第3話 探偵事務所


そこから日にちは過ぎ、菜々子は忙しさのあまりジェントルの存在を忘れていました。

刑事の仕事は派手なのはたまにしかありません。

上の人達はもっと全線で頑張っています。

菜々子のような三下刑事はそう簡単には混ぜてはもらえません。

殺人事件なんて扱った事なんか一度もありませんでした。

そんなある日。


「 おい! 菜々子。 近くで水死体が出たぞ。

俺達で扱う事になった。 行くぞ! 」


天パー刑事の指示により現場へ向かう事に。

菜々子は初めての殺人現場でドキドキしていました。


( 怖いなぁ…… 。 こそ泥とは桁が違うぞ。

死体とか見ないとダメかな? 怖いなぁ。 )


心の中はまだまだ甘ちゃんデカ。

みんなで直ぐに覆面パトカーに乗る。

運転は新人の役目。

先輩達の運転チェックが厳しい。


「 じゃあ行きますよー。 」


ガクッ! ブブブーーンッ!

下手くそなジグザグ走行をして、たまに謎のストップをしたりしながら現場へ向かいました。

車内では天パー刑事の罵声が響き渡りました。

新米は本当に大変なのでした。


10分で着く現場へ30分掛かりながら到着。

車から出てきた男達は酔ってヘロヘロに。


「 おぷっ。 気持ち悪っ! 菜々子は帰ったら運転の練習だ。 バカ野郎! 」


「 …… はい。 分かりました。 」


落ち込みながらも事件は待ってはくれません。

直ぐに川から打ち上げられていた水死体の所へ。

恐る恐る菜々子が顔見る。


( ひえーーっ! やっぱり怖い。 何で刑事になったのかなぁ。 )


その水死体は沢山水を飲み、顔は白くなり手足ももう冷たくなっていました。

身内の葬式で見る整った死体とは訳が違います。

菜々子は手で目を塞ぎながら立ち合いました。


死体のポケットに入ってあった財布により、免許証が出てきて直ぐに身元が分かりました。

立花 五郎 37歳。 妻と子供が一人居ます。

昨日から仕事の帰りが遅いため、妻からの捜索願いが出ていて現場近くの住民の通報により直ぐに見つかりました。

後で親族に遺体の確認の為、来て貰わなければいけない。

これがとてもキツい仕事です。


「 菜々子。 後は俺らでやるから、遺体を調べて貰ってから家族に確認の為呼んでおけ。 」


( えっ!? 私が? キツ過ぎる…… 。 )


天パー刑事の言うことは絶対!

逆らえば昔ながらのゲンコツを貰ってしまう。

仕方ないので遺体を鑑識に回して、家族に電話するのでした。


奥さんは直ぐに来ました。

顔を確認すると、直ぐに本人と分かり座り込み泣きわめいてしまうのでした。

菜々子は新米刑事でメンタルも弱い。

もらい泣きしながら慰めました。


「 ひっぐ! あっ…… の。 えぐ! 大丈夫ですか? ひっぐ! ひく。

良かったらハンカチ使いますか? 」


泣きながらどうにか慰めようとハンカチを渡そうと思いました。


「 本当に刑事さん? ぐすっ。 ポーカーフェイスぐらい出来ないとダメですよ。

ハンカチはあなたが使った方が良いわね。 」


被害者の家族に気を使われてしまいました。

菜々子は恥ずかしくて仕方がありませんでした。


少し落ち着いて詳しい話を聞きました。

いつも仕事が終わると21時くらいには家に帰って来るのだそうです。

その日は夜中になっても帰って来ませんでした。

GPSを確認しても電源が入っていなくて分からなかったそうです。

なので警察に捜索願いを頼んだのです。


「 そうですか…… 。 詳しいお話ありがとう御座いました。

後はこちらで調べますのでお任せ下さい。 」


「 …… はい。 宜しくお願い致します。 」


刑事はこの瞬間がとても苦しくなります。

絶対に捕まえられる保証もありません。

なので絶対捕まえてみせます! とは絶対口が裂けても言えません。 それが辛いのです。


「 刑事さん? 絶対に捕まえて下さいね。 」


出た。 普通の刑事なら軽くモヤモヤさせて流して話してしまうと思います。

菜々子は素直なまだまだ新人。

世の中のリアルをまるで分かっていません。

なので出た言葉は?


