第10話 おっさんのお仕事


家に帰り直ぐにベッドに入る。

今日は色々あった…… 。

少し眠りにつきたい。

あっという間に深い眠りについた。


朝起きて、少し二日酔いになっていた。

体が重い…… 。 二日酔いのせいに違いない。

今日は休みだから朝ごはん食べたら寝まくろうかな?

っと甘い考えを持ちながら階段を降りて食堂へ向かう。


「 おはようございます。 」


朝からメイド達から挨拶される。

少しはこの生活に慣れたかな。


「 みんなおはよう。 」


「 若造。 昨日は途中で通信止めてすまんな。

…… 途中で仕事が入ってな。 」


そう言えば途中から一切連絡してこなかった。

社長だから仕方ないな。


「 全然気にしないで。 昨日は…… 色々ありがとう。 おっさんのお陰で伊藤さん喜んでたよ。 」


昨日の行きつけのお店のお陰で伊藤さんも、喜んでランチ出来て本当に助かった。


「 あんなので喜んでもらっては困る。

ワシの財力を使えばあんなの造作もない。 」


さすがは社長だ。

あんなの一般のサラリーマンには無縁な世界。


二人でデカいテーブルで朝食を食べながら話す。

おっさんと俺は向かい側に座ってるけど、長いテーブルだから凄い遠い。

声を張らないと届かないくらいに。


「 若造。 今日は休みだな。 何するんだ?? 」


「 まぁ。 部屋でのんびりかな。 」


休みはゆっくり過ごしたい。

邪魔だけはしないでくれ。


「 じゃあ、暇なんだな。 よっし!

今日はワシの会社に遊びに来い。 」


「 えっ? 休みなのに。 面倒だなぁ。 」


折角の休み。 おっさんの急な提案により会社へ遊びに行く事になってしまった。

せめてこの美味しい朝食をじっくり味わってから行こう。

そう考えながら朝食を食べた。

断る事も出来たのかも知れない。

少しの興味本位である。


千鶴さんが運転するリムジンに乗り会社へ。

中ではおっさんが優雅に足を伸ばし、朝のコーヒーをきめていた。


「 若造。 ワシの会社は初めてか? 」


「 当たり前だろ。 でけぇ会社なのだけは分かる。」


九条グループ。 今では世界でも渡り合う程の巨大な会社。

色んな会社の株主でもあり、高性能な機械を沢山扱う会社だ。

今使ってる意識を共有出来るメガネもここの会社の物だ。

正直今もこのメガネの仕組みが分からない。


「 旦那様。 そろそろ着きます。 」


( こ…… これは…… 。 でかすぎる。 )


近くで見たのは初めだが、100階はあるんではないでしょうか?

ここの社長が向かい側に座ってると思うと、今でも全然信じられない。


中へ入ると沢山の社員が、真ん中の通路の左右に一列に並んで出迎えるために待っていた。

全員スーツをきっちり決めて、頭を下げて出迎える。


「 社長。 おはようございます! 」


バカデカい声で挨拶をしてくる。


「 うん。 おはよう。 みんないつも悪いね。

今日も頑張ろうね。 」


この沢山の社員の頂点に立つ社長は、流石の貫禄でその中に優しさも感じる。

ただの変わったおっさんだと思ってたけど、やっぱり社長なんだと再確認した。


「 おっさん。 すげぇな。 スウェットで来たのがかなりの場違いに感じるな。 」


「 関係ない。 ワシの大事な客人なんだから堂々としろ。 胸を張れ! 」


千鶴さんに車椅子を押してもらい社長室に進む。

その後をおまけのように付いて歩く。

後ろから見るおっさんは、病弱だとは感じないくらい大きな背中だった。


社長室に入ると凄い広く、ソファも牛革を使った最高級品だ。

座るのも躊躇ためらうくらいに。


「 どうだ? 最上階は景色良いだろ?? 」


「 まあな。 おっさんは今日は何するんだ? 」


そうだ。 今日来た目的は何なのか?

それを聞かなければ。


「 まぁ。 技術者達の仕事ぶりを見るのと、会議するからメガネ使って見て見るか? 」


何だか色々楽しそう。

技術者達を見るのも最高な見学になるが、一番は大企業の会議は必見だ。


「 それは楽しみだ。 早く行こうぜ! 」


ちょっとした遊園地に来たような気分になっていた。

そう言えば母さんは、貧乏だったのに家電だけはこだわっていたなぁ。

テレビも冷蔵庫も電気も。

全部九条グループの物だった。

信頼出来る会社だったからなのかな?

ミーハーだったからに違いない。


開発者達の集まる部屋へ案内される。

そこには沢山の技術者が無言で黙々と作業を進めている。

分からない事や間違えてる所は指摘したり、互いを支えあっている。

正にここは大企業の裏側なのだ。


「 すげぇな…… 。 おっさん。 ここは研究所って感じだな。 」


「 そうだろ、そうだろ。 ワシもずっとここで働いてたんだぞ。 」


社長なのに研究所でずっと作ってたのか?

どんな社長だよ。


「 偉くなったら普通は物作りって、専門の部下達に任せるんじゃないのか? 」


「 ワシは物を作るのが大好きだったんた。

だからどんなに色々忙しくても、ここで働いてたんだ。 」


おっさんと共同生活をして分かった事がある。

おっさんは頑固でなんでも一人でこなす。

だからと言って周りを信じてない訳ではない。

とっても努力家だった。


「 時間だ。 そろそろ会議だ。 若造。 ちょっと行って来るわ。 ここら辺で椅子に座ってメガネ使えば見れるから見てみ! 」


そう言い、千鶴さんに車椅子を押してもらい会議へ向かって行った。


「 色々大変なんだなぁ…… 。 みんなに信頼されて幸せもんだな。 」


「 …… 意外にもそうじゃないですよ? 」


隣に座っている研究員が話しかけて来た。


「 え? だってあんなにみんなを想ってるんだぞ? 信頼されてない訳ないだろ? 」


「 みんながみんなここに居る研究員と違って、社長が退任してからそのポジションに就きたいって狙ってる奴は沢山居るんだよ。

だから表面上は良く魅せていても、裏で社長の身を案じてる人なんか一人も居ないだろうな。

俺達は悲しいけど。 」


( そんな…… 。 そんな訳あるかよ。

こんなにおっさんは会社や社員を想ってるのに、誰もあの会議室に居る奴はおっさんの体の事なんてどうでも良いのかよ…… 。)


俺は悲しくなっていた。

どんなに優しくも部下達を想っても、「 社長 」と言う肩書きにしか寄って来ない。

良く魅せてるのも次の社長の座に就きたいから。


「 おっさんは…… おっさんはこんなにも頑張ってんだぞ? あんな体なのにまだ会社の為に頑張ってるのに。 こんなの辛すぎる…… 。 」


「 あなたは誰か分からないけど、あなたも社長が大好きなんですね。 新しい社長は今の社長とここの研究が大好きな人になってもらいたいです。

お金ではなく、人の幸せを祈る人に。 」


その通りだ。

新しい社長はおっさんの意思を継いでくれる、人にやってもらいたい。

俺も同じ気持ちでいっぱいだ。


( そろそろ会議始まるかな? メガネの音声機能に話をかければ、おっさんの映像を共有出来るんだよな? よし! )


「 映像共有! 」


了解しました。 映像を共有します。


アナウンスが聞こえて俺のメガネを通して、おっさんの見ている映像が見えてきた。

一体どんな会議なのか?

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