俺の奇妙な自殺未遂

ミッシェル

第1話 母との別れ


母が死んでしまった…… 。


俺の時間はそこで止まっていた。

俺は29歳一般サラリーマン。

古田 明。 彼女も居なく友達も居ない。

同僚ともあまり良い関係とは言えない。

仕事も全然出来るわけでもない。

毎日怒られないようにしてるだけ。

深く関わるのは面倒なだけだ。


母子家庭で母に育ててもらった。

おじいちゃんもおばあちゃんも早くに亡くなっていて、俺は天涯孤独になってしまった。

俺が産まれる前に父とは離婚していて、一度も会った事はない。

母さんは女で一人俺を一生懸命に、朝も夜も仕事をして育ててくれた。

仕事を頑張っていたのも、母さんを少しでも楽させようとしていたが、もう意味も無くなっていた。


葬式も終わり仏壇の前で無気力で座っていた。

生きる意味を失ったのかもしれない…… 。

悲し過ぎると涙も流れない。

まぁ、楽しい事も全然無かったし潮時かな?

そんな風にマイナスに考える事が多くなっていた。


仕事も次の日から変わらずに行っていた。

上司は気にしてくれて、休みを取る事を進めてきた。 今は何かしていないと死にたくなるから、仕事をして何も考えないように働いた。

周りの同僚も気にしてくれたが、正直余計なお世話だった。

こんな時話せば、私って優しいでしょ?

ってアピールしてるようにしか見えなかった。

人は病めば病む程マイナスにしか考えられない。

堕ちる所まで堕ちるしかない。


いつものように仕事が終わり、満員電車に乗り揺られながら帰宅する。

何にも考えず家に向かっていると、電車の中で痴漢に出会してしまった。

見てみぬフリをしよう…… 。

面倒なだけだ。 誰かが助けるだろう。

女性はお尻をおじさんに触られている。

声を出そうと必死に頑張っているが、声がでないようだ。

周りは全然気付かない。

みんな本当は気付いてるんじゃないか?

人間は人の為に動かず、基本損得で物事を判断する。 だから面倒なだけだったのかも知れない。

もうすぐ降りる時間だ。

早く降りよう…… 。


母さんが言ってたなぁ…… 。


「 明。 あんたは男の子なんだから、女の子が困ってたら助けるのよ? それが男なんだよ。

女性は男性程強くはなれないの。 だから互いに助け合うの。 あんたは絶対見てみぬフリなんかしちゃダメだよ? あんたは私の自慢の息子なんだから! 」


子供の時言われた話が頭に焼き付いていた。

うるせぇな…… 。 俺はそんなに強くねぇよ。

華奢きゃしゃでケンカも弱い。

いじめられないように生きるのでやっとだ。

だから今回も見てみぬフリをしよう。

そうだ! いつものように…… 。


その時、俺はそのおじさんの手を掴み上につまみ上げていた。


「 おっさん。 痴漢してんなよ。 嫌がってんだろ? 次で降りろよ。 」


「 なっ…… 何をいきなり…… 。

お前! 失礼だぞ! 」


おじさんは逆ギレしてきた。

何で体が動いてたんだろ? 可笑しいな…… 。


「 わ…… 私。 この男性にお尻を触られてました! この男性は嘘なんかついてません! 」


若い女性は大きな声で怒鳴っていた。

勇気を出したのか? 直ぐに近くに居た男達に取り押さえられて、駅員の所へ連れて行かれて行った。

まぁ、良いところ見せたくて後から来る奴って凄い多いんだよな。

面倒だから任せて帰ろう。

俺にはどうなろうが関係ない。

ゆっくり眠りたかった。


土日は退屈だ。

仕事も無くて何をして良いか分からない。

趣味もなくテレビを見たりするぐらい。

映画は好きだけど、映画館に行く程ではない。

混むのは嫌いだ。


母さんの葬式は小さくあげてもらったが、全然人は来なかった。

同僚と昔の友達くらい。

俺の会社の上司とかそんぐらいだ。

葬式代は蓄えもあったし、母さんの保険金やらでちゃんとあげられた。

香典はあまり数は集まらなかった。

来てる人数が人数だから仕方ない。


( ん? なんだこれ? )


一つの香典の中には500万以上入っていた。

誰か間違えたのか?

