第11話 表裏一体
会議が始まり、重役や副社長や色々大物が集まり始めた。
おっさんが今後の企画や株価、海外に向けての仕事など様々な話がされ始めた。
「 それで以上です。 社長。 」
「 うん。 ありがとう皆さん。
これからも宜しく頼むよ。 」
と言い大体の会議は終わったように思えた。
「 社長! 一つ大きな話が残っております。 」
「 ん? なんだい?
社長の側近でもあり、様々な技術も持っている次期社長候補だと噂されてもいる。
「 社長の体は大丈夫なんですか?
それと社長亡くなった後は、誰が次期社長になるんですか? そこだけはハッキリしないと。 」
( やっぱり病気は本当だったのか…… 。 )
メガネを通して聞いて俺は悲しくなっていた。
「 その事か…… 。 ワシの体はそんなには長くは持たないな。 安心しろ。 死ぬまでには次の社長を決めて置く。 」
周りがそれを聞きざわつく。
「 そうですか…… それは残念です。
社長がこの中からお決め下さい。 社長の意見に誰も文句なんて言う者はいませんよ。 」
門脇は少し涙目になりつつ語った。
「 悪いな門脇。 少し席を外すよ。 」
そう言い千鶴さんに車椅子を押してもらい、会議室を出て行った。
( ん? 何でおっさんが部屋から出たのに続いてるんだ? )
おっさんはメガネを会議室のテーブルに置いたまま出て来たのだった。
「 社長が居ない内に会社の今後を話しておこうか? このまま生ぬるい業績ではやってけないからな。 」
( 門脇? 何言ってるんだよ。 )
門脇は社長を想いかと思っていたが違っていた。
「 製品の製造も海外に任せたりして、コストを削減し利益を出すんだ。 CMやメディアに沢山取り上げてもらって、質よりもどれだけ多くの商品を売れるかにしないとな。
社長のやり方じゃ、天下なんて取れないからな。 」
門脇はそう言うと、周りはうなずいていたり納得する者が多く見えた。
会社の利益が上がれば自分達の給料が上がる。
社長の目指した会社とは真逆の考え。
質の良い物を作れば値段は高くなってしまう時も沢山あるかも知れない…… 。
時には人の期待添えない事もあるかも知れない。
それでも物を作る為に、質を大切にして誰かの笑顔を見るために日々精進している。
だからこんなにも大きな会社になったのだと、俺は信じている。
( 母さんがここの製品を買っていたのもそれが理由なのかも知れないな。)
俺はメガネを外し少しため息をしていた。
社長ってお金が沢山手に入り、やりたい放題かと思っていたけど、裏ではこんな事もあるのだと感じた。
また少し大人になった。
「 若造! どうだ? 会議は見たか? 」
絶対にさっき見た事は言わない。
おっさんが悲しむから。
「 おっさん少し偉そうだったぞ。
もっと敬語を使えよ。 」
「 あれで良いんだよ! 親しみあって良いだろ。 」
一生懸命作った会社の裏側では、あんな事を考えておっさんの理想とは真逆になってるなんて…… 。
何も知らずに笑ってるおっさんを見て……
俺は…… 心が痛かった。
おっさんと過ごした時間は短い。
それでも今ではかけ替えのない友達。
相棒。 おっさんはどう思ってるか分かんないけど、俺は家族のようにも感じてる。
父さんが居たらこんな感じなのかな?
何て考えてしまう事がある。
「 おっさん。これから牛丼食いに行こうぜ!
ファーストフードの美味さ教えてやるよ。
今日は見学のお礼に奢るぜ! 」
「 本当か若造! 沢山食うぞ。 」
俺はおっさんと千鶴さんで牛丼を食べに行く事にした。
おっさんと過ごせる時間は限られてるのかもしれない…… 。
残された限りない時間を存分に楽しませたい。
俺はそう思った。
そして会社を後にした。
会社の中では??
