第2話 おっさんとの共同生活


いきなりの事に俺は意味が分からなかった。


「 おっさん。 何言ってんのか分かってんの? 」


「 当たり前だろ。 何年お前より長く生きてると思ってんだよ。 バカ野郎! 」


でも意味が全く分からない…… 。

金持ちの道楽にしても、ふざけ過ぎて全く笑えない。


「 まぁ、若造の少ない頭じゃ分かんないだろうから教えてやる。

ワシの会社では体の不自由な人への未来の道具を作ったり、日々努力しているんだ。

元々はただの機械とかの開発をしていたんだが、これからは人の未来を考え開発に取り組んでいたのだ。 人の脳は複雑なもんなんだが、このメガネをかける事により、同じメガネをかけてる同士の意思を共有する事が出来るんだわ。

説明しても分からんだろうからな。

一回やってみよう! まずは実戦あるのみ。 」


美人の秘書から渡された変哲もないメガネをかけてみる。 …… 何にも変化なんて。


( ん? 体が動かない…… 。 意思はあるけど、頭も手も足も指一本動かせない。

話す事も出来ない…… なんだこれ!? )


体が勝手に動きだした。

ラジオ体操を勝手にやりだしてしまう。


( 何で言うこと聞かないんだ!

もしかしてこのメガネのせいなのか?? )


すると急に自分の口が勝手に動き出す。


「 面白いもんだろ。 これが未来の発明だ。

お前さんとワシがメガネをかけてる間は、お前さんの体はワシの思い通りに操れるんだ。

老いぼれの体では出来ない事とかな! 」


凄いスピードでバク転や側転し出してしまう。

俺にはこんな動き出来る訳ないのに…… 。

メガネを外し、体の自由がまた戻ってきた。


「 分かったろ? ワシにはもう時間があまりない。 だからお前さんのような健康な体が必要なんだ。

だから一つ頼みなんだが、体を使わせてくれたらワシの全財産をやる。 どうだ? 面白くないか? 」


このおっさん…… 。 イカれてる。

こんな見ず知らずの男に全財産?

しかも体を貸すだけで?


「 良く分かんねぇな…… 。 あんたに得はあんのかよ? 全財産失うんだろ? 」


「 健康な体で色々したいんだよ。 体はお金では買えないかけ替えのない物だからな。

しかもどうせ死ぬなら金なんていくらでもくれてやるよ。 」


そう言いへらへら笑っていた。

このおっさんは嘘なんかつきそうにない。

なら契約書に書かせれば俺の勝ちじゃねぇか?

それで俺に全財産が手に入る…… 。

一生遊んでいられる金が。

どうせ死ぬならその後でも良いよな?


「 良いぜ! なら契約書書いて貰えるか?

まさか出来ない何て言うんじゃねぇよな? 」


おっさんは少し困っている?

やっぱり出来る訳なんてな…… 。


「 ほいっ! ワシが先に全部書いといた。

後は若造のサインと判子だけだぞ。 」


えっ!? もう既に書いてやがる。

俺にとっては天国だった。

母さんが死んでから何にもやる気にならなかった。

責めて母さんの出来なかった景色を見てやる。

そして俺も死んだら、母さんに聞かせてやるんだ。

お金があればこんな事やあんな事が出来たんだって。


直ぐにサインをした。

おっさんはすげぇ笑っていた。

まぁ、別にどうでも良いけど。


「 契約成立! んじゃ名前聞かせろ。 」


「 吉田 明。 29歳。 」


明って古くさくて好きじゃない。

母さんは大好きな名前っていつも自慢してた。


「 明だな。 ワシは九条大門くじょうだいもんだ。 宜しくな。 」


九条? 九条って色んな機械のメーカーの大株主とか、幅広く機械を取り扱ってる大規模会社じゃねぇか。 数十年前に出来た会社なのに、あまりの技術とクオリティにあっという間に経済を支える大規模会社の仲間入りを果たした。

