第4話 探偵ジェントル


その探偵事務所はレトロのような一軒家を改装して作ったような見た目でした。

見た目だけで分かる、人によっては汚い古い事務所に見えるかも知れません。

でもその探偵事務所は掃除も行き届いており、手抜きは一切していない綺麗な事務所でした。

中の電気もレトロの優しいオレンジ色の光が部屋を包み込んでいました。

菜々子は中へ入ると、その空間に魅了されてしまいました。

匂いも独特のフレグランスやハーブ、いつでも飲める自家製のコーヒーの匂いが漂っていました。


( すごーーい…… 。 テレビみたいなオシャレな事務所なのね。 )


ジェントルはスーツを脱ぎ、少しラフな格好になりテーブルに案内してくれました。

その姿は菜々子にとってはラフではない。

紳士のラフな格好でした。


「 お嬢さん。 この前依頼してくれましたね?

ありがとう御座いました。 半額のまんじゅうでしたけど、私には美味しかったですよ。 」


皮肉混じりに話してきた。

菜々子は少し恥ずかしくなりました。


「 …… ごめんなさい。 あなたが本当に居るとは思っていなくて。 子供の嘘かと思ってて、あんな物置いてしまったんです。 」


見苦しい言い訳をする。

ジェントルは紅茶と自家製のクッキーを持ってきてくれました。


「 良ければどうぞ! お口に合うかは分かりませんが。 」


「 お言葉に甘えちゃって。 いただきます! 」


あーむ。 もぐもぐ…… そのクッキーはサクサクで出来立ての最高級クッキーのような味わいでした。

下品だと分かっていても、手は止まらずに食べ続けてしまいました。


「 美味しい。 美味しっ! んぐっ。 喉に詰まっ。」


「 沢山あるのでゆっくり食べて下さい。

ほら。 紅茶をどうぞ。 」


ハムスターのように頬を膨らませながら、喉に詰まってしまったクッキーを紅茶で流し込む。

ゴクリ。 …… 最高の味でした。

紅茶も事務所の外で栽培しているハーブとかを使って作った、自家製の紅茶でした。

菜々子は来た理由を忘れてしまう程楽しく過ごしていました。


「 それにしてもお嬢さん。 私の事を探って何を考えていたんですか? 」


口の中を整理して本題に戻る。


「 すみません。 この前の指示通りやりましたら、犯人を捕まえられました。 ありがとうございます。 それであなたの事が気になり、あなたの後をつけてしまいました。 本当にごめんなさい。

あっ! 私の名前は、森崎 菜々子です。

宜しくお願いします。 」


ジェントルも自分専用のふかふかソファーに座り話を始めました。


「 いえいえ。 気になさらずに。 菜々子さんは依頼内容が気になり少し調べてしまいました。

私の名前は、乾宗次郎そうじろうと申します。 お見知りおきを。 」


菜々子はその風格に圧倒されてしまいました。

菜々子は本題の事件の話をしました。


「 乾さん。 実はまた依頼があって…… 。 」


「 刑事のお仕事はこの前ので最後です。

私の仕事は趣味のような物です。 刑事なんですから自分でどうにかした方が宜しいのでは? 」


確信を突かれてしまいました。

菜々子がどうにかしていたのです。

事件の内容を外部に漏らして、しかも探偵にお願いしてしまうなんてもっての他でした。


「 そうですよね。 でもあなたの力が凄くて協力して欲しくて…… 。 」


「 人と言うのは弱い生き物です。 一度頼って甘えてしまうと、何かしようとすると絶対その選択肢に頼ってしまうのです。 だからあなたは次の事件になったら直ぐに私を頼ってしまった。 その仕事はあなたの仕事です。 自分で何とかしないと。 」


全くと言ってその通りでした。

事件を探偵にやってもらうなんて、恥ずかしいばかりなのでした。


「 そうなんですけど、私…… 絶対に被害者の家族の為にも犯人を捕まえたくて。 半人前でおバカなのは分かってます。 それでも早くしないと犯人が分からなくなるから。 だから…… 。 」