だけどこんな額間違えるか?

母さんが言っていた。


「 母さんの周りには金持ち何て居ないの。

だから頼る相手なんか居ないから、必死に頑張ってたんだよ。 」


って言っていた。

母さんは嘘なんか言う人じゃない。

まぁ、どうでも良かった。

貧乏で生きてきたけど、俺は金で苦労してきたからなのか金に興味は無かった。

母さんもお金が無かったから救えなかった。

ずっと前から体を壊したのを黙っていて、悪化してしまい手の施しようもなかった。

俺がもっと早く頑張っていたら…… 。

後悔しかなかった。


マザコンなのだろうか?

俺は母さんしか居なかったから、大切に想うだけだった。

一人になると家は広く感じた。

夜になると虚無感により、気持ちはどんどん堕ちてくる。


「 そろそろ潮時かな…… 。 」


そう思い次の日休みを貰い、一人海辺に来ていた。

崖の上から見る海は綺麗だ。

心が洗われるような気持ちだ。


「 でも、もう疲れちゃったんだ…… 母さん。

もう一人は嫌なんだ…… 。 」


俺は遺書を残し、迷惑にならないように色々手配して、一人孤独に死のう…… 。


「 母さん。 今行くよ? 」


「 待てえぇーーーっい!! 」


ビックリして墜ちるのを躊躇ためらってしまう。

そこに居たのは、車椅子に乗ってるおっさんだった。 何の用なんだ?

勝手にさせろよ。


「 何だおっさん。 何の用だよ。 」


「 なぁーに、偶然海を眺めていたら胸糞悪い光景が偶然見えて、海を汚さないで欲しくてな。 」


なんだこのおっさんは?

うぜぇ。 構って来んなよ…… 。


「 関係ねぇだろ。 お前は海の守り神かよ。 」


おっさんはへなへなな足で立ち上がり、俺に語り掛けて来た。


「 若いの! 何があったかは聞かん。

どうでもいい。 だけどお前に興味がある。

一緒に来い。 」


どうせもう死んだようなもんだし、おっさんに連れられて高級車に乗り家へ向かうことに。

ベンツなのか? でけぇ車だ。

初めて乗ったなぁ…… 何の感動もないけど。


「 どうじゃ。 高級車は? 感動したか? 」


「 全然…… 。 興味ねぇよ。 」


俺には何の興味も無い。

早く全てを終わらせたい…… 。


「 ふん。 若けぇのに全てを悟ったように語りやがって。 もう着くぞ。 」


とんでもないくらいのでかい家に着いた。

庭も広くて公園よりでかい。

家はすげぇでかい。 1500坪くらいあるかも。

家に迎えられ部屋へ案内される。


「 お帰りなさいませ。 旦那様。 」


「 うむ。 この若造を部屋に案内して置いてくれ。 私も直ぐに向かう。 」


「 はいっ。 承知致しました。 」


若いとても綺麗な女性だ。

金持ちは秘書も美人なのか?

その女性に案内され、でかい部屋に座らされてしまう。

飲み物も果物も食いもんも全部旨そう。

金持ちはちげぇな。


( 俺にもこんなに金があれば母さんも…… 。)


「 待たせたな若造! じゃあゆっくりしろ。 」


偉そうなおっさんが来た。

すげぇローブの様な格好で、王様かよって感じ。


「 おっさん! 金持ちの道楽か何か知らねぇが、俺には余計なお世話なんだよ! 早く帰らせろ。 」


俺もイライラしていた。

今なら殴っても可笑しくないくらいに。


「 オラオラしやがって。 お前はオラ男か?

まぁいい。 本題に入ろう。 ワシは病気になり自由に動く事が難しい。 金や技術があろうと、もう生きてるにも限界がある。 無念でしょうがない。

んでだ。 お前の体を少し貸してくれんか? 」


「 はぁっ!? 」


俺はその瞬間から、おっさんに振り回される事をまだ知らなかった


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