第3話 おっさんと会社
会社に入るといつもの退屈な職場が。
何にもない仕事だけを黙々とするデスク。
深い関わりが全くない同僚。
最悪の職場がそこにはあった。
もう来ないと思っていたのに…… 。
「 もう大丈夫なのかい? 吉田君。 」
狸顔の上司だ。 斎藤 和巳。 40歳の課長。
建前だけの会話が得意。
俺の一番嫌悪する上司だ。
適当に返事をしておこうかな?
「 はい。 問題ありません。
迷惑お掛けして申し訳御座いません。 」
「 なら良いんだが。 」
適当に話し終わりデスクで下仕事でもするか。
書き物は得意だ。
書いてる間は無になれるから。
( お前さんはいつもこんなに一人で黙々と仕事してるのかね? )
おっさんが俺の頭に話し掛けてきた。
メガネを掛けてる同士なら簡単に出来るようだ。
( まあな。 給料貰えるし関係ないだろ?
後、勝手に話し掛けてくんなよ。 )
おっさんの声がなくなった。
満足したのかな?
これでゆっくり企画書とかも書ける。
「 吉田さん大丈夫ですか?
ずっと心配してたんですよ? 」
お茶汲みとか担当の伊藤 綾。 22歳。
彼氏は居るのか良く分からない。
心配してる自分が一番可愛いと思っている。
俺の嫌いな上部だけの女だ。
「 うん。 もう大丈夫だよ。 」
ある程度は会話しておかないと。
面倒なのが一番嫌いだ。
「 そうですか。 何かあったらいつでも言って下さいね? 私は味方です! 」
いつからだろ?
人の作り笑い。 嘘を見抜くのが得意になったのは。
ひねくれすぎたのかな?
もう裏切られるのが嫌だった。
ぶいーーん!! ぶいーーっん!
ヤバい。 またアナウンスだ。
「 コントロール権は旦那様に移ります。 」
そして俺は話す事も動く事も出来なくなった。
勝手に立ち上がる。
「 ごめんね。 色々心配かけて。
良かったらランチ一緒にしないか?
ワシの奢りでね。 」
何て事言ってるんだ。
俺の体勝手に使いやがって。
「 えっ? 良いですよ。 吉田さんと食事初めてですね。 楽しみにしてますね。 」
綾は話した後に自分の仕事場へ戻った。
やってくれたな…… 。 おっさん。
( どうだ? ワシのトークセンスは? )
おっさんめ…… 。
好き勝手しやがって。
( 興味ねぇから会話してないだけだよ。
何の為に会話すんだよ。 食事まで。 )
そうしてお昼がやって来た。
お茶汲みの伊藤と二人でカフェでランチに。
何かドキドキするなぁ。
女性と二人きりで食事なんて、学生以来で何故か少しドキドキしてしまう。
女性経験も全然だったから。
「 先輩は何頼みます? 私はサンドイッチとカフェオレにします。 」
「 俺は…… 。 ナポリタンにしようかな。
後はコーヒーにする。 」
ナポリタンなんて食べるの久しぶりだった。
俺が大好物で良く母さんに作ってもらってたなぁ。
「 先輩って意外に可愛いんですね。
ナポリタンなんか頼んで。 ここの美味しいらしいですよ。 」
「 そうなんだね。 楽しみだなぁ。 」
そして料理と飲み物が届き食べる事に。
あーむ。 もぐもぐ…… 。
「 ここのナポリタン美味しいね…… 。
ウチの母さんが作るナポリタンなんかより、全然作り込まれてて本当に美味しいよ。
母さんのナポリタンなんてね。 ベーコンじゃなくて、魚肉ソーセージだったんだよ?
