第8話 浮気の代償


菜々子はおまんじゅうを食べた事を謝罪しました。

何度も何度も。

それでもジェントルは許してくれません。


「 ジェントル。 いい加減に許してよ。

スーパーで買って来てあげるから。 」


「 スーパーだと? ふざけるなぁ!

あれはなぁ、特注品で職人が手間隙かけて作った職人の技が成す、最高級のまんじゅうだぞ?

そこらのまんじゅうと一緒にしないでくれ! 」


ジェントルは不機嫌になっていました。

当然の反応です。


「 どうしたら許してくれるの?? 」


ジェントルは静かに考えました。

お金が欲しい訳ではない。

まんじゅうをまた注文するにも、日数が結構経ってしまう。

んー…… 。 その時、閃いたのです。

菜々子の唯一の取り柄は、それは刑事なのです。

刑事と言う肩書き一つが重要で、菜々子の頭や行動力は一切必要としない。


「 そんなに言うなら、今回の依頼の浮気調査手伝ってくれるかい? 」


菜々子は驚きました。

ジェントルに少しでも必要とされて嬉しくなりました。

でも、刑事に浮気調査とは…… 。


「 ジェントル…… 。 それはさすがに…… 。 」


刑事の仕事もあるし、休みはゴロゴロしたい。

ここは強い意思を持ち断らなければ。


「 じゃあいいよ。 当分は許さないから。 」


まるで子供の返答。

菜々子は焦りながら、仕方なく…… 。


「 分かったわよ。 手伝えば良いんでしょ。

私にかかれば、ちょちょいのちょいよ♪ 」


こうして菜々子はジェントルのお手伝いをすることになりました。

依頼人の依頼内容と浮気調査をする相手の写真を見せて、二人は旦那さんの働く会社へ向かいました。


仕事が終わるのが19時。

鳶職とびしょくでいつも働き、力仕事をして汗を流し働いている。

遠くから見ていると仲間と笑い合い、ときには叱ったり叱られたり。

普通に優しい旦那さんにも見える。

でも浮気をする人達は裏の顔は決して表には出そうとはしない。

それが浮気のルールなのです。


「 一生懸命働いてますね。 ボス! 」


あんパンを食べながら標的の男性を遠くから見張っている。

菜々子は変装していて、丈の長いトレンチコートに帽子にサングラス。

変装もバッチリ決めていて完璧。


「 ボスではない。 それにしてもなんだね?

そのふざけた格好は? 本当に刑事してるのか? 」


「 当たり前じゃない! 現役刑事嘗めないでもらいたいわね。 」


ジェントルにバカにされたが、へこむ事なく言い返し張り込みをしていました。


旦那さんをじっと見つめるジェントル。

ジェントルには人を見ただけである程度どんな人か分かるのだ。

これが年長者の培ってきた物なのか?


( 彼を見ていると一生懸命働く真面目な男性だ。

たまに怒りっぽくなるが、周りからも信頼され男気が溢れている…… 。

彼は浮気しているのか? )


ジェントルは静かに見つめながら大福を食べる。

口の周りを白くしながら目付きは、鷹の目のような目で見つめていました。

浮気をする男性の特徴としては、気の緩みや間がさしてしまった。

色々あるが、どれも自分勝手な理由の数々。


お昼休憩のときに、奥さんに作って貰ったお弁当をこそこそと食べていました。

そしてスマホを見つめたりして、たまにニヤニヤしていました。


「 ジェントル! あれは黒ですね。 今、浮気相手とメールしているんですぜ。 許せないなぁ。

男ってこれだから…… ゴニョゴニョ…… 。 」


ジェントルは集中していてあまり話を聞いていませんでした。

仕事が終わると一人の事務の女の子が旦那さんに話をかけて来ている。


「 あのぉ、今日この後食事行きますよね?

奥さんと上手くいってないんですよね? 」


「 …… おお。 そうだな。 行くか。 」


渋々了承して家とは真逆の夜の街へ消えて行きました。

当然二人も跡を追います。


「 ジェントル。 もう浮気だよ? 写真撮って帰らない? これで慰謝料沢山踏んだくれるわね。 」


菜々子は簡単にボロを出した旦那を見て、証拠が掴めて喜んでいました。

女の敵を倒せるのでウキウキしている。

ジェントルは返答する事なく跡を追う。


居酒屋に入り二人はお酒を飲み、良い感じに酔ってきました。

女性は旦那さんに酔っぱらいながらボディタッチが多くなっていました。

旦那さんは酔ってはいましたが、イチャイチャする訳でもなくお酒を飲んでいました。


「 そろそろ二人で何処かに行きそうだよね。

そこを押さえたら任務完了だね。 」


「 そうだね…… 。 」


二人は側でバレないように見張り続ける。

ジェントルには旦那さんの考えてる事が分かり始めていました。


「 ちょっとトイレに行ってくるね。 」


「 分かりました! ホテル予約しときますね。 」


遂に二人はホテルへ向かう話が聞こえてくる。

菜々子も女の敵を倒す為に全力を尽くす。

旦那さんは一人でトイレに行きました。


「 ジェントル。 旦那さんがトイレに…… あれ?