「 門脇さん。 次期社長は確実にあなたになる可能性が高いですね。 そのときはバックアップ致します。 」
門脇の部下の日下部。
「 日下部。 話が早いぞ。 だが気になる事が…… 。 社長は親族は居ないだろうな? 」
「 たしか結婚はしてないし、離婚経験もないので、そこの所は安心してください。 」
ニヤニヤと悪そうな顔で話す日下部。
「 念には念をだ。 社長は会社に入るときに言ってたんだ。 もし社長を受け継がせるなら、血縁関係にしたいなって。 その話が本当なら、血縁関係がもしかしたら存在するのかもしれない…… 。
日下部。 調べておけ。 」
「 多分大丈夫ですよ。 了解しました。 」
何やら裏では良からぬ動きが始まっていた。
俺達は知るよしもなかった。
次の日。 また出勤でダルくなる。
ご飯を食べてリムジンで駅まで送ってもらう。
「 千鶴さん。 毎日悪いですね。 」
「 いいえ。 旦那様からの命令なので。 」
相変わらずクールで愛嬌もない。
絡みにくい。 話しにくいなぁ。
「 そう言えば千鶴さんはいつから専属秘書になったんですか? 」
「 16からです。 」
( 16?? そんな若い頃から!?
バイト感覚で始まったのかな? )
「 どうして秘書になろうと思ったんですか? 」
「 言いたくありません。 」
( これは不味い所を突いてしまったな。
あんまり聞かないようにしよう。 )
そう思い車は駅に向かって行った。
無事に到着し、降りて改札口に向かう。
「 千鶴さんいつもありがとう。
変な事聞いてごめんなさい。 」
千鶴さんは返答せずに少し黙っている。
「 いいえ。 あんまり良い話じゃないので…… 。
いずれ話します。 お気をつけて。 」
何やら複雑な予感が漂っていた。
考えるのが面倒なので改札を抜け、階段を上って電車のホームに向かった。
ホームで電車を待っているのが苦手だ。
人混みは毎日の事だが地獄だ。
すると、こっちに向かって来る人影が。
「 明さんおはようございます。何度も連絡したんですよ?? 」
香織さんだった。
待っていたのだろうか?
「 おはようございます。 すみません。 少し忙しくて。 」
嘘である。
単純に力丸に取られて、途中で帰った理由を話したくなくて逃げていた。
休みの時に何度も電話がかかって来たが、出てはいなかった。
「 そうだったんですね。 何度もかけてごめんなさい。 何で途中で帰っちゃったんですか?
いきなり帰るからびっくりしちゃって。 」
( おいおい。 あんなに仲良くしてたら普通は居たくなくなるだろ? これだからモテる女は…… 。)
と思いながら言い訳を探す。
「 急にお腹の調子が悪くなって。 すみません。」
子供か? と思うような言い訳だ。
正直に言うのは恥ずかしかったから。
「 大丈夫でしたか? なら良かったぁ〜 。
嫌われたかと思って心配してたんです。
力丸さんと二人で色々気まずかったんですよ? 」
( おやおや?? 気まずい? あんなに楽しそうにしてたのに? )
人の考えてる事は分からない。
「 力丸と楽しそうに見えましたよ? 」
そう言うと、くすくすと笑う香織さん。
「 力丸さんは面白いけど、ぐいぐい来られるのが苦手なんですよね。 もしかして気にしてました?」
ヤバい…… 早とちりしていたらしい。
元々の逃げ癖のせいだ。
「 いや、あのぉ。 ちょっとだけ。 」
「 気にする事ないのに! 私は明さんと話したく行ったんですもん。 」
笑ってる顔を見て、本当に良い子なんだなぁ。
と思ってしまう。
人の気持ちを100%分かるのは不可能。
自分の気持ちを分かってもらいたいなら、まずは自分から思った事を話さなければ分かってもらえるはずもない。
黙ってて気持ちが伝わる筈もない。
前に踏み出す勇気がなければ。
その一歩によって互いを少しは理解出来る。
そう思う出来事だった。
二人の距離は少し縮まった気がした。
電車が来て二人は電車に乗り会社へ向かいながら、楽しく話して過ごした。
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