第8話 社長なランチ
二人で歩いて5分程度で店に到着。
「 えっ? ここって…… 。 」
そこは日本の数少ないミシュランの☆二個獲得しているイタリアンのレストランだった。
( おっさんや。 これはやりすぎ、やりすぎ! )
店に着くなりおっさんは引っ込んでしまい、コントロール権は俺に戻ってきていた。
「 あ…… あぁ。 ここ? 実は少し知り合いがいて、たまに食べに来るんだよね。
友達割引ってやつかな?? 」
苦し紛れの言い訳をする。
これしか方法はなかった。
「 そうなんですね。 私こんなお店来るの初めて。 凄いドキドキしちゃう。 」
内心。 俺もドキドキしている。
二人はゆっくり店内に入ると、スーツをバッチリ着こなしているオーナーが出迎えて来た。
「 吉田様。 どうぞお越し下さいました。
今日はお二人の貸し切りにしております。
どうぞ、テーブルに案内致します。 」
これは酷い…… 。 やりすぎだ。
ミシュランのお店を貸し切り?
おっさんは一体どれだけの権力を持っているんだ?
二人は席に着きメニュー表を渡される。
( おい!! 全部フランス語じゃねぇか!
読める訳ないぞ! おっさん!! )
コントロール権が移ります。
「 じゃあ、ワシが料理決めても良いかね? 」
「 はい。 全然読めなくて…… 。 」
おっさんは天高く腕を上げ、指をパチンッ!!
と店内に響き渡る音を鳴らしてオーナーを呼ぶ。
「 お決まりでしょうか? 」
「 じゃあ、今日はシェフおすすめの鴨肉を使ったフルコースを頼むよ。 」
( 鴨肉?? なんじゃそりゃ。 )
「 かしこまりました。 ワインはどうなさいますか? 」
これだけはまずい。 仕事中だ。
( おっさん! 酒はダメだ。 仕事中だ! )
さすがにまずいと思ったおっさんは
「 今はまだ仕事中だから水だけでいい。 」
オーナーは直ぐに厨房にオーダーを伝えに行く。
「 先輩。 いつもと全然違います。
何かワイルドって言うか、大人って言うか…… 。」
別人なのには違いがないのでスルー。
その頃厨房では…… 。
「 鴨肉のフルコースペルファボーレ! 」
支配人が厨房にオーダーを伝えると
中からミシュランの猛者達の返事が返ってくる。
「 スィー!! 」
ちなみに無知な俺と知らないと思われる皆様に説明させて頂きます。
イタリア語でペルファボーレとはお願いします。
と言う意味で、オーダーを厨房にお願いしていたんですね。
そしてスィー とは、はい。 英語にするとyesのような意味です。
なので、コック達は了解したと返事をしたみたいですね。
にしても…… 日本人はほとんど知らないのでは?
