第6話 ハラハラな接待


昼休みを終え、また仕事に戻る。

仕事をしながらも夜の取引先への接待が気になり、仕事も上手くいかない。

時計を見ると18時になっていた。

上司が近寄って来る。


「 吉田君。 そろそろ取引先を迎えに行くぞ。

今日はとことん接待するぞ。 」


俺は接待が嫌いだ。

何故相手をよいしょしても仕事が欲しいのか?

実力で手に入れれば良いのでは?

接待で手に入れた成果なんて、絶対後々に何か起こるか分からない気が…… 。

酒も飲まないといけない。

サラリーマンの嵯峨さがである。


うちの会社が取り扱っている折り畳み傘を、雑誌に載せてくれる会社だ。

相手はまだまだ乗り気ではないらしい。

上司は接待でゴリ押そうと必死だ。

俺は上司に合わせよう。 そうしよう。


車を運転して取引先の会社へ到着。

熊井 正義。 取引先の相手だ。

この偉そうなおっさんを接待して、契約に繋げる。

頑固そうだ。


「 こんばんは! お迎えに参りました。

どうぞ。 お乗り下さいませ。 」


「 うむ。 」


( うむ。 だと? 何様なんだよ。 車から降ろしてやりたいなぁ。 )


まぁ。 無心になり、料亭へ向かった。

苛立ちはあるが、サラリーマンとして頑張るんだ。

上手くいけば出世するかも?

少しすれば金持ちになれるけど、嘘かもしれないから念のため頑張っておこう。


和を強調した料亭。

最高級の料理と雰囲気を醸し出すお店。

俺とは無縁な場所だ。


( 金持ちになったら来ようかな? )


小さな野望を秘めながら料亭へ入っていった。


奥から女将さんがお出迎えしてくれて、中へ通されて行く。

今日は何時に帰れるだろうか?

そう思う気持ちが頭から離れなかった。


沢山の和食と酒が運ばれて来る。

お持ち帰りしたいくらい。


「 どうぞ。 どうぞ、熊井さん。

今日は楽しんでくださいませ。 」


上司はずっとペコペコしてしまう。

仕方ないので俺も真似してペコペコ。


「 所でこの前の企画書なんですけど、私達の会社で扱う傘を宣伝しては貰えないでしょうか?

お願い致します。 」


俺と上司は深々と頭を下げる。


「 まぁこの企画書に記載されてる通りで良いよ。 その代わりに良いこと書いて欲しかったら、少し私にマージン量もらえるかな?

無理にとは言わないが。 」


マージン量? これは裏金ではないか?

会社を通さずに、個人の利益として受け取りたいようだ。

このおっさんやべぇな。


「 分かりました…… 。 この話しは内密と言うことで宜しいですね? 」


( おいおい。 ちょっと利益の為だからって、これはマズイだろう…… 。 でも会社の為だから見なかった事にしよう! そうしよう! )


これが社会の闇だと思い、見てみぬフリをする事にした。


コントロール権は移ります。


( おい? おっさん! どうするつもりだよ。

早まるなぁーーっ。 )


おっさんの交代のタイミングと言い、これは嫌な予感しかしない…… 。


「 そこまでして契約する仕事では御座いません。 私達はこの商品に自信を持っております。

お金で手に入れた偽りの契約に、何も価値は御座いません。 この話しはなかった事にしてもらえますか? 」


( ヤバいぞぉ。 おっさんの中の正義感が爆発。

だから社長は何にも分かってないんだよ!

ここは大人の話で簡単に終わらせた方が良いんだよ。 これは上司に殺されちゃうぞ…… 。 )


俺はさすがに終わったと思い、辞表の書き方を考えていると。


「 ふふふ。 良いんですか?

ウチと契約しなければ、そちらの商品を宣伝してくれる会社はあるんですかね?

今ならまだ間に合うぞ。 どうします?

頭を下げればなかった事にします。 」


( いいぞ! おっさん。 まだ間に合う。

頭は俺が下げる。 交代しろ! )


「 偽りの宣伝で人の心は動かせますか?

私は自社で扱う商品を真に愛し、心を込めて宣伝してもらえる会社と契約したいのです。

契約と言うのはそう言う物でしょ?

私は人の心を動かすのは、真心だと思っています。 だから、今回の話しはなかった事で。 」


さようなら…… 。 俺のサラリーマン生活。

上司の顔も見たくない。

相手も怒り爆発の鬼のようになっている筈。

帰ったらキレられる前に辞表を書こう。


隣の上司は怒り爆発!


「 吉田君!! 直ぐに謝りなさい。

君。 後でどうなるか分かってるのか!? 」


「 私は一生懸命商品を作った人の事を思うと、やっぱり偽りの宣伝ではなく、本当に心から商品を愛して宣伝してくれるパートナーが欲しいのです。

だからクビにされようと謝りません。 」


おっさん…… 。 俺もそう思うよ。










でもそれとこれとは違う!!

これはビジネスの話なんだよ!

だから自分の意思何ていらないんだよ。

いい加減にし。


「 あっはっはっは! おっと失礼。

私も少しあなた方を甘く見ていたよ。 」


取引先の相手が変な事を言い始めた。

どうしたんだ? 壊れたのか?


「 私は接待やお金に頼る会社を数多く見てきた。 それによって私も少し汚れてしまっていたのかもしれないな。 だけど吉田君。 君のような真っ直ぐな目をした社員を見たのは初めてだよ。

必死だったあの頃の私を思い出せた気がするよ。

本当にありがとう。 是非こちらの方からお願いするよ。 一から商品をしっかり見てから、我が社で宣伝するに相応しいか検討させて下さい。

私は君のような人と一緒に仕事がしたかったのだ。 宜しくお願いします。 」


( なんだこれ? ドラマみたい。 )


そう思い呆れてしまう。

上司もポカーンとしている。


「 それなら嬉しいです。 良い仕事をお互いにしましょう。 宜しくお願いします。 」


おっさんと取引先の相手と立ち上がり、がっしりと熱い握手をした。

相手の目は会ったときとは違い、生き生きとしているように感じた。

これがトップクラスに君臨している社長の実力なのか?

俺は改めておっさんの凄さを実感した。

その後は皆で盛り上がりながら食事をして家に帰った。

帰り道に上司は凄い喜んでいた。

俺ではなく、その中に居るおっさんに対して。



「 おっさん。 聞いてるか? 」


一人で歩きながらおっさんに問いかける。


( なんだ? 感謝ならいらんよ? )


「 嫌…… 。 おっさんってすげぇーんだな。

俺は直ぐに相手の言うこと聞いて、お金の取引をしようと思ってしまったよ。 情けないな。 」


実力もなく、楽な道を選んだ自分を恥じた。


( 何言ってるんだ? ワシはお前さんがあの契約が間違えてると思ったから力を貸したんだぞ?

何も思ってなかったら、力なんて貸しはせんぞ。

だからお礼も謝罪もいらん。 ワシのしたいようにしただけだからな。 )


おっさんの話を聞き、少しだけ救われた気がした。

おっさんのお陰で自分を嫌わずに済んだ気持ちになっていた。

仕事は難しいなって実感した。


今日は走って帰ろう!

そう思い走って家に向かった。

このメガネを着けて、おっさんとの共同生活も満更悪く思わなくなっていた。

また色々教えてもらいたいな…… 。

そう思わずにはいられなかった。

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