「 絶対に捕まえてみせます!! 任せて下さい。 」


そして約束をして被害者の奥さんは帰って行きました。


( はぁ…… 。 絶対って言っちゃった。

天パーに見られてたら大目玉を喰らう所だったわ。)


近くで隠れて聞いていた天パー刑事が現れました。


「 バ…… バッ……… バカ野郎!! 」


署には天パーの叫び声が響き渡りました。

菜々子の頭の中にバカ野郎の言葉が焼き付いてしまう程に。

その後に菜々子はみっちり三時間叱られてしまいました。


帰りにボロボロで帰ろうとしていると。


「 大丈夫ですか? 森崎君。 」


佐伯警部補でした。

菜々子を気にして外で待っていてくれたのです。


「 良かったらこの後に一杯やりませんか?

今日は私の奢りです。 」


「 佐伯さん…… 。」


本当に佐伯さんは優しいお父さんのような存在。

二人で居酒屋に向かいました。

直ぐにお酒が回って酔っぱらう菜々子。


「 佐伯しゃん! 私だって頑張ってんですよぉ?

でもね。 空回りばっかり。 天パーも私を目の敵のように怒るし! やってらんないれすよ。

遺族を思えば言いたくなるんれす。

あいつには血の涙も無い男なんです。 」


呂律も回らず酔っぱらい、愚痴を沢山吐き出してしまいました。


「 おっほっほ。 彼は少し厳し過ぎますね。

彼の気持ちも分かってあげて下さい。

遺族を思えばこそ、安易に喜ばせる言葉を話せない辛さ。 彼はそれを良く分かってるのです。

だから…… 。 寝ちゃいましたね。 」


菜々子は泣きべそかきながら寝てしまいました。

本当にどうしようもない新米さんでした。

佐伯警部補がおんぶをして家まで送るのでした。

新米は誰でも通る登竜門。

その辛さや苦しみを乗り越え、立派な刑事になるのです。

だから佐伯警部補には菜々子が可愛くて仕方がないのでした。

ニッコリしながらゆっくりと菜々子のアパートに歩いて行くのでした。


次の日。


「 むにゃむにゃ。 ん? やばっ!! 寝ちゃった。 またやっちゃった。 仕事へ行かなければ。 」


今回が初めてではありません。

佐伯さんには迷惑かけっぱなしでした。

直ぐにカロリーメイトを咥えながら署へ。


署に着き佐伯に謝りました。

佐伯さんはいつもと同じくニッコリ笑っているだけでした。

菜々子は昨日の酷い行動を恥じて、約束を守る為に必死に足を運び聞き込みに。


現実は厳しいものでした。

全然恨まれる男性ではなく、加害者の心当たりは全く無かったです。

誰に聞いても良い話しは聞けずにいました。

奥さんに変わった事は無かったか?

と聞いたら殆ど何もなく、唯一あったのは帰りが最近少し遅くて残業が多かったとの事。


「 はぁ…… 。 全然分からないわ。 」


菜々子は公園のベンチに座り絶望していました。

自分のやるせなさや、不甲斐なさを恨むのでした。

すると子供達が電話ボックスに入って行きました。


「 ん? またジェットだかにお願いに来たのね。

…… ジェットに会いたいなぁ。 」


菜々子は弱音を吐きながら電話ボックスを見続けていました。


その日の深夜0時。

いつものようにスーツをびっしり決めた、ステッキを地面に着けながら紳士が一人歩いて来ましたを

おまんじゅうと依頼の手紙を鞄に入れ、ステッキを鳴らせながら帰って行きました。


遠くからこっそり菜々子が草むらから覗いていました。


( ジェット。 あなたの家見つけてやるんだから。 )


菜々子はジェントルの家を突き止めようとしていたのでした。

少し歩いて行くと小さな家のような所へ入って行きました。


( ん? あの白髪のおじいさん。 ここに入って行ったわね。 探偵事務所?? )


そこには小さいながらも探偵事務所があったのです。


「 お嬢さん。 夜は冷えるので良ければ中で暖まりませんか? 」


なんと!? 菜々子の下手くそ尾行がバレていたのでした。

誰でも分かるかも知れませんが…… 。


「 …… お邪魔します…… 。 」


これがジェントルとの初めての出会いでした。



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