ジェントルは立ち上がり少し表情が強ばりながら話してきました。


「 お嬢さん。 最初から出来る人なんて居ませんよ。 一生懸命やってればいつかは答えが見えて来る物なのです。 上司に聞いたりして頑張ってれば。」


菜々子はいきなり立ち上がりました。

勢い余って立ち上がったので、椅子の引きずる音が響き渡りました。


「 分かってます! そんな事全部分かってます。

上司も頑張ってるけど全然分かんないんです。

あなたに分かりますか? 毎日毎日足を運んで、聞き込みに行っては何も分からない。

被害者の家族は解決するまでずっと傷が癒えないんです! あなたみたいな能力があって天才には道楽程度にやってるのかも知れないけど、私には違うの!!

誇りをもってやってるんだから! 遺族がまた本当に笑う為には事件を解決するしかないんだから。

こんなおバカな事やってでも解決したいの。

どうせ笑ってるんでしょ?? 無能でおバカだもんね。 それでも解決したいの! 何がジェットだかジョッキーだか呼ばれて喜んで。

あなたはね。 自分の能力に酔ってるだけよ!

ちゃんと使わないなんてズルいわよ!

失礼致します。 」


泣きながら必死に自分勝手な事を言いまくり、事務所を勢い良く出て行きました。

ジェントルはその場で立ち尽くして居ました。


菜々子はやるせなさで自分勝手な事を言ってしまっている事は充分承知していました。

ジェントルみたいに頭良いのに、全く協力的ではない態度に頭にきてしまったのでした。

自分にもしもジェントルのような頭があれば……

そう思わずにはいられませんでした。

劣等感を残しつつ菜々子は家に帰りました。

その日はやけ食いでカップラーメンを二個も食べて、ビールも沢山飲み眠りにつきました。


次の日。 休みではあったのですが、プライベートで聞き込みに行っていました。

せめて自分は足を運ぶしかなかったのでした。

周りの同僚に聞いても恨まれても居なく、悪い噂も殆どないので行き詰まってしまいました。


いつの間にかまたあの公園へ。

椅子に座っていると、いつもの子供達が遊びに来ていた。


「 おばさん。 また来たの? 」


「 お姉さんだって! 私はジェットには興味ないのよ…… 。 あんな自分勝手で道楽おじさんなんて。」


とは言いつつも自分が悪い事が分かってるので、罪悪感でいっぱいになっていました。


「 おばさん。 ジェントルは自分勝手なんかじゃないよ! ちょっと待っててみてよ。 」


子供がそう言い、子供達は達は遊び始めました。

菜々子はその話を聞いて、信じて椅子に座り待つことにしました。

やることもないので。


すると、そこへジェントルが現れました。

ダサイ昔の自転車に乗りながら。

荷台には何やら四角い箱を乗せて。


「 さぁ。 みんなぁ。 いつもおまんじゅうありがとう! 今日は週に一回の紙芝居の時間だよ。 」


そう言うと、子供達が群がるように集まって来るではないですか。

ジェントルの周りには子供達でいっぱいに。


「 ジェントル。 きょうはなによんでくれるの? 」

「 ジェントル! いつものアイスちょうだい。 」

「 ジェントル。わたしはしらゆきひめよんでほしいの。 」


子供達が一斉に要望を言いました。

ジェントルはニコニコしながら、みんなに飽きないようにとアイスを配り紙芝居を読み始めました。


「 今日のお話は100万回生きたネコだよ。 」


そう言うと拍手が起こり紙芝居が始まる。

子供達はアイスを食べながら静かに紙芝居を見ていました。

菜々子もジェントルの話に夢中になっていました。

段々聞いている内に、ジェントルの優しさや子供を想う気持ちが伝わり、涙が止まらなくなっていました。

自分が上手くいかないからといって、人に当たってしまった事を恥じていました。

ジェントルの紙芝居を静かに遠くから見守っているのでした。



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