俺みたいなサラリーマンでもそれぐらいは知ってる。


その日は握手してから契約上、今日から俺もこのお屋敷に住む事になった。

俺は沢山のメイドを従える王様のような気分になっていた。

すげぇご飯にデザート。 服もすげぇ沢山。

死ぬ筈だった俺には天国にしか感じなかった。


「 どうだ? 金持ちも良いもんだろ? 」


「 そうだな…… 。 母さんにも味会わせてやりたかったな。 母さんも無理ばっかりして、全然美味しいもんや楽しい事何にもさせてあげられなかったから。 」


おっさんはその話をしっかり聞いていた。


「 …… そうか。 お前さんも色々苦労したんだな。 今日はゆっくり休め。 明日から色々大変だぞ。 」


そう言い部屋に帰って行った。

車椅子だから執事のじいさんが押して行った。

でかいテーブルには俺一人。

後ろにはおっさんの秘書みたいな美人が一人。


「 あの…… 。 あの人奥さんは? 」


「 私の名前は、三柳千鶴みやなぎちづると申します。 あなた様の専用の秘書に今日からなりました。 お見知りおきを。 旦那様はずっと一人身で御座います。 」


あんな金持ちでもモテねぇのか。

まぁ、口も悪いし顔もイマイチ? ちょっとは渋めで悪くねぇのに。 まぁ性格だろうな。

こんなお屋敷に一人とか寂しかったのかな?

色々妄想が膨らむばかり。


俺の部屋に行くとそこは最高の高級な家具が揃えられた、正に金持ちの部屋だった。


「 すげぇな…… 。 よいっしょ! 」


ジャンプしてベッドに横になる。

ふかふかで最高な気分だった。

母さんと暮らしてる時は、ずっと布団だったもんなぁ…… 。 俺は充分母さんとの生活に満足してた。

何の不満も無かった。

母さんを失って気づいた。

俺には母さんとの生活以外に、何も生きる意味なんて無かったのだ。

その日は久しぶりにぐっすり寝てしまっていた。

深い眠りについていた。


次の日。 朝ご飯を食べて会社に行かなければ。

基本は通常に生活しても良いらしい。

但し条件が。 常にメガネをかけなければならない。

それが第一条件の一つ。

簡単なもんだよな。 体のコントロール権がおっさんに移るときは、メガネから音声案内で通知が来るらしい。

メガネには小型のカメラが付いていて、俺の行動は常におっさんに監視されている。

楽なもんだな。

これで余命短いおっさんが死んだら、全財産は俺の物か…… 。

リムジンで駅まで送ってもらい電車に乗る。


「 あれ? 何で駅に? 千鶴さん。

会社まで送ってくれても良いのでは? 」


「 これは旦那様の命令で御座います。

さぁ。 満員電車へ。 」


何考えてんだろうな。 金持ちは。

まぁいい。 言うこと聞いてやるよ。

そうして俺は満員電車に乗り込んだ。

相変わらず苦痛だ。

でも何でだろ? いつもよりも心が安定している。

金持ちになったからか?

こんな苦痛があっても帰ればお屋敷だと思うと、いつもよりも楽に感じた。


電車を降りて会社へ行こう。

ん? 女の子が迷子で泣いてる。

直ぐに駅員が来るだろう。 任せよう!


ぷいーーん!! ぷいーーん!!

俺にしか聞こえないくらいの音がメガネから耳へ流れ込んでくる。


「 コントロール権は旦那様に映ります。 」


( えっ!? いきなり? 何するつもりだ?? )


アナウンス後に身動き出来ない。

またおっさんによって勝手に動き出す。


「 お嬢ちゃん。 どうしたの? お母さんとはぐれたのかな? 」


女の子はべそべそ泣いていた。


「 …… ひくっ。 うん。 ママ居ないの。 」


「 よっしゃあ! ワシに任せて。 直ぐに見つけてやるからな。 」


その女の子の手を握りながら母親を探す。


「 あかりちゃんのお母さん!! あかりちゃんが探してますよーー! あかりちゃんのお母さん! 」


( でかい声で恥ずかしい…… 。

こんな大勢の中でこんな事して恥ずかしくないのか。 だからおっさんは。)


直ぐに母親が見つかり無事終わった。


「 見つかって良かったね。 あかりちゃん。 」


「 うん。 ありがとうお兄ちゃん。 」

「 本当にありがとう御座いました。」


そうして俺は会社へ向かう。


「 どうだ? 人助けも良いもんだろ? 」


おっさんが歩きながら俺に会話してきた。


( うるせぇ! 俺の体使ってんだから、恥ずかしい事すんなよ。 後、あんまり話しかけんな!

独り言言ってる変わり者にしか見えねぇから! )


俺は話しは出来ないが、考えるとその意思はメガネをかけてる者へ共有出来るらしい。

すげぇメガネだ。 猫型ロボットみたいな道具だ。

そうして会社へ到着した。

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