや俺の学校のお金を稼ぐのにいつも無理してて、苦労しかかけてこなかったから幸せだったか分かんない。

ただ母さんが亡くなる前にずっと言ってのは。

俺が宝物だって。 私を母親にしてくれてありがとうって。 そう言って笑ってた。

母さんは幸せだったと思うよ。 」


本当に人の事ばっかり気にしてる親バカだった。

少しは恩返ししたかったな…… 。

おっさんを見ると声を殺しながら泣いていた。

本当に涙もろいな。


「 どうしたんたよおっさん。

いつもの減らず口は。 もう気にしてないって。 」


「 ぐすっ。 …… お前のお母さんは本当に立派なお母さんだったな。 本当に。 」


おっさんは独り身だったからか、何か思うことがあったのだろうか?

部屋の荷物をまとめて新しい家に送った。


夕方に俺とおっさんと千鶴さんでお墓参りに行った。

ここに来るのは久しぶりだ。


「 母さんも久しぶりだから喜んでるかな笑。 」


「 ああ。 絶対に喜んでるよ。 」


俺は手を合わせて黙祷もくとうすると、おっさんも隣でやっていた。

少ししてやめると、おっさんは深く長く黙祷していた。

本当に優しいおっさんだ。

おっさんには感謝しかない。

おっさんが居なかったら俺は死んでいただろう。

残り少ない時間もおっさんと楽しく生きたかった。

財産ではなく、親友として…… 。

家族として…… 。 何て勝手に思ってしまっていた。

千鶴さんを見ると、クールでポーカーフェイスなあの人がくしゃくしゃになりがら泣いていた。


「 千鶴さん!? どうしたんですか?? 」


「 ひっぐ! ひぐっ! 失礼。 少し取り乱しました。 問題ありません。 」


千鶴さんも優しい人だ。

いつもキツい事言っていても、内心はおっさんや俺の事を思っているのが伝わってくる。


「 よっしゃ! おっさん。

ラーメン食いたくないか? 」


「 ラーメン? どうして急に。 」


「 墓参りした事だし、母さんが大好きだった店があるんだけどそこ行こうぜ。 なぁ。 」


そう言い三人でラーメン屋へ向かった。

ラーメン屋に入り、テーブル席に案内される。

ラーメン屋 鬼殺し。 安くて量も多い。

味も悪くない。 何と言っても一番嬉しかった事は。


「 どうだ? 良い店だろ。 ここって夜中もやってるんだぜ。 だから母さんが給料貰って夜勤終わった時は、俺の事起こしてここに来たんだ。

時間が合わなくて、どうしても俺に寂しい思いさせてたから、美味しい物食べさせたかったんだろうな。 最高なんだから! 」


俺は思いだしながら笑いながらおっさんに話した。


「 そうか。 そうか。 」


おっさんは深くうなずいていた。

千鶴さんはまた泣いている。


「 おうっ。 明! もう大丈夫か?

心配してたんだぞ? 」


店長さんだ。 昔悪かったからか、リーゼントのような髪型が特徴的。


「 店長。 もう大丈夫だよ。

今日は沢山食べるぞ!」


「 嬉しいね。 今日は俺の奢りだ。

お前さんのお母さんには沢山来て貰ったからな。

明は俺の息子同然だ。 」


昔からの付き合いだから仲が良い。

優しい店長さんだ。


「 よしっ! ワシも沢山食べるぞ。 」


「 おっさん! 病気なんだから無理すんなよ。

ここのは量が多いんだけらな。 」


三人でラーメンを食べながら笑いあった。

俺にとって、今、この時間がかけ替えのない宝物だった。

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