ジェントル?? 」


隣にはジェントルの姿はなく、何処かへ行っていました。

旦那さんはトイレに入り、直ぐに済ませて手を洗っていると隣にジェントルが来て話を掛ける。


「 少し失礼しますよ。 今日は良い夜ですね。 」


「 あ。 そうですね。 」


旦那さんは急に話を掛けられてびっくりしていました。


「 隣に居たのは彼女ですか? 」


「 いや、えぇ、みたいなもんです。 」


しどろもどろに返答をして、適当に誤魔化す。


「 私はね、色んな家庭を見てきました。

夫婦のすれ違いや育児への協力しなければいけないプレッシャー。 本当に大変ですよね。

浮気をしてしまうのは人の弱さだと思います。

間が差したなんて言い訳です。

本当に愛が無ければ良いのかも知れない…… 。

なら離婚してから付き合えばいい。

その浮気は今いる家族への裏切りなのです。

その裏切りで傷つく家族の顔を想像してみて下さい。 少しでも心が痛いのならやめる事です。 」


隣にいるおじいさんに長々と語られて、自分の事と当てはまっていてビックリする。


「 あんた何なんだ?? いきなり…… 。 」


「 いえいえ。 ただの独り言だと思ってもらって構いません。 私はあなたが毎日奥さんが作ってくれているお弁当を美味しそうに食べる姿を見て、あなたは奥さんが大好きなのだと思いました。

奥さんもあなたを大好きなのです。

どんなにケンカをしても、毎日あなたの好物をお弁当に詰める。 健気で優しいじゃないですか。

毎日あなたはお弁当を恥ずかしいから一人で食べていますね。 私は知っていますよ?

あなたは一人で食べながら辛い仕事に耐え、スマホ見ているのは家族との写真ですね? 」


図星でした。

旦那さんは愛妻弁当が恥ずかしかったのです。

でも毎日美味しく食べていました。

他人に言われる事により、有り難みに気付かされたのです。

辛いときに家族の写真を見ると元気になっていました。

ケンカしたりして嫌になり浮気したい気持ちが少し目覚めていたのかも知れません。

それは裏切りだと良く分かりました。

そして家族を裏切り、悲しむ姿を見たくない気持ちになっていました。


「 おっさん…… あんたは。 」


「 少し話し過ぎましたね。 老人の独り言ですよ。 流してもらっても構いませんよ。

失礼致しました。 」


ジェントルは帰って行きました。

旦那さんはそこに立ち尽くし、一人で考えていました。


席に戻ったジェントルは荷物をまとめ、お会計に向かおうとする。


「 ジェントル!? 帰るの? 良いの?? 」


「 少し酔ってしまいました。 帰りましょ。 」


二人は直ぐに外へ出ていきました。

家に向かいながら菜々子はジェントルを問い詰めます。


「 ねぇ。 何で? 何で証拠掴まないのよ。

奥さんにとっては証拠見つけないと幸せになれないんじゃないの? 」


「 どうでしょうね。 幸せとはお金なのか?

私は違います。 ケンカしたり色々あるかも知れないけど、大事なのは互いを思いやる心だと思います。 子供にとっても家族みんな居なくてはね。 」


そう言いステッキで地面を叩きながら歩く。

ポカーンとしている菜々子。


「 んー、良く分かんない。 依頼人怒られても知らないよぉ?? 」


探偵とは依頼人の言うことを聞き、浮気の瞬間を押さえるのが一番良いのかも知れない。

でもまだ浮気をしていなくて、気持ちが残っているのに少し道を踏み外しそうになっているのなら、少し補正してあげればいい。

お互いに想いをぶつければ、分かり合えない訳はないのです。


何故なら二人は愛し合っているのだから…… 。


旦那さんがあの後どうなったのかは見なくても分かるジェントルなのでした。

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おじいさん探偵 ジェントル ミッシェル @monk3

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