第4話 おっさんと居酒屋へ
家に戻るとおっさんが待ってた。
車椅子に乗りながらも無邪気にウキウキしていた。多分1日俺と過ごして楽しくて、感想を言い合いたいのだろう。
「 坊主! 会社って楽しいもんだな。
自分が働いてるみたいに楽しかったぞ。 」
気楽なおっさんだなぁ。
こっちの身になってみろ! って感じだ。
「 はいはい。 良かったですね。
疲れたから先に風呂入って休むわ。 」
そう言い風呂場へ向かおうとすると。
「 はぁっ!? 今からがお楽しみじゃないか。
夜の街へ繰り出そう。 さぁ、車を準備しろ!
二人で楽しむぞ。 」
勝手なおっさんによって、俺はリムジンに乗り夜の繁華街へ向かうのだった。
これも契約で仕方ない。 我慢我慢…… 。
車中で俺は不満を責めて言わせて貰う。
それぐらいは話す権利はあるだろう。
「 おっさん。 病人が何処へ行きてぇんだ?
あの家に居れば全て事足りるんじゃねぇか? 」
「 あの家は居心地が悪い。 たまには男二人で居酒屋に行きたいのよ。 良いだろう? 」
本当におバカなおっさんだ。
こんな面白くもない俺と酒を?
変わり者だ。
おっさんがどうしても行きたいお店って、どんな高級な居酒屋なんだろうか?
俺は少し期待に胸を膨らませワクワクしていた。
リムジンで夜に輝く繁華街を走っていると、ある店の前で止まった。
ここがおっさんの来たかった店…… 。
「 おっさん。 ここって…… 。 」
そこはとても綺麗とは呼べない、高級とは正反対に位置する店。
おんぼろの中のおんぼろ。
焼き鳥屋 村上。 とても汚い。
炭火焼きで焼き続けた煙により、看板や壁は
( きったねぇ。 本当にここなのか? )
俺は自分の目を疑うしかなかった。
「 文句言いてぇのは分かる。 味は旨いんだ。
さぁ。 中へ入るぞ。 」
そう言いおっさんと俺は店の中へ。
ガラガラーー! 立て付けも悪くなり直ぐにリフォームを勧めたい。
「 いらっしゃい! どうぞ。 お好きな席へ。 」
店内も汚い。 客は呑んだくれのおっさんばかり。
店長は思ったより若い若者だ。
「 兄ちゃん。 ビール瓶でくれや。
ここで働いてたおっちゃんはどうした? 」
「 毎度。 店は俺に任せてたまに顔出すくらいです。 」
そう聞くとおっさんは少し寂しそうになっていた。
思い出とは時間の経過により、姿、形を変えてしまうのだ。
おっさんはそう思ってるように俺は見えた。
「 ここの店長は優しくて良いおっちゃんだったんだけどな、まぁかれこれ20年以上前の話だけどな。」
格好つけて喋ってるみたいだけど、炭火で焼いている焼き鳥の煙でおっさんの顔は見えなくなっていた。
「 何でも良いけど、ここは換気扇回ってんのかよ? 絶対違法焼き鳥屋だぜ。 」
「 まぁまぁ。 ここの焼き鳥を食えば同じ事は言えん筈さ。 まずは乾杯! 」
二人でコップに注いだビールで乾杯した。
正直俺はそんなに酒は飲めない。
最近の若者って感じかな?
「 うめぇ! おい! 兄ちゃん。 適当に焼き鳥焼いて持って来てくれや。 」
「 毎度!! 」
そう言うと店長はただでさえ煙い店内で、焼き鳥を器用に沢山焼き始める。
一酸化炭素中毒で死ぬのでは??
「 にしても坊主。 今日は楽しかったな。
明日も楽しそうだな。 」
明日もと思うと早く寝たくて仕方がない。
おっさんは病人でもうすぐ死んでしまう。
の割にはゲラゲラ笑って酒を飲んでる。
( 本当は病気なんて嘘なんじゃねぇか?
もしかして俺の事からかってんのか? )
少し疑惑が生まれていた。
ただ笑ってるおっさんを見ていると、満更悪い気持ちではなかった。
「 焼き鳥お待ち! 」
皿に盛られた焼き鳥が来た。
匂いは流石は炭火かな?
あんなに煙出してるんだから、少しは旨くなかったら詐欺ってもんだぜ。
「 じゃあ、いただきます! 」
手を合わせていただきますを言う。
これは子供の時からそうしてる。
そんな俺をおっさんは優しい顔をして見ていた。
「 もぐもぐ…… ん!? 旨い!
すげえ旨い。 初めてこんなの食ったよ。 」
焼き鳥は塩で味付けされているだけだ。
でも塩や鶏肉にこだわり、炭火に焼き加減も絶妙だった。
これで80円? 肉まんより安い。
「 旨いか? ワシはこの焼き鳥沢山食って育ったんだよ。 若い頃は金も全然無くてな。 むしゃむしゃ。 うめぇ! 親父の味は受け継がれてんな。 嬉しいぞ。 むしゃむしゃ。 うめぇっ!! 」
俺にはおっさんが少し泣いてるように見えた。
炭火で目が痛かったのかな?
俺は気にせずビールを飲みながら、焼き鳥を口にいっぱい詰め込んだ。
酔ったせいなのか、おっさんと話は弾み焼き鳥をまた一本と食べる。
( 最近は1人でしか食べてなかったなぁ。
こんなおっさんだけど、1人よりはいいや。
何か今日は楽しいや。 )
俺は慣れない酒を飲み、おっさんと他愛の無い話で盛り上がった。
「 俺はなぁ、夢と野望がでかかったんだ。
それで今の地位まで登り詰めた!
だけどどうだろうか? でかかった山頂に登ると、喜びも凄かったが隣には誰も居なかった。
1人は寂しいもんだぞ?
金があっても1人ってのは。」
「 おっちゃん! モテない男はつれえなぁ。
俺もモテないけど、おっちゃんはモテない王者だな。 独り身同士仲良くしようじぇ?? 」
俺の呂律は限界を迎えようとしていた。
「 そうだな。 独り身同士仲良くな!
ワシ達は一心同体なんだ。 なぁ〜〜っ。 」
二人は酔っていた。
ばか笑いして服はビシャビシャ。
顔は真っ赤っか。 何時間飲んだのだろうか?
俺の記憶はそこで終わり、静かに眠りについた。
二人は秘書の千鶴さんにより、リムジンに乗せられて会計を済ませて家に帰る。
「 ありがとう御座いました。 またのお越しを。」
そこへ店長の親父が店に顔を出しに来た。
「 うるせぇ客だったな。 全く。 」
「 まぁまぁ。凄い仲が良くて羨ましいくらいだったよ。 父さん。 」
そう言いテーブルの上に散らかっている皿や、瓶を片付けていると。
「 ん? おしぼりリボンみたいに結んでる。
変なお客さん。 」
若店長がそう言うと、親父さんはそのおしぼりを直ぐに奪い見つめる。
「 おい! このお客さんってどんなだ? 」
「 いきなりどうしたんだよ。 車椅子に乗ったおっさんかな? 」
そう聞くと親父さんは椅子に座った。
「 そうかぁ。 来てたんだなぁ…… 。」
染々と何かを思い出していた。
おっさんと親父さんはどんな関係なのか?
そんな事は知らない俺は、すやすやとふかふかのベッドの中で眠りについていた。
最近は悲しい事があって良く寝れなかった。
その日はぐっすりと深い眠りについていた。
その寝顔はいつもより笑っていたのかもしれない。
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