イタリアンは難しい。
厨房ではお得意様の大事な友人が来ると聞いていたので、とても緊張しながら料理していた。
「 お待たせ致しました。 鴨肉の前菜で御座います。 」
直ぐにテーブルに来たのはサラダのようだが、見た目はお洒落過ぎて全くの別物。
例えて言うのであれば、サラダの宝石箱のような感じだ。
俺が例えられる限界だ。
「 すっごぉーい。 先輩ってこんなの食べてるんですか? 」
「 オッホッホホ! いつもはもっと不味いのだよ。 キミが喜ばそうと一生懸命にお店を探してくれたから、ワシも頑張って探した店なだけだよ。
さぁ。 今日はワシの奢りなんだから、どんどん食べよう! 」
( おっさん…… 。 )
俺は今気付いた。
おっさんはやっぱりウザイわ。
俺の考えてる事を分かったように、勝手に代弁してくるし。
ずっと誰も自分を理解してくれる人なんか居ないって思ってた。
おっさんだけはいつも俺を理解してくれている。
母さん………… 。 今はおっさんが居るから一人じゃないよ? って思うようになった。
鬱陶しいけど、何故か親父が居たらこんな感じなのかな? って思っていた。
「 先輩! 凄い美味しい♪ こんなサラダ初めて!」
サラダを食べて喜ぶ表情は落ち込んでいた時とは大違い。
笑顔いっぱいの女の子になっていた。
( 坊主! 後はお前がやれ! 楽しみな。 )
そう言うとコントロール権は俺に戻っていた。
直ぐに俺もサラダを一口。
「 バカうま! 」
高級レストランで出た一言は最低な褒め言葉しか言えなかった。
これも全ては貧乏が…… と言い訳をしていた。
「 ぷぷぷっ。 先輩って本当に面白い。
だって初めてじゃないのに、初めて食べたみたいなコメントなんだもん! しかも下品で。 」
笑われてしまった。
恥ずかしい思いでいっぱいに。
「 笑うなよ。 美味しいものは美味しいんだよ。
ずっと食べていたいね。 」
遂、普通にニッコリ笑っていた。
人前で大人になってからは、愛想笑いしかしてこなかったが、油断して微笑んでしまっていた。
気持ち悪く思っていないかな?
と相手を気にしていた。
( 先輩ってこんな風に笑うのかぁ。
初めて会ったときは、愛想悪っ! って思ってたけど、笑った顔凄い可愛いなぁ♪
彼氏居なかったら狙ってたのに!
会社では笑顔見せないなんて勿体ない。 )
と伊藤さんは考えていた。
人と言うのは難しい生き物だ。
自分がどんなに頭を使って考えても、相手の考えてる事何て1/3も理解出来ないのだ。
他の生き物には出来ない、話す。
と言う人間に与えられた最大の武器がある。
この言葉一つで傷つける事や逆の癒す事も出来る。
動物は考える事が出来るのも多い。
でも人間はそれを口に出して表現出来る。
人間とは素晴らしい生き物だ。
ここに居る二人ももっと素直になれれば良いのにと思う。
だがそれを上手く表現出来ないのも人間なのだから。
「 お待たせ致しました。 鴨肉のメインのコンフィで御座います。ソースはマデラソースでお召し上がりください。 」
全く理解出来ない。
料理名も味も全く分からない未知の領域。
「 先輩。 料理名聞いても全く分かりませんでした。 B級グルメしか食べてない私には無縁です。」
俺はB所かC級グルメばっかり食べてるぞ。
安心して欲しい。
二人で柔らかいお肉をナイフで切り、一口食べる。
「 うまぁーいっ! 」
二人は一緒に声を揃えて発していた。
二人はちょっと恥ずかしくなってしまう。
「 美味しいと自然に出ちゃうよね。 」
「 本当にですね。 凄い美味しい♪
あーむっ! 鴨肉も初めてだけど凄い病みつきになりそう。 先輩今日はありがとうございます。 」
生きるというのは難しい。
嫌な事があると人は楽な道を選びたがる。
どんなに道を間違えたり、踏み間違えてもずっと進んで行けば良いこともあるのだと感じた。
こうやって誰かと笑ってご飯を食べていられるのも、生きていたからだ。
もし死んでいたら今の楽しい事も味わえずに死んでしまっていただろう。
やっぱり生きていて良かったと思った。
おっさん…… ありがとう。
ちょっと食べながら考えていたら、少し泣きそうになってしまった。
人間は悲しいときに泣くイメージの人が多いが、逆に嬉しい時も泣くのだ。
泣くと言うの人間に与えられた高等技術。
二人は少し普通とは違うランチになったが、とても楽しいランチになった。
( 良かったのぉ。 若造よ。 お前さんと意識を共有して本当に良かった。 後少しだけでもいい…… 。
もっと、もっと長生きしたい。
こいつを今一人ぼっちには絶対出来ない。
…… 後少しでもいい。 長生きしたい。 )
俺は知らなかった。
裏ではおっさんが病気と苦しみながら戦っている事を…… 。
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