第6話 一途な恋心
次の日に二人は聞き込みに行きました。
同僚や家族。 近所の人にも。
菜々子がジェントルの聞きたいことを代わりに
聞いて、ジェントルが見極めると言う作業。
菜々子は必死に聞きました。
ジェントルは一通り聞くと、満足してこう話してきました。
「 んー、難しいねぇ。 同僚に最後にもう一度聞いても良いかい? 」
「 うん。 良いわよ。 」
そうして二人は被害者の会社へ向かうのでした。
同僚に一人一人聞いていく。
「 その日はいつもと変わりませんでしたよ? 」
「 あんまり付き合いなくて。 」
「 プライベートの話しは全然で。 」
聞いていても良い情報はありませんでした。
そして一人の若いOLさんにも話を聞くことに。
「 …… 私は全然知りません。 仲良くなかったので。 何も話せる話しはありません。 」
菜々子はそうだと思っていた返答でした。
するとジェントルが食い付いて来て、ジェントル自身が質問しに来ました。
「 お嬢さん。 少し質問しても宜しいですか? 」
「 は…… い。 どうぞ。 何でも。 」
ジェントルはどうしたのでしょうか?
「 彼氏は居ますか? 」
「 最近は全然です。 」
「 年上と年下。 どちらが好きですか? 」
「 …… 年下です。 」
「 最後に一つ。 不倫についてどう思いますか? 」
「 …… 個人の自由だと。 」
「 色々と失礼致しました。 それでは! 」
ジェントルはそう言うとすたすたと、ビルから外へ出て行きました。
菜々子も直ぐに付いていきました。
「 ジェントル。 さっきのはどうしたの?
犯人分かったの?? 」
ジェントルは何か考えているような表情をし、返答をためらっているように見えました。
「 …… 嫌。 私にも分からない事はあるからね。
もうお開きにしよう。 すまなかったね。
力になれなくて。 」
「 えっ? 全然大丈夫。 今日はありがとう。 」
二人はそこで解散して帰って行きました。
菜々子は少しジェントルが何か隠しているように感じました。
気のせいだと思い、菜々子は職場へ向かいました。
その日の夜。
昼間会ったOLが仕事を終え、帰宅しようとしているとそこへジェントルが現れました。
「 こんばんは。 昼間は色々すみませんでした。
良ければ少しお茶でもしませんか? 」
「 ええ…… 。 良いですよ? 」
話を終えてジェントルの事務所へ向かいました。
事務所の照明はオレンジ色の穏やかな明かりで、見ていると暖かい気持ちになるような感覚に陥ります。
「 紅茶をどうぞ! 」
「 ありがとうございます。 」
22歳のOL。 佐々木 都。 静かで仕事も真面目。
変哲もない何処にでも居る優しそうな女性。
「 美味しい。 体が暖まる。 」
「 そうでしょう。 あなたが何か悩んでるように見えたので、少し気になりましてね。 」
都さんは少し黙り考えていました。
ジェントルは外の景色を見ながら話し始めました。
「 私は殺人は悪い事だと思います。
でも、やってしまった人を
殺人と言うのは被害者が可哀想だと思う気持ちしか取り上げられにくい。
加害者は何故殺してしまつまたのか?
記者や警察からしてもどうでも良いこと。
加害者には人権がないように感じる事があります。
実は加害者にも色々な理由があったのかも。
やりたくなかったけど、
私は加害者が居たら言いたい。
罪を背負って生きていても、それは罪悪感から解放されずに一生その十字架を背負い続ける。
楽しい事があっても純粋に喜ぶ事もできない。
ずっと怯える生活。
少しでも被害者の家族への罪悪感や、被害者を思っているのなら自首して罪を償う事を提案する。 」
長々と語っていました。
都さんは何も話さず、じっとして聞いていました。
「 もし罪を認めて償う事をしたとしても、幸せになれるでしょうか? 」
「 人生は長い。 自分に嘘をついた者は、ずっと嘘をつき続ける生活になると思います。
少し遠回りしても良いじゃないですか?
他の人よりも遠回りでも…… 。
でも絶対に幸せは訪れます。 私はそう思います。」
そう言いジェントルは紅茶を飲みました。
都さんも静かに泣いて居ました。
ジェントルはけして振り向かず、外の夜景を見続けていました。
それが紳士の
次の日に都さんは警察署に自首しに来ました。
殺したのは自分だと罪を認めた。
菜々子はビックリしていました。
何故なら昨日聞き込みに行って、ジェントルが興味を示した人が犯人だったのだから。
都さんと被害者の男性は不倫関係になっていました。
ある日に捨てられそうになり、頭に血が上り川の側で頭を強打して川に落としたと話していた。
都さんは被害者を愛してしまっていたのです。
ダメだと分かっていても、愛とはそんなに簡単なものでもなかった。
被害者の家族を思うと、毎日罪悪感が消えずに苦しんでいたとの事。
そして自首して罪を償う道を選んだようだ。
菜々子は事件を解決し、直ぐに遺族の元へ行き全ての話をしました。
不倫のショックにより泣いていましたが、事件が解決してほっとしていました。
「 森崎さん。 本当にありがとう御座いました。
不倫はショックでしたが、何も知らないよりは絶対良かったです。 本当にありがとう御座いました。」
菜々子は家を出て公園でベンチに座り、やるせない気持ちで一杯になりました。
事件を解決するのが正義! ずっとそう思っていた。
こんなにやるせない気持ちになるとは、全く想像していなかったのです。
モヤモヤしてしまいました。
( ジェントルの家に行こう! )
何か色々分かるかも知れない。
そう思い走って家へ向かいました。
「 ジェントル! 都さん自首したよ。 」
「 …… そうですか。 それは良かった。 」
家のハーブに水やりをしていました。
「 ジェントル。 …… もしかして犯人だって分かってたの? 」
「 はい。 分かってましたよ。 」
「 いつから? 」
ジェントルはいつ分かっていたのか?
「 彼女のデスクに写真立てが置いてあって、その写真立ては倒されてたんです。
その写真は会社の社員皆との記念写真のような一枚でした。 その写真はとても良い写真には見えないような、ピンぼけした一枚でした。
でもそこに映っていたのは、都さんと被害者の男性が仲良く笑っている一枚でした。
私には彼女の笑顔は恋する女性にしか見えませんでした。 根拠はその写真と彼氏が居なかった事。
あんなに綺麗な女性を、会社の同僚や周りがほっときません。
なのに彼氏が居ない事に少し引っ掛かりました。
それと彼女の顔はずっと泣いてるように見えたから。 」
菜々子はあの聞き込みだけで、そこまで分かったジェントルにビックリしてしまいました。
それと都さんの報われない愛に悲しく思いました。
それと愛していた男性を殺す事がどれだけ苦しいか?
菜々子は事件の表面的にしか見えていなかった事が良く分かりました。
都さんの恋は純粋な気持ちしかなかったのです。
「 彼女は罪を償えば幸せになれるかな? 」
「 分かりません。 ただ…… 罪を認め償えば、絶対に諦めなければ幸せは訪れる筈です。
どんなに回り道をしたとしても。 」
ジェントルはそう思うのでした。
「 ぐすっ! 悔しいなぁ…… 。 悲しすぎて涙が止まらんっ。 ずびーっ! 」
鼻をかみながら、涙で顔はくしゃくしゃに。
「 新しいハーブティーでも飲まないかい?
暖まるよ。 」
「 …… 飲む。 ぐすん! 」
菜々子はまた一つ大人になれた気がしました。
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