本当にイマイチだったんだから笑 」
本当にここのカフェのナポリタンは美味しかった。
それと同時に母さんのナポリタンが食べたくなっていた。
本当に料理があまり美味しくは無かった。
自慢なんて絶対に出来ない。
でもその料理には俺の笑顔の為に一生懸命作る、愛情一杯の料理だった。
食べるのが当たり前になっていて全然気付かなかった。 二度と食べれなくなるなら、もっと味わって食べていればと思わずにはいられなかった。
空元気にして誤魔化そう。
まだ落ち込んでるなんてバレたら恥ずかしいからな。
「 美味しいですよね! なら良かった。 」
( 私はこの先輩があまり好きじゃない。
食事に誘う度胸なんてないと思ってた。
でも誘って来た時に満更悪く無かった。
一回くらいは好感度上げに付き合うくらいに考えて来たけど…… 。
笑ってはいるけどこの人は、まだ痛みから立ち直れてはいないのだと思った。
必死に隠してもバレバレ。 )
そして二人で食事を楽しんでいると…… 。
( ヤバい! またおっさんが俺の体使うつもりだ。
いい加減にしろよ…… 。 )
そしてコントロール権はおっさんに移った。
「 実はね。 ワシは昔から母と二人暮らしで良く好物のナポリタン作ってもらったんだ。
だから思い出の味なんだよ。
どんな良い素材を使ったナポリタンよりも、母のナポリタンは最高だったんだ。
もっと忘れないように、味わって食べておけば良かったって後悔しているよ。 」
( コイツ…… 勝手に心の中覗きやがって。
しかも恥ずかしい話をベラベラと。 )
「 そうだったんですか。 素敵な思い出ですね。
珍しいですね。 先輩の思い出の話聞くの。 」
「 ごめんごめん。 ワシは結構不器用でね。
たまには一緒に食べに来ようね。
ちゃんと奢るから。 嫌じゃなければ。 」
( 見た目は普通。 今は彼氏も居ないし、昼御飯代が浮くのなら良いかな?
仕事場で話す先輩と違って良く話すし。
案外悪くない気がする。 )
「 全然良いですよ。 また来ましょ♪ 」
「 良かったぁー 。 じゃあプリンも頼もう!
最近のドラマ見たぁ?? あれは泣けるんだよ? 」
( その後に饒舌におっさんは話をしていた。
さすがは上に立つ人間なのか?
伊藤さんもそのトークに夢中になり、笑いまくっている。
俺の見た目とかでこんなに人を笑わせたり、楽しく話せたり出来るんだなぁ…… 。 )
俺は勝手に自分では人と話したりしても、楽しくないだろうな? つまらないに決まってる。
直ぐにそう割り切って物事を考えていた。
おっさんが俺の体を使って見ていると、自分の話をしたり相手の話を聞き出したりと正直凄かった。
頑張ればこんな生き方も出来るんだと思えた。
…… 少しおっさんみたいになりたくなった。
「 本当に先輩って面白い。 あはははっ。
そんな感じで居たら普通にそう思いますよ。 」
「 そうかなぁ?? 綾ちゃんはそうじゃないの? 」
( んん?? 一瞬考え事してたら親密になってる?
綾ちゃん? おーーいっ! 下の名前で呼んでるし。
どうなってんだよ!? )
その後休憩終わるまで会話を楽しんだ。
意外に人と食べる食事は良いもんだ。
一人じゃないだけでこんなに美味しいなんてね。
意地張ってるだけで、本当は人ともっと繋がりたかったのかも…… 。
そう少し思ってしまった。
ぶいーーっん!
スマホの通知バイブだ。
「 何だ? 伊藤君からだ。 えっ!?
連絡先交換してたの?? いつの間に…… 。
また明日行きましょうね。 だと!? 」
( どうだ? ワシのトークセンスは?
モテ男の実力だな。 おっほっほ。 )
おっさんがまたメガネから通して見ていた。
自慢のつもりか? 腹が立つな。
仕事が終わり家に帰ろう。
今日は色々おっさんのせいで疲れた。
その頃おっさんは?
「 ふぅいーーっ。 楽しかったぁ。
会社って楽しいなぁ。 まだまだワシも捨てたもんじゃないな。 あっはっはっ! 」
「 旦那様。 あまりご無理をなさらずに。
お体に負担を掛けますので。 」
秘書の千鶴と話していた。
千鶴は旦那様を心配していた。
「 ワシの短い人生これに賭けてるんだよ。
だから止められないな。 これだけは。 」
何やら色々裏がある模様。
これからまたおっさんとの共同生活が続く。
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